紅き少女の決意とキオク
小狼くんは記憶の欠片となって、砕け散った。
「ありがとう」の一言と、ファイくんから奪った魔力を遺して。
…あぁ、そうか。キミはファイくんに魔力を残して、元に戻す為に力を使い続けていたんだね。元々、彼の魔力は使えば使う程に強くなるものだったから。
ココロを失くした後も、ずっと奥底で戦っていたのかな?たった一人で。
「こちらこそ、ありがとうだよ…小狼くん」
欠片の1つを握りしめ、もう届かないことをわかっていながら…そう呟いた。
どうかキミの大切な姫さんにもう一度、会えていますように。
―――ザアッ
「…繋がった。飛王様とこっちの空間が」
視線を向けてみれば、正に今―――黒鋼くんが飛王様を斬った瞬間で。
本当ならこれで全てが終わるはずだった。けれど、まだ終わらない。終わるはずが、ないんだ。
だって黒鋼くんが斬ったのは、飛王様ではなく…身代りにされた、カイルだから。
そしてその奥で、悠々と座っているのが本物の飛王様。
「やはり、偽者どもはこの程度か。…さて、緋月」
「ッ…!!」
「お前はまだ自分の立場を理解していないようだな?」
「あ……」
低い声で、ゆっくりと紡がれる言葉。それはじわじわと僕の身体を、精神を恐怖で蝕んでいく。
彼らを助ければこうなることを理解して、覚悟していたはずなのに…勝手に体が震えてしまう。
あの人の瞳が、声が、視線が―――――コワイ。
魔法をかけられたわけではない。呪をかけられたわけでもない。ただ、見つめられているだけだ。
それなのに体が動かなくなってしまっている。指1本動かすことすら、出来なくて。
…それだけ、僕はあの人が恐ろしいのか。
―――ギュッ
カタカタと震える手。その手を温かい何かが包んでくれて。
懐かしいその温かさに、感触に、少しずつ震えが収まっていく。
「……大丈夫だ」
「黒鋼くん…」
「オレらがいるからね」
「緋月は1人じゃない」
「ファイくん、シャオ…」
そうだ…僕は1人じゃない。彼らが―――仲間が、傍にいるんだ。
護る為に、傍を離れようとした。黒鋼くんが、ファイくんが、シャオが、小狼くんが、モコが、姫さんが大切で…大好きだから護りたかった。
自分が犠牲になれば、彼らを死なせずに済むと思った。ココロを傷つければ、彼らは僕を嫌いになってくれると思っていたんだ。
けれど、違った。彼らはそれでも、僕の身を案じてくれてた。心配してくれてた。
離れることで護る、だなんて…出来るはずがない。感情を、ココロを殺そうと思っても出来るはずがなかったんだよね。
だってこのココロは、彼らと出会って生まれたものなんだから。大事なこれを…捨てる覚悟なんて、最初からないに等しくて。
「…ごめんね。黒鋼くん、ファイくん、シャオ」
ずっと、ずーっと迷ってた。だけど決めたよ。
ようやく覚悟出来たんだ。
「もう迷わないよ。僕は―――キミ達と一緒にいたいから」
この覚悟が、決意がどんな結末をもたらすのか…わかってはいるつもりだ。
でももう、傷つけたくないから。失いたくないから。大切なものを自分の手で、護りたい。
だから僕は、貴方を敵に回します―――飛王様。
「貴様…っ!その身が誰のおかげで存在していると思っている!!!」
「…もちろん、わかっております。この身を、魂を与えてくれてのは…他の誰でもない、貴方です。けれど、この心と居場所を与えてくれたのは貴方じゃない」
そう。確かに今此処に存在しているのは、飛王様のおかげだ。僕の全てはあの人のモノだから。
けれど…この心だけは、誰にも渡せない。渡さない。どんな恨み言を言われようが、何だろうが…この心は僕だけのモノだ。
感謝していないわけではないけれど、それでも譲れないモノくらい僕にだってある。
もう迷わないし、諦めない。諦めてしまったら、それこそ全てを失ってしまうだろうから。
悪足掻きだと言われても構わないんだ。みっともなくても…僕は何一つ、諦めないと決めた。
「僕は―――貴方の夢を終わらせます」
「…許さんぞ、緋月!お前は我が願いを叶える為の道具だ…勝手な真似はさせん!!」
飛王様の手が僕に伸びる。突然のことで反応が遅れて、避けることが出来なかった。
黒鋼くん、ファイくん、シャオが僕を助けようとしてくれたけれど…ほんの少しだけ遅くて、間に合わず仕舞い。
僕の体は、飛王様に囚われて。両腕を後ろで拘束され、首には飛王様の手が当てられていて…今にも絞められてしまいそう。
…いや、僕はこの人の願いを叶える為に必要な器だ。
それを無に帰すことだけは、しないだろうね。願いに対する執着心が、絶対に。
―――グッ…
「ッう…!」
「緋月っ!!」
「さあ…見せてやれ。血に染まった、本来のお前を―――」