02
―――チェストーナメント、最終戦。
side:サクラ
「…緋月の奴、何処に行った」
「朝早くに出掛けたらしい。リビングに置手紙があった。"最終戦には間に合うから、先に行っていて下さい"とだけ…」
―――ピクッ
―――キュッ
「サクラちゃん?」
差し出されたファイさんの手を取った時、脳裏に直接映像が浮かんだ。…"あの時"と同じように。
見たくない、現実だと思いたくない…光景。
わたしはこれを現実にしたくないの。出来ることは少ないかもしれないけど、それでも…護りたい。皆を。
「ファイさん」
「なぁに?」
「言ってくれましたよね、わたしの望み通りにと」
「それが我が姫の望みならば」
「じゃあたった今、これから自分を一番大切にすると、約束して下さい」
「…サクラちゃん」
「準備はよろしいですか?」
盤上に上がりきった時、そこにいたのはこのチェスの主催者のイーグルさんと…側近である男性の2人。
…側近はもう1人いたはずなのに、今此処にはいない。緋月ちゃんの姿も、朝から見ていない。
此処には来る、と手紙には書いてあったと聞いたけれど…心配になる。
「最後のマスターは貴方ですか」
「一応、責任者ですから。さて、最後の『チェス』は駒は互いにひとりで行いたいと思うんですが…いかがですか?」
「おれがやる」
「了解しました。…もう一つ、提案があるのですが」
「何でしょうか」
にっこりと笑う、イーグルさん。その笑顔に、自然と眉間にシワが寄るのがわかる。
一体、何を考えているのか…全く読めない表情と瞳。言葉の意図も読み取れずにいる。
この人は何を…提案しようとしている?
「このチェスは最終戦。たくさんの観客がこの勝負の行方を見守っている…」
「てめぇ…何が言いてぇんだ」
「…簡単なこと。前座のショーを、行いたいと思っています」
「余興、ということですか?」
「ええ。もう"彼女"の許可は取ってあります。…ランティス!」
―――コツン…ッ
イーグルさんのもう1人の側近、ランティスさんが連れて来たのは…真っ白なワンピースに身を包んだ、1人の女性。
それはよく見知った姿。いつも見ていた彼女。
「緋月ちゃん…」
ランティスさんに手を引かれ、盤上に上がってきた緋月ちゃん。
いつもの黒いワンピースではなく、相対する白に身を包んでいる。腕には…初めて見る、綺麗な青い石がついたブレスレット。
わたしには魔力がないから、ハッキリとはわからないけれど…緋月ちゃんを護りたい、という強い想いをそのブレスレットから感じるんだ。
誰かがわたしと同じように、彼女を護りたいと願っている人がいる。
ああ…そうね。あの人しか、いないね。
誰よりも、何よりも―――緋月ちゃんを大切に想っている人は。
「本選の前に、彼女に前座のショーを行ってもらいます」
「……彼女に、何をさせるおつもりですか?」
「お一人で100人斬りに挑戦して頂きます」
イーグルさん曰く、あちらが用意した人形100人を斬り倒していく…至ってシンプルなもの。
「人形達には壊すと動きが止まる石がついています。100人分の石を壊し、動きを止めれば…貴方の勝ちですよ。"紅の死神"さん」
「その名は二度と呼ばないで。そう言ったはずですが?」
「ふふっそう怖い顔をしないで下さい」
"紅の死神"……?
どこかで聞いたことがある気がする。何かが引っ掛かっている。
黒鋼さんと彼はわからない、という顔をしているけれど…ファイさんは、何かに気がついたかのように大きく瞳を見開いている。
きっとファイさんも、さっきの言葉の意味を知っているんだと思う。
「では、お話はここまでにして…ショーを始めましょう。
いつも通り、マスターの精神力によって動いて頂きますが…正規のマスターは却下とします。本選を控えてますからね」
「…マスターなしで戦うのはダメなんですか」
「前座のショーとはいえ、ルールですからね。一応。さあ、女王(クイーン)。共に戦うマスターを選んで下さい」
わたし以外の人を、マスターに。そう言われた緋月ちゃんは、迷っているように見えた。
とても優しい人だから、出来ることなら誰も巻き込みたくないと思っているのかもしれない。
自分が怪我するのは厭わないのに、誰かが傷付くことを…何よりも嫌うから。
緋月ちゃんが誰も指名出来ないでいると、近くで黒い影が動くのが見えた。
コツン、と靴音を響かせて、緋月ちゃんの隣に立ったのは…黒鋼さん。
「黒…」
「そのマスターとやら、俺が引き受ける」
「っ?!!」
「了解しました。ではお二人共、コレを着けて下さい」
「何だ、こりゃあ」
「いつもとは少し趣向を変えてみたいと思って、用意したモノです」
緋月ちゃんと黒鋼さんに渡されたのは、赤い石のついた腕輪。
それが2人に2つずつ。
…両腕に着けろ、ということみたい。怪訝な顔をしつつも、パチンッと装着していく2人。
…けれど、次のイーグルさんの言葉に―――息を飲んだ。
「その腕輪についている石は、センサーのようなものです。駒の腕輪の石が破壊された場合、貴方達の負けとなりますから気をつけて下さいね。
そして、その腕輪はマスターと駒を繋ぐもの。全てを共有するもの。駒の痛みは全て、マスターにも伝わる。…駒が力尽きれば、マスターも同様に命を落とすことになります」