消えた想い
お願い、小狼くん…っ
"自分"を失わないで、繋ぎ止めて!
そうじゃないと本当に戻れなくなってしまうの。
キミはワタシのようになってはダメだよ…。
皆を―――悲しませちゃ、ダメなの。
右目の封印が、切れる
あれは、捕らえたクロウ・リードの血筋である『小狼』を元に作った写身。羽根を集める為に。
羽根を玖楼国の姫に戻す為なら、何事も厭わぬように。阻むものは全て排除する。そう作った。
―――しかし
本体である"彼"は、写身に自分の心を写したの。暴走をさせない為に。一種の、賭けに出たんだ。あの子は。
でも…飛王様にとっては、そんなのは大した問題ではなかった。羽根を集めるという目的さえ違わないのならば、他者の心が宿っていても関係がないから。
…きっと、小狼くんが姫さんに出会ったのは…決められた、道筋。羽根を集めさせる為に、遺跡の力とやらを手に入れる為に。
あの魔女が阻むまでは。
いとも簡単に神威さんの腕を引きちぎった小狼くん。そんな残酷なこと…出来る子じゃなかったのに。
…わかってる。今の彼は僕が知っている"彼"じゃないことくらい。全て―――わかっていたことじゃないか。
それでも…失ってほしくないんだ、その心を。想いを。
だって、いくら他人に与えられたものだからといっても…僕達にとっては真実なんだもの。姫さんにとっての『小狼』は、彼だけなのよ。
―――ポゥ…
(右目の魔力が消えかけてる)
(この感じ……"彼"が、来る)
小狼くんの右目に施された魔力が、消えかけている。それはもうすぐあの子が此処へやって来るということ…封印が切れてしまうということ。
そうなってしまったらもう、戻ることなんて出来ない。今度こそ本当に、心を失ってしまう。
ザザザ…と、水が引いて、僕達を囲うかのように水柱が立ち上る。
「ゲホッゴホ…ッ」
「大丈夫?緋月ちゃん」
「…平気。それより―――…」
「うん。わかってるよ。緋月ちゃん、力を…貸してもらえるかなぁ?」
「もちろん」
確かに今の小狼くんの内(ナカ)にあるのは、あの子から与えられたもの。
でも―――その心は、キミのものなんだよ?キミと姫さんや、キミを愛する人達で作った大切なもの。
―――ギュッ
魔力を使う準備をして、ファイくんの手を強く握る。
目を閉じて集中すれば、交じり合う蒼と紅。ファイくんの指から放たれる2人分の魔力が、切れかけている封印を再び戻そうと魔法陣を囲むけれど。
力の差は歴然で、どれだけの魔力を注ぎ込んでも敵いそうにない。
「っん…く……!」
「頑張って、緋月ちゃん…っ!」
―――瞬間。封印の魔法陣を囲んでいた、僕達の魔力が…押し負けたかのように弾け飛んだ。
切れて…しまった。あの子の施した封印が、もう何の意味を成さないものへと変わる。
こうなってしまった以上…再び、繋ぐことは出来ない。
「(そんなこと、よくわかってる。でも―――)」
コロリ、と転がった"彼"の心の半分。今まで小狼くんの心と、想いとなっていたもの…。
もう一度、コレを小狼くんの内(ナカ)へと戻すことが出来れば。
難しいことかもしれない。無理かもしれない。…わかってはいる、けど…それでも僕は賭けたい。可能性に。
心の半分をギュッと握り締め、小狼くんを見据える。
じっとこっちを見つめたままだった彼が、不意に動いた。ファイくんに、蹴りをくらわすつもりだ。
彼は気がついていない、小狼くんの瞳を見つめているから。あのまま、まともに蹴りをくらったら…無事に済むはずがないっ!
本能のままに、体が動いた。
「ダメ…っやめて、小狼くん!!!」
「緋月ちゃんっ…?」
―――ゴッ!!!
―――メキッ……ミシミシ…ッ
「っい…ぁ―――…!」
何とか吹っ飛ばされずに、堪えることは出来たけど…嫌な音、したなー…。
確実に骨が何本かイッたと思う。込み上げて来る血の味が、その推測に現実味を帯びさせる。
ダメ、だ…立ってることが出来ない……っガクン、と膝から崩れ落ちる。
さぁ、これからどうする?どうすれば、いい…?
「この世界に羽根はあれだけか?」
―――グイッ
「緋月ちゃんっ」
「ハ…ハァ……ッ」
「…お前達、魔術を使うな」
―――男は、その目
―――お前は、その髪と血と…目が魔力の源
「な、にを…する気……?」
「お前には立場をわからせる為に、痛めつけろと言われている」
「―――――…っ?!」
羽根を取り戻す為に、
これらも必要か