御伽の国
「あははー。何か注目されてるねー」
「やっぱりこの格好がいけないんでしょうか」
「んー、全然違うもんねぇ。此処の国の人達と。特に黒たんがー」
「あー?文句あっか」
「モコは動かないでいてくれてるしね」
次に着いた国は、ちゃんと人がいました。や、いて当たり前なんだけど。
印象としてはー…「御伽噺」の世界のような感じ?服とか。
僕達の服装とはかけ離れてるから注目されるのも、警戒されるのも仕方ないとは思うんだけど。
納得も出来るんだけど、さすがにこの舐めるような視線は気持ちが悪い。…ただ服装が違うから、ってだけの気がしないんだよね。何だかもっと違う理由があるような感じがするんだけどなぁ。
何か良くないことがあるような気がしてならない。僕の気のせいで済んでくれれば、それに越したことはないんだけどさ。
視線をテーブルに戻せば、小狼くんと姫さんとファイくんの姿が見当たらない。
「…あれ?3人は何処に行ったの?」
「あいつらならあそこだ」
「あそこ?」
「何度やっても負けないなんて!どうなってるんだ、一体?!」
「イカサマじゃないのか?!」
「黒鋼くん。何かファイくんとお店のお客さんがこっち見てるけど」
「あぁ?」
おー。子供は大泣き、大人ですらビビる黒様の渾身の睨み発動ー。
姫さん達に何か文句言ってた人達も一気に大人しく、且つ静かになりました。
これでようやくゆっくり食事が出来るよ…。再び食事に手をつけ始めると、3人が戻って来た。
「おかえりー。首尾は?」
「バッチリだよー。この国の服も買えるし、食い逃げもしなくてオッケー」
「それは良かった。着いて早々に犯罪者になるのは勘弁だわ」
「しかし凄いな、お譲ちゃん」
「あ…ルールとかわかってなかったんですけど、あれで良かったんでしょうか」
「面白い冗談だな!」
いや、姫さんの場合は冗談でもなく本気なんだけど。
ルールがわかってなくても姫さんの持つ、桁外れの「運」。それが勝因だから。
春香ちゃんには確か、「神の愛娘」とか何とか言われていたっけ。
…何にしろ、彼女は勝負事とかは決して負けないみたい。これもすごい能力だよねー。
会話をしてる小狼くん達を視線の端に捉えながら、食事を進めていると。
水を持ってきてくれた人が、北へ行くのはやめた方がいいと忠告をしてきた。
何でも、北の町には恐ろしい伝説があるらしい。それは―――――
昔、北の町のはずれにある城に金の髪の、それは美しいお姫様がいました。
ある日。お姫様の所に、一羽の鳥が飛んで来ました。
その鳥は輝く羽根を1枚渡して、こう言いました。
「この羽根は『力』です。貴方に不思議な『力』をあげましょう」
姫は羽根を受け取りました。すると、王様とお后様がいきなり死んでしまいました。そして城の主になったお姫様。
その羽根にひかれるように、次々と城下町から子供達が消えていってしまいました。
子供達は―――二度と帰ってきませんでした。
一見、何処にでもあるような御伽噺のように聞こえるけど…わざわざ忠告してくるってことは―――
「伝説と同じようにまた、子供達が消え始めたのかしら?マスターさん」
「その通りだよ」
なぁるほど…最初の感じた違和感は、その噂話が原因か。
御伽噺にある、姫が受け取った『力』をくれる輝く羽根…ねぇ?いかにも姫さんの羽根って感じがする。
「忠告ありがとう。…ごちそう様でした」
食事の会計を済ませ、僕達は店を出た。
必要な物を揃え、北の町へと向かう為に―――。
服と移動手段の為の馬を三頭購入して、僕達は北の町へと進む道の入り口にいた。
「モコ、羽根の気配は?」
「まだ強い力は感じない」
「でも羽根がないとは言い切れないよねぇ」
「何か特別な状況下にあるかもしれないから。…昔の伝説とは言ってたけど、春香ちゃんの所でもそうだったからねぇ」
「で、行くのか」
「はい。北の町へ」
この先に本当に町があるのだろうか。
寒いからか、1枚も葉がない木。さっきの所に比べて、人の気配が全くしない。
