迫り来る死神


 side:黒鋼


姫を抱え、牙暁とかいう奴と一緒に地下へと続く階段を下る。


「都庁を守っている結界が消えました。地下の貯水槽に何かあったようです」
「何かってなんだ」
「わかりません。全てを夢で視られるわけではありませんから。けれど、皆そこにいます。貴方と一緒に来た人達も…」


何が起きているのかさっぱりわからねぇ。
牙暁(コイツ)が言うには、今姫の魂は眠っているらしい。魂が眠っているから、息が止まった…ってことらしいが、難しいことはよくわからねぇ。
ただ、このままだとマズイってことだけは…よくわかる。

全員、地下にいる。

小僧とへらいのが外に出て行った後、いつの間にか緋月の姿が見えなくなっていた。
何も言わずに、フラリと姿を消して…そのまま。
さっきの言葉が正しいなら―――緋月も地下にいるってことになる。…傷ついてなけりゃ、いいんだが。
階段を下りきると、でかい扉にぶち当たった。貯水槽とやらはこの先か!


「此処だな」

―――ギィッ

「許可なく武器を持ってこの中には入れません」


こんな非常事態の時まで、んなのを守るのか!…が、今は構っている時間すら惜しい。仕方ねぇが、従うしか術はねぇ。
扉に刀を立てかけ、更に続く階段を駆け下りれば。姫の体が、腕の中から消えた。


「消えたぞ!!」
「恐らく、この水の中にある魂の元へ移動したのだと…」


意味がわからねぇが、とにかく下に…っ
下りていけば、この建物の奴らが水柱を見上げていた。
だが小僧も、へらい魔術師も―――緋月もそこにはいない。いたのはガキに抱えられている白まんじゅうだけ。


「黒鋼!小狼とファイが水から出てこないの!!緋月も中にいるみたいなのっ」
「…っどけ!」


どうなっているのかはわからねぇが、飛び込むしか手はねぇ。
端まで駆け寄った時、突然水が弾け飛んだ。


「…なん…だ……」


水柱が消え、徐々に視界が開けていく。
確かにそこには小僧と、へらい魔術師と、緋月の姿があった。だが―――――2人は 血まみれ だった。


―――グチュ…

―――グチッ


静かな空間に、嫌な音が響き渡る。
小僧の手と頬、へらい魔術師の左目、緋月の首筋が…赤く染まっている。
極め付けは、小僧の髪と目の色―――…


「目が…青い……髪も赤みがかかってるのか……?!」


不意に、小僧がへらいのの体を持ち上げ、右目にも手を伸ばした。
まさか…もう片方の目も奪う気でいやがるのか?!へらいのは完全に意識を失っているのか、抵抗する様子も、動く様子もない。

このままじゃ―――抉られる。

そう思った瞬間、体が勝手に動いていた。


「やめろ!!」
「ダメ…ッ」


抉ろうとしていた小僧の手を止めた時、血だらけの緋月がへらい魔術師を抱きかかえていた。
首筋は刀で斬られたのか、いまだに血が止まる気配がねぇ。…早々にカタをつけて治療をしねぇと、どっちもマズイ。
ゆっくりとこっちを向く小僧の瞳には、何も宿っていない。ただ、虚無があるだけだ。…レコルト国で、見た時のように。


「喰ったのか、そいつの目を。緋月の髪を」

―――ゴッ!!!

「黒、鋼く……っ」
「ゴホッゲホッ」
「右目も、女の両目も貰う」
「…そいつらを寄越せ」
「魔力の源は、両の蒼と紅い目。両方取り出せば用はない」
「寄越せ」


掴んでいる腕を、一層強く握ってみても…小僧の表情は少しも変わらねぇ。
何も―――感じていねぇのか。目の前に血だらけになっているこいつらがいるのに、何も。

小僧であって、小僧ではねぇ…そういうことなのか?

いまだに離されない小僧の手が、魔術師の体から離れた…ホッとしたのも束の間。
すでに思うように体が動かせなくなっている、緋月の目へと伸びる。


「…っぁ………!」
「てめっ…」

―――ガッ
―――ブンッ

「緋月っ!」
「くろが、ねく…どうしよ…ファイ、くんが―――!」
「じっとしてろ。首だけ止血する」


壁に激突した小僧の右腕は、ぶつかった拍子に折れたのか赤黒く変色している。それなのに…平然と立ち上がりやがった。
とにかく、先に緋月の首の出血をどうにかしねぇと。へらいののは俺にはどうにも出来ない。だったら、今どうにか出来る方からやっていくしかねぇだろ。
首からかけているだけだったネクタイを、傷口に巻きつけていく。
これでどうにか出来るわけじゃねぇだろうが、何もしねぇよりはまだマシなはずだ。苦しくならねぇ程度の力で結べば、ひとまず完成か。


「おまえ…小僧じゃねぇな。『気配』が違う。けど、違う奴じゃねぇ」
「羽根は取り戻す。必ず」
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