02


「着替えにはこの部屋を使ってください。他の方々は、お隣の部屋にいらっしゃいますので」
「…ありがとうございます」


イーグルさんから厚手の服を受け取り、私は部屋の中に入った。
着替えて、準備をして…早く次の国、セレス国へ向かわなくちゃいけないのはわかっているんだけど。
頭に浮かんでしまった疑問を打ち消すことが出来なくて、私は空間に円を描いた。
瞬時に映し出される、侑子さんの姿。少しだけ―――驚いているように見えるかしら。


『緋月…どうしたのかしら』
「どうしても、気になることがあったので」
『何かしら』
「さっきの姫様が視たという未来、彼女が刺されるはずじゃなかったんじゃないですか?本当は…別の人、だったんじゃないんですか?」


そう問い掛ければ、侑子さんは一瞬だけ引きつったような表情になった。
私の勘は、当たってたってわけですね。きっと姫様がその事実を言わないでほしいって、言ったんだろうな。


「疑問に、思ってたんです。侑子さんから話を聞いて。私達が死なないように姫様が払った対価は、あの右足だけ。命と右足じゃ、釣り合わない。だから…あの子は右足を対価に、本来刺されるはずだった"誰か"の代わりに自分を刺すように呪いを変えたんじゃないかって」
『…そこまでわかるようになったのね』
「自分でもびっくりです。私が…こんなこと、わかるようになったなんて」
『魔力が戻って、知識も豊富になったの。それが本来の貴方の姿ではないかしら』


本来の、私―――――


「違いますよ、侑子さん。今の私は仮の姿…本来の私はもっと醜いから」
『……さ、準備をなさい。貴方もあの子達と一緒に行くんでしょう?』
「行きます。突然、すみませんでした」


通信を切って、急いで着替えをすることにした。
着替えを済ませて、皆の所へ行けばファイさん以外揃っていた。


「この服…貰っても良いんですか?」
「ええ。次に行かれる国はかなり寒い所だと聞きましたから。貴方達の事情を知っていて黙っていたお詫びです。それに…」
「……?」
「緋月さん、貴方には嫌な思いをたくさんさせてしまいましたしね」
「どうして、あんなことを…」


"紅の死神"。私の忌むべき二つ名。
それを呼んで、私の怒りを買ってまで…あんなことをさせた理由は、何なんだろうか。
あの日からずっと気になってはいたけど、聞きたくなくて…先延ばしにしてしまっていた。
何か裏があるようには感じなかったけれど。…じっとイーグルさんが口を開くまで、待つことにする。


「こう言ってしまったら、また気分を悪くさせてしまうかもしれませんが…本当にただ、興味があったんです。どのような表情で、どのように戦うのか見てみたかった」

―――美しい、貴方を。

「え、あの……っ!」
「クスッ…さ、皆さん揃いましたよ」


冗談なのか、本気なのか…イーグルさんの瞳を見ても、察することが出来なくて。
ただ…真っ直ぐ見つめてきたあの瞳。
似ても似つかないはずなのに、何故か黒鋼さんとだぶってしまって…少しだけ驚いたの。瞳の色も、雰囲気も、何もかもが違うのに…どうしてなんだろう。

―――あぁ、そうか…。あの瞳の光が、似てるんだ。
見透かされそうな、あの瞳の光。


「(だから…イーグルさんに見つめられるの、怖かったんだな)」
「大丈夫?」
「大丈夫だよ」
「…緋月」
「はい。今、行きますよ」


モコナの額の宝石が光り、何もない空間に映像が映し出される。
セレス国に移動する為の5つの対価を支払う為に。…けれど、何を支払うんだろうか。


『チェスの優勝賞金を寄越しなさい』
「え…」
『チェスは姫だけじゃない。貴方達みんなで参加したもの。己の力で勝ち取ったものだから対価になるわ』
「…モコナは参加してないよ」
「いや、ちゃんと一緒だった。待ってくれているとわかっていたから、帰る為に頑張れたから」
「そうね…モコナもメンバーの1人よ。立派な、ね」
「『小狼』、緋月…」


モコナがいてくれていること、すごく…救いになってるから。


『もうひとつ条件があるわ。モコナが移動する時、ファイ貴方も一緒に移動魔法を使いなさい』
「…はい」


その言葉を聞いて、シャオの瞳が一瞬大きくなった。
これも―――彼がついていた嘘の、1つなんでしょうね。きっと。
シャオは今までの旅全てを、小狼くんの瞳を通じて見ていたから…私よりも皆の事情を知っているんじゃないかな。特に最初の頃は。

そんなことを考えていると、不意にモコナが蒼氷を取り出した。
黒鋼さんに渡すのかと思いきや、渡した相手はファイさん。何を、するつもりなんだろうか。


「手を」
「……」


訝しがりながらも、素直に左手を差し出した黒鋼さん。
そこに書いた魔法陣が光り、蒼氷は黒鋼さんの手の中に吸い込まれていった。
あぁ、そうか…モコナがいなくても、剣を使うことが出来るようにというファイさんの配慮なんだね。
でも―――あんなに魔力を使うこと、渋っていたのに…良いのかな。


「…いいのか」
「もうたくさん使ったからね、魔力」
『モコナ』
「はい」


モコナが移動魔法を発動させるのと同時に、ファイさんも移動魔法を発動させた。
私達はソレに包まれて―――――


『行きなさい、セレス国へ』


インフィニティを、後にした。
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