02
さあ、どうする?騒ぎを大きくしたらこの町から追い出されちゃうけど、銃をぶっ放されたら終わりだよね。
バレないようにそっと、ホルスターにしまってある銃に手を伸ばそうとした…ら。黒鋼くんに止められた。
「まだ待ってろ」
「…リョーカイ」
「旅をしながら、各地の古い伝説や建物を調べているんです」
「そんなもの調べてどうする!」
「本を書いてるんです」
「あ?」
「へ?」
慌てる様子もなく、しれっと嘘をつき始めた小狼くん。
この様子の人達を更に逆上させるようなことはしない方がいいとは思うけど、そんな嘘…通じるのかなぁ。
「本?」
「はい」
「お前みたいな子供が?!」
「いえ、あの人が」
小狼くんが差したのはファイくん。
うん、まぁこの中で一番妥当なのは彼だよね。本が書けそうに見えるの。
そして姫さんを妹、小狼くんと僕を助手、黒鋼くんを使用人にに仕立て上げました。
もちろん黒鋼くんは異議を唱えようとしたけど、服の中に潜んでいたモコに頭突きを喰らったらしく…黙り込んだ。痛みで。
それなりの音がしたけど、平気かしら…。
「やめなさい!」
町の方から誰かが走ってきた。眼鏡をかけた、いかにも優しそうな雰囲気の人。
僕達に突っ掛かってきた男の人は、その人を「先生」と呼んでいるけど…医者か何かかな。持っているカバンからして。
この人はまだ話を聞いてくれる人のようで、僕らを自分の家へと案内してくれた。
「この町の医師、カイル=ロンダートと申します」
「ありがとうございます、泊めて頂いて」
「気にしないで下さい。此処は元は宿屋だったので、部屋は余っていますので」
カイルさんから温かい飲み物を受け取った時、ものすごい勢いで扉が開いた。
…今度は何なのさ…。
「どういうことだ先生!こんな時に素性の知れない奴らを引き入れるなんて正気か!」
「落ち着いて、グロサムさん」
「これが落ち着いていられるか!町長!!まだ誰も見つかっておらんと言うのに!」
中に入ってきたのは、眉間にシワを寄せた強面の中年男性と、眉を八の字に下げたご老人。
中年の男性は大層、ご立腹のようで。僕達を簡単に町へと招いた、カイルさんの行動に。
「だからこそです。この方達は各地で伝説や、伝承を調べてらっしゃるとか。今回の件、何か手掛かりになることをご存知かもしれません」
「何処の馬の骨ともわからん奴らが、何を知っていると言うんだ!」
「この地で暮らす者ではわからないことを」
「これ以上、何かあった後では遅いんだぞ!」
「グ…グロサムさん!と…とにかく、その人達を夜、外に出さんようにな先生!」
―――パタン…
嵐のように過ぎ去って行ったなーあの人達。
さっきの2人をカイルさんが簡単に説明してくれた。
町長とグロサムさんという方らしい。グロサムさんはこの町の、ほとんどの土地の所有者なんだってさ。
町に入った時にも思ったけど、とんでもない時に来たんだね僕達。
いなくなった子供達はいまだに1人も見つかっていないらしく、その数20人になってるそうで。それを聞いた姫さんは悲痛な表情。
「そりゃ、僕達を見て警戒するわけですよねぇ」
「さっきグロサムさん達に言ったように、些細なことでもいいんです。子供達を探す糸口があれば教えてください」
…んー、何か変な感じがするなぁ。このカイルさん。
どんな風に?と聞かれると、上手く説明が出来ないのがもどかしいんだけど。でも、どこかおかしいのは確か。
違和感が拭えないんだ。出会ってからずっと。
「とりあえず宿は確保できたねぇ。ナイスフォローだったよー、銃持った町の人達に囲まれた時ー」
「父さんと旅してる時にもあったので」
「でも、なかなか深刻な事情だねぇ」
つい、とファイくんが窓の外へと視線を向ける。そこには必死に子供達を探す町の人達がいた。
毎日、こうやって寝る間も惜しんで、遅くまで捜索してるんだって教えてくれた。早く子供達を見つけて、親御さんの元へ返してあげるために。
「…実際、伝説の通りに金の髪のお姫様が関係してるのかはわからないけれど」
「うん。とにかく今日はもう遅いしー、寝た方がいいみたいだねぇ」
ふらぁ〜〜〜〜
「わっ」
「ナイスキャッチだねー、小狼くん!」
眠ってしまった姫さんをベッドに寝かせて、僕も寝る準備をしようとした時。黒鋼くんに声をかけられた。
んー?と振り向けば、小狼くんをファイくんも真剣な表情をしてこっちを見ていて。…え、何?この状況。僕、何かマズイことやっちゃったっけ?
