02


―――フイイィイイ


「怪我してるのに大丈夫かな」
「此処に留まるのなら働いてもらわないと。食料も何もかも、足りているものなんてないんですから」
「しかし、あっちのでかい方と嬢ちゃんが来ると思ったんだがな」
「神威とやり合った2人ね」
「特にでかい方は血の気が多そうだったから」
「黒様は行きたがってたんですけどー、オレがお願いしたんですー。サクラちゃんまだ目を覚まさないし、オレと小狼くんで行きたいですーって。緋月ちゃんは神威くんとお話したいことがあるみたいだったしー」
「黒鋼と緋月、お留守番ー」
「ねー」
「ねー」
「一緒に頑張ろうねー、小狼くん」
「は、はい」




「小狼くんとファイくん、今頃お仕事してるのかな」


ファイくんからのお願いというのは、"やってほしいこと"には小狼くんと2人で行かせてってことだった。もちろん、黒鋼くんは反論しようとしてたけどねー。
僕も興味がないわけではなかったけどー…神威さんの、あの何か言いたげな瞳が気になったから。
それに少しだけ…思い出したこともあって、快く受け入れたんですよ。

と、いうわけで。僕は神威さんを探している最中なのだけど、一向に見つかる気配がない。…もしかしたら、地下にいるのかなぁ?


―――ピクンッ…

「姫、さん……?」


一瞬だけ、彼女の気配を感じた気がした。でも周りには誰もいない…いた気配もないのに、どうして?それにきっと、彼女はまだ眠っているはずだもの。
だけど…まだ感じる。間違いなく、姫さんの気配だ。下……水があると言っていた、地下から。

僕はその気配に呼ばれるように、フラフラと足を進めた。行かなきゃいけない気がしたから。その場所に行って、確かめなきゃいけないような気がしたから。
地下へは―――許可された人しか、入れないことも知らずに。


―――カツーン

―――カツーン


何かに導かれるように階段を降りて行くと、たくさんの水が見えた。
…コレ、どうやって溜めてあるんだろう。ただココにあるってだけみたいだし、特に貯水槽ってわけでもなさそうだけど。

だけど―――此処から強い力を感じる。

姫さんの気配と、羽根の波動と、それと…誰かと似たような気配も。
誰?一体、誰と似ているんだろ…姫さんじゃないのは確かだ。小狼くんでもない、黒鋼くんでもないし、ファイくんでもモコでもない。でも確かに知っている気配。


―――シャッ…

「っ?!!」
「…此処で何してる。やっぱり狙いは"ココ"だったのか」
「神威、さん……」


いつの間に背後に立たれていたんだろうか。全く気がつかなかったよ。
喉元に当てられている、鋭利な刃物のようなもの。ビリビリと大気までも揺らすような、凄まじい殺気。
あー…これ、僕殺されちゃうかも。なーんて、他人事のように感じていた。
水に興味はない。これは嘘偽りのない、本当のことだ。けれど、此処に来てしまった以上…何を言っても信じてもらえない気がする。
それでも目的のモノは、この水の中にある可能性が高い。
だとすると、ちゃんと理由を話しておくべきなのかしらね。聞いてくれるかは別としても。

考え込んでいる時、フワリと感じた神威さんの気配。
水の底から感じる、姫さんではない誰かの気配と…似ているような気がした。でも神威さん本人じゃない。と、いうことは―――


「神威さんが守ってるのって…水じゃ、なくて」

誰か、大切な人?

「………っ?!」


一瞬だけ、怯んだ神威さん。
その隙をついて、拘束されていた彼の腕の中から抜け出した。…うん。首も傷はついてないみたい。
ふう、と一息ついて…改めて、神威さんに向き直る。さっきほどの凄まじい殺気は感じないけど、でもまだ警戒されてる。
そりゃまぁ、警戒して当然だよねぇ。


「……お前、昔に会ったことがある」
「え?僕、と…?」
「姿は変わってるけど、気配が一緒だ。…覚えていないのか」


―――…知ってる。ワタシは確かに、この人を知ってるんだ。
昔、一度だけ会ったことがある…この人と、この人の大事な人に。

まだ"僕"ではなく、"ワタシ"だった頃に―――見えた、吸血鬼の双子。


…おまえ『エ』だろう


カチリ、とピースがはまった感覚。同時にその時の記憶が、鮮明に蘇ってくる。
昨日までは思い出せなかった、でも確かに覚えているんだ。名前は名乗らなかったけど、この顔には…覚えがある。


「そっか……だから、初めて会った時に僕のことを見てたんだね」
「最初は半信半疑だったけど、気配だけは…昔と同じだ。変わらない」
「―――ねぇ、『エ』ってなぁに?」


確か小狼くんにも、同じことを言っていた気がする。それに昔も、言われたんだ。


「『エ』は……餌だ」
「餌………もしかして、エサのことなの?」
「知らないのか。餌は、血を糧とする者が食料として飼う、魂のない…人の形をしたまがい物」


人の形をした…まがい物。
…僕は食料として飼われているわけじゃない。だけど、それと何ら変わりない。僕の体は所詮、あの方から与えられたもので…あの方の所有物。

自分の意思を持つことを認められず、魂(ココロ)のないただの器―――あの方がずっと作り続けているのは ソレ だ。悪魔の双子も、その中の一人。


「食料じゃない、けど…似たようなものかも」
「お前―――…変わっていないな」
「……?」
「あの時と同じだ、迷子のような…瞳」

何かを探しているようで、何を探したらいいかわからない…
居場所を求めている―――迷子。

「探してるもの、なんて何も―――…」


そう。僕は探してるものなんて、何もない。だって、僕は最初から何も持っていないから。失うものなんて、1つも。
僕の全ては、あの方から与えられたもの。僕だけのものなんて、何もないんだよ。今までも、これからも。
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