赤に染まれ


最終戦の前に行われることとなった、100人斬りという余興。
自ら私のマスターとなった黒鋼さん。
私達の腕に着けられた、マスターと駒の命を繋ぐ腕輪。そして―――――


「(ピッフル国で彼からもらった…ブレスレット)」


着けるのがもったいなくて、壊したくなくて、なくすのが…怖くて。ずっと着けることが出来ずに、しまっていたの。
でも何でだろう…イーグルさんからの申し出を受けて、今日の朝アパートを出る時に、着けようって思ったの。
今まで、一度もそんなことなかったのに。

虫の知らせみたいに、着けなきゃ危ないって…直感で感じた。コレを身に着けていないと、私が私でいられなくなるような―――不安と恐怖に、支配されて。
でもその不安と恐怖も、コレを着けていると不思議と感じないのよ?魔力なんて込められていない、普通のブレスレットのはずなのに。
私にとって唯一の、お守りなのかもしれない。


「それではそろそろ始めましょうか。せっかくの余興なので、いつも貴女が使っている武器を使用して構いません。もちろん魔力とやらもね。最終戦でもそれを許可しましょう」
「…それでは遠慮なく」


腰のベルトに着けていた鞭2本。それをシャオに託し、掌に魔力を込め…愛銃2丁を取り出した。
両腿にホルスターと銃をセットする。
『紅紫蝶』も出すべきかと思ったけれど、出てくる人形がどんな物かまだわからない。
もし刀が必要ならば、その時に出せば問題はないでしょう。"殺戮人形"でなくなった後の私の武器は、この2丁拳銃なんだから。


「…黒鋼さん…良いんですか?命が、係っているんですよ」
「俺が決めたことだ。それに…」
「?」
「お前が負けるはずがねぇ。そう簡単に俺の精神力も尽きねぇから、思いっきりやって来い」


向けられる優しい笑み、頭を撫でてくれる温かい手。


「―――…はい。いってきます」
「おう」


―――コツンッ…

軽くぶつけ合った拳。
"頑張れ"という貴方の励ましと、"負けない"という私の意思の表れ。
負けないし、絶対に…黒鋼さんを、死なせない。


『READY…GO!!!』


開戦を告げる、審判の声。戦いの火蓋は今、落とされたのだ。
美しく気高くも、その瞳は哀しみに濡れた"孤独の女王"が地を蹴った―――。

―――バッ

次々と現れる多くの人形。
動き、力、速さ…それのどれを取っても、人形とは思えないくらいだった。
何て言うのか―――まるで人間、のような。


「(そんなわけない、のに…何なんだろう?この拭いきれない不安は)」


愛銃は両腿にセットしてあるけど、今の所はまだ使っていない。
向こうも武器を持っていないし、壊さなければいけない石も…蹴りで何とか壊せていたから。だから、別に武器は必要ないじゃないかなんて思ってたんだ。


―――ピピッ

右腕に着けている腕輪が電子音を奏でる。…これ、カウント機能もついてるのね。人形についている石と連動してるのか。
今倒した数は…35。道のりはまだまだ長い。


「…さすが"紅の死神"。基礎能力も申し分ないですね、滑らかで綺麗な動きをしている」

―――けれど、まだ甘い…

「イーグル?」
「僕が見たいのは、本当の貴女の姿なんですよ…女王。ランティス、そこのスイッチをONにして下さい」
「…わかった」
「さあ、見せてください。血に染まり、赤の中で狂い咲く貴女の姿を」


―――47…
―――48…
―――49…


―――ガシャンッ…!

「ハッハァ…これで、半分だ」


ようやく50人撃破、か。思っていた以上に単調で、大変で、面倒だ。
人形が武器を持っていないだけ、まだマシだとは思うけれど。この先もそうだとは限らない…。
そんなことより、私自身が疲れ始めてるってことは…黒鋼さんもキツくなってきてるはずなんだよね。

―――大丈夫、なんだろうか。
どうしても気になってしまって、マスターの席…吊り上げている卵型のイスを見上げた。


「……くろ、がねさん」


ポツリ、と…呟いた彼の名前。聞こえてるはずないのに、彼の深紅の瞳が私を映す。
その瞳に疲労の色は見当たらない。

―――まだ平気だから、思う存分やれ

言葉にはされていないけど、そう…言われている気がして。私はまた強く頷いた。わかってる、って意味でね。


「(…何だか、前に戻ったみたい。距離を置こうと思ってるのに…全然ダメだ)」


全幅の信頼を、彼に置いてしまう。近づかないと決めたのに、近づいてしまう。
こんなんじゃダメなのに。自分で決めたことじゃないか。何故、揺らいでいる?

―――ギュッ

今は―――こんなこと、考えている場合じゃない。まず、この余興をさっさと終わらせなくちゃ。
悩んで、沈んで、動揺してる場合じゃないんだから。


「…あと半分なんだ。負けてたまるもんですか」


深呼吸を1つして、前を向いた時。2体の人形が現れた。今度は素手ではなく、武器を手にして。
半分を超えると、武器を持つ人形に変わるシステムなのかしらね。…まぁ、それでも関係ないけれど。だってやることは何一つ変わらないから。

けど、2体共…持っているのは刀か。一気に攻められると、ちょっと大変かもしれない。
仕方ない…ここからは私も愛銃を相棒に、戦わなくちゃいけなさそうね?


「……?(何かが、おかしい気がする)」
「ファイさん?何かあったんですか?」
「あ…ううん、大丈夫。少し―――嫌な予感がするだけだよ」


向かってくる2体の人形。でも…何だ?この違和感のようなもの。
さっきまでの人形も動きは滑らかで、まるで人間もみたいだって思ったけど…コレはその比じゃない。
人間、そのものの気がするの。だって、私の動きをしっかり見て、そして避けている。

刀で狙ってくるのも、足や腕。
更に―――心臓と首筋。

明らかに急所と呼ばれる、箇所だけを。そこを狙えば確実に動けなくなる、または命を落とすような…そんな箇所ばかり。
プログラミングされてる可能性もあるけど、それなら今までの人形だってそうなっていてもおかしくない。
―――けど、そうじゃないんだ。


―――ヒュッ…!

「!緋月ッ」
「っわ……!」

―――ガキィンッ!!!

「間一髪…!」


ギリギリで刀を止めることが出来たらしい。
始まる前に愛銃を出しておいて、本当に正解だったわね。そうじゃなきゃ…私、今頃首が飛んでたかも。

―――ギギッ!

悠長なこと、してられない。
刀を止めているのは拳銃。分が悪いのは当たり前のこと。そう長くは止めることは出来ないわね。
弾かれてしまう前に、胸元についている石を壊して動きを止めないと…!


「いくら人形とはいえ、銃で胸元を撃つのは気が引けるけどね…っ」


―――ダァンッ…

人形の胸元に照準を合わせ、引き金を引いた。
ただ、石が壊れるだけだと思っていたのに。



生暖 かイ 、赤 い液体 ガ目 の前に 散 ッた 。



「あ、や…イヤ、や…いやああああぁああっ」
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