「…お前、何か気になってるだろ」
「あの先生に会ってから、何か変だよねー口数も減ったし」
「どうかしたんですか?」
「部屋の外、出よっか。姫さんを起こしちゃマズイから」
はずしたストールをまた肩にかけて、3人と一緒に部屋の外へ出た。
場所は変わって。此処は小狼くん、黒鋼くん、ファイくんが寝泊りする予定の部屋。
最初は廊下で話をする予定だったんだけど、寒かったからこっちに移動したのさ。
「はい、どうぞー」
「ありがと。…温かいー」
「…で?」
「相変わらずせっかちだなぁ……3人はさ、あの人どう思う?カイルさん」
「どうって…」
「なぁんか胡散臭いんだよね、あの人。違和感がある、あの笑顔にも。いけ好かないんだ。
町の人達があんなに余所者を警戒してるのに、手掛かりとか子供達を探す糸口が欲しいからって…こんなにも簡単に招き入れるものかな?」
ズズーッとファイくんが淹れてくれた紅茶を啜りながら、再度自分の言葉を噛み砕く。
言葉にしてみて、ようやくわかった。簡単に招き入れたことに、違和感を感じたんだ。
子供達を早く見つけたいのは皆一緒のはず。だけど、カイルさんと町の人には温度差があるように感じたんだよね。
こんな状況下じゃ…余所者を町の中に招き入れたくないというのが本音のはずなのに。
「言われてみれば確かにねー。こうやって宿も貸してくれたけど…」
「おかしいな。安易過ぎる」
「全てを疑うのは間違いだとは思うんだけど…」
「それでも警戒しておいた方がいいかもしれません。何があるかわかりませんし」
小狼くんの言葉に頷いて、飲み干したカップをファイくんに渡して「おやすみー」と部屋を出ようとすれば、またもや黒鋼くんに止められた。
まだ何かあるのかなー?僕もそろそろ眠いんだけど…。
「おい、へらいの。包帯よこせ」
「黒るん、怪我したのー?」
「俺じゃねぇ、このバカ女だ」
「バッ…?!!」
バカと言われたことに抗議しようとすれば、右手を掴まれた。微かに痛みが走って、眉間にシワが寄ったのがわかる。
そのまま、乱暴にベッドへと座らせられました。…ここで抵抗すると、怖い気がします。
シュル…と解かれた包帯の下のガーゼは、赤黒く変色していて…また出血してることがよくわかる。
それを見たファイくんと小狼くんも眉を寄せた。
あ、あれ…もしかしなくても、僕心配かけちゃってる?
「…大丈夫?」
「ちょっと痛いかなー…」
「だから、強く握るなって言っただろうが」
「あう…すみません…」
黒鋼くんは意外にも器用だったようで、巻き直された包帯はすごく綺麗だった。うん。やっぱり、意外な一面だよね。
お礼と寝る前の挨拶をして、僕は姫さんが眠る自分の部屋へと戻った。
扉を開ければ、ぐっすりと眠っていたはずの姫さんが窓の外を凝視していた。どうしたんだろ?何かあったのかな?
「姫さん?どうしたの、窓の外なんか見て…」
「あっ緋月ちゃん!あそこ…っ」
「あそこ?」
姫さんが指差す方を見て、僕は言葉を失った。だって、そこには在り得るはずのないモノが存在していたんだから。
窓の外にいるのは、金色の髪の綺麗なドレスを着た女の人。
傍らには黒い鳥を携えて、町の中を歩いている。
300年前の、伝説に登場した金髪のお姫様―――――?