姫君と死神


最終戦へと繋がる、最後の一戦。それを私達はいつものごとく、勝利で終わらせた。
地面から切り離されていた盤上がゆっくりと降りていき、階段と接続される。

そこで待っていたのは…2人の男性。
一体、誰だろうか。今までの対戦相手にはいなかったはずだけど。


「食事、ですか?」
「このチェスの主催者、ビジョン家の当主が晩餐にお誘いしたいと。それもマスターと…」
「女王(クイーン)の貴方だけを」
「私も…ですか。彼女と一緒に?」
「いや、食事は別々にだそうだ。それぞれに話があると」


ビジョン家の当主…この『チェストーナメント』の主催者…そんな人が、私と姫様だけを晩餐にお誘い―――ね。

何か罠があるのか、それともトーナメント恒例のことなのか…2人の表情からは否、というようにしか読み取れないけれど。
…何を企んでいらっしゃるのかしらね?主催者さんは。


「…行きます」
「私も、そのお誘い承ります」
「お互いに1人でだぞ?」
「はい」
「そういう伝言、なのでしょう?」
「あぁ。では案内する。マスターはジェオが、クイーンは俺が」
「行って来ます」
「いってらっしゃい」


にっこりと笑みを浮かべたファイさんに見送られ、私達は階段を降りようとした。
でも誰かに腕を引っ張られる感覚がして、後ろを振り向いてみると…黒鋼さんが私の腕を掴んでいた。とても…心配そうな表情で。
隣を歩いていた姫様も、シャオに同じように腕を掴まれている。どうやら、あの子は無意識に掴んでしまったみたいね。驚いた顔をしてるもの。
姫様は一瞬、表情を曇らせたけど…優しくシャオの手を離し、階段を降りて行く。


「行くのか」
「はい。…先に休んでいて下さい。私を待っているなんてこと、しなくて構いませんから」

―――グッ…

「大丈夫。ちゃんと…戻りますから」


だから―――そんな顔、しないでください。
大きくて無骨な手にそっと触れて、腕を離してもらうように促す。
思っていたより簡単に離してくれた指先を、軽く握る…「ありがとう」という意思表示の代わりに。
何を話されるのかは、全く予想がつかない。
けれど、今回は何も危険はないだろう。彼らが心配するような。


「(…久しぶりに触れた彼の手…暖かかった。とても)」


数週間前に触れ合った、唇。
あれっきり私は彼に、必要以上に近寄らなかった。それは黒鋼さんも同じで。
だから…黒鋼さんの体温を感じたのも、それ以来。

やっぱりダメ、だな。一度触れてしまうと、暖かさを知ってしまうと…戻れなくなってしまう。
わかっていたはずだったのに、そんな理性とは裏腹に…心が、身体が本能的に黒鋼さんを求めている。
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