02


魔術師によれば、心臓は逸れていたものの胸を貫かれていたらしい。
だから緋月の怪我は、重傷だった。…いや、重傷の"はず"だったっつーのが正しいか。
どんなからくりなのか知らねぇが、その胸の傷はもうほとんど塞がりつつあるんだそうだ。本来なら完治まで二月から三月くれぇはかかるはずの怪我が、だ。
治療する前にもう、塞がり始めていた…そういうことらしい。よくわからんが。

魔力が強い奴は、そういうもんなのかとも思ったが…別段、そういうわけでもねぇよな。
姫や小僧、魔術師も強い魔力をもってるらしいが、怪我の治りは普通だったはずだ。
つまり―――緋月自身が特別、というわけか。


「狂気に覆われて、正気を失うのと何か関係があんのか…?」


僅かに赤みが差している頬をスルリ、と撫でる。
夜魔ノ国を思い出すな。こうしていると。あの時と、状況が似てる。
ただ違うのは、顔色が悪くねぇことか。目を覚ます気配はまだねぇが、生きているのかどうかっつー不安は感じねぇ。
ちゃんと生きているんだ、と…見ているだけでわかる。それだけで、こんなにも落ち着いていられるもんか。
夜魔ノ国の時は―――目覚めるかどうかもわからなくて、不安で仕方なかったが。…今思うと、俺らしくねぇとは思うけどよ。


「それだけ大切だってことか」


失いたくねぇ、と思うから…尚更、不安になっちまう。
それも緋月に会って、初めて知ったことだな。


「―――…ん……」
「緋月?」
「…くろがね、くん…」


寝ぼけてるのか、夢現のままで緋月は手を伸ばしてきた。
もう存在しない…かつて、左手があった場所へ。


「おバカさんだね、黒鋼くんは…剣を使うのに、片手じゃ不自由じゃない」
「…片腕でも剣は振れる。んなの問題じゃねぇよ」
「ふふ…キミならそう言うと思ったけど」
「んなことより、お前はどうなんだよ」
「血が足りないからまだクラクラするけど…でも大丈夫。それ以外は何も問題ないよ」


そう言って笑った緋月の顔は、ピッフル国で見た笑顔と酷似していて。ほんの一瞬だけ、驚いた。
それに今更気がついたが、呼び方が…二人称があの頃に戻っている。
無意識なのか、意識的なのかはわからねぇが、無性に嬉しいと感じたんだ。
緋月が、時間が―――戻って来たように思えた。


「…緋月…」
「ごめんね?キミのことも、ファイくんのことも、モコのことも…たくさん傷つけちゃった。でも、それでもね…僕は皆を護りたいんだ…だからっ…!」
「いい。それ以上は、何も言わなくていい…お前が―――"緋月"が此処にいるんなら、俺はそれで構わねぇよ」
「っふ……う、ん…ありがとう……っ!」


静かに涙を流す緋月の細い体を、しばらく抱き寄せていた。
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