そして、木以外に何も見当たらないっていうのも、余計に不気味で。
「わー。良い感じにホラーってるねぇ。この木の曲がり具合がまた」
「そりゃどうでもいいが、冷えてきたな」
「雪降りそうだしね…うう、寒い〜…」
時折吹く冷たい風に身を縮みこませて耐えていると、バサリと頭に何かが被せられました。
何だ、コレ…。触ってみれば、触り心地抜群の綺麗な布…あ、これストールか。
僕が今相乗りしてるのは、何故か黒鋼くん。
小狼くんやファイくんがいる所からじゃ、このストールは投げられない…てか、上から降ってきたし。コレ。
…ん?ってことは―――
「へ?…ぅえええぇええ?!!」
「うるっせーな!前で叫ぶな!」
「だ、だってこれ…」
「あんだよ、寒いなら被ってろ」
「あり、がとう…」
「何か微笑ましいねー」
わざわざ買ってくれたのだろうか…こんな仏頂面で、女性物を。
自分の服をさっさと選んだ黒鋼くんが、何か買いに行ってたのは知ってたけど。
色も薄いピンクで、すごく綺麗だ。ふわりと首元に巻いてみれば、露出していた首が隠れたからすっごく暖かい。
あー、これは黒鋼くんに本当に感謝しなきゃだねぇ。
「姫は大丈夫ですか?」
「平気です。この服暖かいから」
「そっか。サクラちゃんの国は砂漠の真ん中にあるんだっけ」
「はい。でも砂漠も夜になると冷えるから」
「黒鋼くんの国は?」
「日本国には四季があるからな。冬になりゃ寒いし、夏になりゃ暑い」
「緋月とファイの所はどうだったの?」
「寒いよー、北の国だったから。此処よりもっと寒いかな」
「僕の所は暑かったよー」
「小狼くんは?」
「おれは父さんと色んな国を旅してたので」
「寒い国も暑い国も知ってるのね」
まだぎこちないけど、少しずつ笑顔が増えてきた姫さん。羽根が僅かに戻ってきてるから、本来の彼女に戻りつつあるんだろうね。
何にしても、良い変化でしょ。見ている身としても、笑顔でいてくれていた方が嬉しいし。
「!(うれ、しい…?)」
僕、今笑顔でいてくれた方が嬉しいって思ったの?1人で異世界を渡る術がないから、ただ一緒にいるだけだと考えていたのに?
そんなこと…思っちゃいけないのに。いずれは消える命だ。それは今日かもしれないし、明日かもしれない。
だからと言って…僕は楽しんだり、しちゃいけないんだよ。ダメなんだ。
人の命を奪って、人の人生を壊した上に立っているのに…誰かのことを想うなんて、そんなこと―――
無意識に、首に巻いたストールをギュッと握った。強く、強く。
不意にその手に誰かの暖かい手が触れた。
「…また傷が開く。んな強く握るんじゃねぇ」
「あ……うん…」
握る力を弱めれば、右手に触れていた黒鋼くんの手も離れていく。温もりが、なくなっていく。
しばらくの沈黙の後。モコの声が聞こえた。
顔を上げてみれば、何か文字が刻んである看板が見えた。
「何て書いてあるのかなぁ」
「…『スピリット』って読むんだと思います。前に父さんに習った言葉と同じ読み方なら」
「読めるんだー」
「すごいね」
何だかほわんとした光景に、クスリと笑みを零した時。
異様な雰囲気に微かに背筋が震えた。
「はしゃいでる場合じゃ…」
「ねぇみたいだぞ」
バタンッ
バタンッ
バタンッ
町に入っていくと、開いていた窓が次々と閉じられていく。まるで余所者は受け入れないとでも言うように。
…ま、至極当然の反応だよね。この町では300年以上前の伝説が、現在実際に起きているんだから。突然やって来た僕達を警戒するのも頷ける。
小狼くんが話しかけようとした小さな女の子も、母親らしき大人に家の中へと連れて行かれてしまった。
うーん…これじゃ伝説を確かめようにも、話を聞くことすら出来ないね。
「せめて、金髪の姫がいたという城の場所だけでも教えてもらえるといいんですが…」
―――ピクッ
「…黒鋼くん」
「…あぁ」
―――バタバタバタッ
―――ガチャッ
…やっぱり。微かな殺気がしたから、警戒してみれば…銃を向けられた。
「お前達、何者だ?!」