精一杯の強がり


『―――…さようなら。黒鋼、小狼、ファイ、モコナ』


そう言って姿を消したアイツ。
紡がれた言葉も、表情も―――強がりでしかなかったのに。
また俺は、アイツを護れなかった。


 side:黒鋼


「サクラちゃんが知ったのは、恐らく『東京』で羽根が戻った後だと思う。もう一人の小狼くんがいなくなったからだけではなくて、あの時から…あの子は変わったから」


姫は小僧のことを受け入れられなかったわけではなく、自分も写身と呼ばれる存在と知った。
そして本当の姫が別にいる、とわかったから…あんな態度を取り続けたんだろうと魔術師は続けた。
魔術師はそれを最初から知っていたらしい。この旅を仕組んだ者に聞いた、と言った。俺の母上を殺した元凶。


「…だからこそ、オレに叶えられる願いなら叶えてあげたかった」


理屈はよくわからねぇが、同じ写身とやらでも小僧と姫は違うらしい。
小僧は元になる小僧から躯だけが写された。それに心をいれたのは、元になった小僧。
だが、姫は躯と心…どっちも写された。だから、飛び散った羽根は元になった姫と同じモノ…ということらしい。

それが意味するものは―――――…写された姫に何かあっても、元になる姫がいりゃあ換えが利く。
そう考えているということだ。俺達を見張っていたヤツは。…いけ好かねぇ。


―――グッ

「…姫の魂は……消えたのか」


その名と同じ、桜の花弁となり舞い散った姫。
刺したのは今まで一緒に旅をしてきた小僧。…だが、そのきっかけを作ったのは俺達を見張ってたヤツだろう。…緋月を…連れてくるよう、あの医者に命令したのも。


「おれはずっと見ていた。皆の旅を。…だからこそ、取り戻す」


小僧の瞳の奥には炎が見えた。必ず、奪われたあいつらを取り戻すという決意。


―――パァッ

「願いがあります。さくらと緋月の居場所を教えて下さい」
『…どっちのサクラなのかしら』
「どちらもです。さくらは絶対死なせない」
『教えたとして、他の二人はどうするの?』
「行く」
「行きます」


姫だけじゃねぇ。アイツも―――緋月のことも必ず、連れ戻す。
あの瞳、あの表情、あの声音…どれをとっても、あれはアイツの本心じゃねぇはずだから。
ようやく戻りつつあったアイツの気持ちが、そう簡単に変わるはずがねぇ。何か…そうしなきゃならねぇ事情があるはずだ。ただの勘でしかねぇが、自信はある。
そんなに長い期間、一緒にいたわけではない。アイツの全てを理解しているわけでもねぇけど、それでもあの時の緋月には何かある。
小僧も、魔術師も、白まんじゅうもそう思っているらしい。だからこそ、取り戻すと決めたんだが。


『では対価は―――』
「対価は」
『…既に受け取っているわ』


全員に衝撃が走った。この中の誰かが払ったものではねぇ。それくらいは反応を見りゃあわかる。
だが…それなら一体誰が?


『小狼と誰よりも近い人。そして貴方達と一緒に旅した姫と同じ対価を、過去にあたしに払っていた』
「姫と同じってことは…」
「……記憶?」
『そして本人は、自分の過去も、両親の名前も、この対価を渡したことさえ忘れている。貴方と同じ願いの為に』


魔女の話によれば、飛王とやらは夢の為に人の魂を集めていたらしい。
だから、その魂の行き先を追えば居場所はわかる…そして魔女は、そいつの居場所を突き止めることが出来たってわけか。


「知っていたのか」
『少し前のことだけれど』
「……そうか」
「魔力を持つものが相手の居場所を知るということは、自分の居場所も知らせることになります」
『…ええ。この店は来たるべき日の為につくったもの。そして、あたしもその日の為に此処にいる』


そして魔女の口から語られた、緋月と姫がいる場所。それは―――――


『飛王がいるのは……玖楼国よ。『切り取られた時間』の中の…ね』




「時を読み、場を読み、そして人の生筋を操り、待ち望んだ次元を刻んだ躯。やっと手に入れたぞ。これが帰らねば、全てが無に帰すところだった」
「本体になったサクラ姫の躯は?」
「この写身を創った後、滅して消えた」
「!」
「やはり本体と同じ写身は、そう容易く創れるものではないらしい。この姫の写身は、あのクロウの血筋とは違う。魂と躯、どちらも写したからな。
しかし、それも先読みの内。こうなることも読んで、あの者達を旅の供にしたのだ。
この躯と姫の魂、そしてあやつの器(カラダ)があれば、次元を超える力が手に入る」

―――カツンッ…

「…着替えは済んだか」
「―――はい。ご命令通りのものに」
「クク…やはり似合うな」
「有難きお言葉」
「ようやくこの手に戻った…さぁ、存分にお前の力を見せてみろ。―――――緋月」
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