君に捧ぐ


―――トンッ


「(何かが反射していたような光…この辺からだったような、気がするんだけど)」


逃げるようにリビングから自室へと戻り、彼の気配が自室に消えるのを待って。私は窓からそっと抜け出した。
普通に玄関から出ればいいんだろうけど、そうすると…すぐにバレてしまうだろうからやめた。…まぁ、窓から出て行ってもバレてはいるんだろうけれど。

この国に来て、もう3ヶ月が過ぎた。
最初の頃は疲れてしまっていたのか、部屋に戻るなり泥のように眠っていたんだけれど。
ここ最近は、寝付きが良くない。ベッドに横になっても、睡魔は一向にやってくる気配はないし。明け方になってようやく、少しだけ眠れる。
…だから、いつからか私は散歩に出かけるようになった。危険を承知で。羽根を探すことも出来るしね。
そして今は―――私達の行動を、見張っている奴らの捜索だ。

さっきリビングの窓の外で、何かが光っているのを見た。何処かのビルの窓際でチカチカと。
黒鋼さんは今まで私達の旅を見ていた奴らかも、と言っていたけど…それはない。
この国にあの方の気配はないし、こんな見つかりやすいことはしないから。明日のチェスの相手、とも確かに考えられるけど…それも違うだろうね。きっと。


「…そうなると可能性が高いのは、このチェスの主催者かな」


…でも、何故そんなことを?私達を見張った所で、何か有益な情報が得られるとは思えないし…意味もないハズだ。
もちろん、あちらに得なんて存在しないだろうし。そう考えると、ますます謎が増すばかり。

考えても仕方ないか…きっと、悩んで考えた所で正解なんて見つかるわけないんだから。
それなら考えるだけ無駄ね、確実に。
今しなきゃいけないのは、チェスに勝つこと…そして姫様の羽根を見つけることだ。


「羽根の波動は感じる……でも場所が特定出来ないな、やっぱり」


羽根の波動を追ってはみるけど、いつも辿り着くことが出来ない。途中でぷっつりと途絶えてしまったり、何者かに邪魔されたりして。
治安が良くない国みたいだから、そんなにことは日常茶飯事だと思うけれど。
とりあえず、怪我だけはしないようにしなければ。
怪我をしたらまた、姫様とモコナが悲しそうな顔をするから。あんな顔―――出来れば、させたくない。


「(でもこの行動もきっと…悲しそうな顔をさせる要因の1つ、か)」


自嘲気味に笑って、ツイと視線を上げれば…空が白み始めていた。
もうすぐ夜が明けるのか。…そろそろアパートに戻って、仮眠を取らなくちゃ。





今日もまた、姫様の駒として盤上で踊ろう。貴方を護るために。

いつも通り、夜が明けて。

いつも通り、朝が来て。

いつも通り…少しだけ、仮眠を取る。


毎日、それの繰り返し。
そしてまた、チェストーナメントに参加するんだ。
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