02


 side:ファイ


ジェイド国で出会ったカイル先生。その後、もう一度ピッフル国で見えた人物。
オレ達が会ったのは…姿が一緒なだけでなく、カイル先生そのものだったんだ。
"心"が同じ人物に違う次元で会うとは予想していなかった。会うことなんて、ほぼないと思っていたから。

…だけど、現に今―――3回目の再会を果たした現実がある。
この男はきっと、飛王の手下なんだろう。そうでなければサクラちゃんの羽根がどういうものなのか、彼女の躯にどれだけの力が眠っているのか…知っているはずがないのだから。

そこまでは理解出来る。一番理解出来ないのは、彼と緋月ちゃんの関係だ。
ジェイド国でもピッフル国でも、彼は彼女のことを狙っていた。命までも。
そして今、カイル先生は緋月ちゃんの名前を呼んだ。


「…そう。もう時間なのね」


オレと黒様の間にいた彼女。此処にいる全員が身動きが出来ない中、ただ1人…黒いモノに囚われていない彼女。
カイル先生の言葉にポツリ、と返した瞬間。緋月ちゃんの雰囲気が変わったんだ。
今までの温かい雰囲気が一切、消えている。氷みたいに冷たい雰囲気を…纏っている。


「お前も、もう記憶も力も戻った。その蓄えた力を、あの方の為に使うんだ。紅の死神。」


紅の…死神。幼い頃。まだセレスで幸せを感じていた頃。
アシュラ王から聞いたことがあったんだ。真っ赤な少女が色んな次元で、殺戮を働いていると。
そしてオレが徐々に魔法を覚え始めた頃、聞いていた少女がセレスにも現れた。
小さな町を1つ滅ぼして、少女は消えた。真っ赤な血と、一筋の涙を残して。

インフィニティで再びその名を聞いた時、まさかと思った。彼女が紅の死神のわけがないと、そう思ったのに。
でも今の彼女の姿、雰囲気、声音、瞳の光を目の当たりにしたら…信じざるを得なくて。


「あれ…緋月なの……?!」
「緋月…どうして封印を…っ」


ザァ、と一陣の風が吹き―――サラサラと短くなった彼女の髪が舞う。
だけど、あの綺麗な黒ではなく。血のように真っ赤になっていた。魔力を使う時の色よりもっと、濃い赤。セレスで見た少女と同じ色。
そして服は日本国の着物から白いワンピースに変わり、背中には紋様が入っていた。
その紋様は蝙蝠の形。小狼くんが着ていた服に描かれていたものと、同じ。


「―――その、紋様は…!」
「…私はあの人の…飛王様の願いを叶える為だけに、存在してるから」
「緋月ちゃんっ…!」


冷たく弧を描く、唇。オレ達が知っている彼女のようで、そうではない。
カツンッと靴音を鳴らし、オレと黒様の間を歩いていく彼女。

行かないで。

手を伸ばそうと思うのに、体は黒いモノで雁字搦め。
腕を動かすことも出来ずに、通り過ぎてゆく彼女をただ見ていることしか出来ない。それが歯痒くて、悔しくて仕方ない。
オレの隣にいる黒様も同じらしく、眉間にはいつも以上にシワが寄っている。
でも1つだけ、違うことがあった。それは―――

―――グイッ

黒様の手が、緋月ちゃんの腕を掴んだってこと。


「ッ…!!!」


腕を掴まれた緋月ちゃんの顔が一瞬だけ…辛そうに、悲しそうに歪んだ。


「何処に行くつもりだ…っ」


クルリ、と振り向いた彼女の顔に浮かぶは―――冷たい、氷のような眼差し。
そして緋月ちゃんが放った一閃が、黒様の頬に一筋の赤い線を描く。
驚きを隠せなかった。オレも、黒様も、小狼くんも、モコナも。
だって、知っているから。彼女が仲間を傷つけるのを、どれだけ怖がっているか。
理由もなく傷つけることをするような、人ではなかったはずなのに。

今、彼女は躊躇することなく剣を振ったんだ。―――愛しき、彼に向けて。


「私と貴方達の旅(ゲーム)は此処で終わり…私はあるべき場所に還るだけ」


スル、と黒様の頬を滑る彼女の手。そしてゆっくりと離れていく、オレ達の大切な人。
ふわりと浮かんだ彼女の体を受け止めたのは、カイル先生。もう片方の腕の中にはサクラちゃん。
緋月ちゃんの手の中には、光り輝くサクラちゃんの羽根。


「サクラ!!緋月!!!」
「風華…!」
「…無駄よ、シャオ」


―――パンッ

小狼くんの魔力は、緋月ちゃんの魔力に相殺され、彼女達に届くことはなかった。


「今度こそ頂いていく」
「待て!!」


空間に出来た切れ目に、彼とサクラちゃんと緋月ちゃんの体が吸い込まれていく。
目の前にいるのに、手を伸ばせば届きそうなのに…っ!必死に伸ばしても、この手は届くことがなくて。
カイル先生とサクラちゃんが消え、緋月ちゃんの体も完全に飲みこまれようとした時、不意に彼女がこちらを振り返った。
その瞳に浮かぶは、哀しみ。謝罪。後悔。涙は流れていなかったけど、それでも彼女は泣いていた。
ごめんなさい、と声にならない叫びを上げていたんだ。


「―――…さようなら。黒鋼、小狼、ファイ、モコナ」


その一言を残し、緋月ちゃんはオレ達の前から姿を消した―――。


「っ緋月―――――!!!」
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