02
side:黒鋼
蝙蝠野郎が緋月の首にかけていた手に力を込めた瞬間、脳裏に映像が映った。
これは何だ?何の映像だ?
真っ赤な髪。真っ赤な体。真っ赤な…剣。
何処かで見たような気がする。
年端もいかないガキだが、俺の知ってる誰かによく似ている気がして仕方ねぇ。
『真っ赤……とても綺麗。だから―――もっと見タい』
機械仕掛けのような…抑揚を感じられない声。
世界を移しているはずの瞳は、何も映してなんかいなかった。ただ、無があるのみだ。
この瞳も―――俺は知ってる。
修羅ノ国で見た、緋月の瞳そのものだった。
血を見る喜び、人を斬る悦びに浸っていた…けれど、瞳には何も感情が映っていなくて。緋月が緋月でなくなるような感じがしていた。
泣きも、笑いも、怒りもしない。それこそただの人形のように感じたんだ。
『緋月。お前は私が創った…我が願いの為に。我が願いの成就の為に』
…やっぱり、お前だったのか。何処か似ているような気がしていたのは、俺の気のせいじゃなかったってことだな。
だが、蝙蝠野郎が創ったっつーのはどういうことだ?確かに魔女がコイツの願いを叶える為には、姫の力と緋月が必要だとは言っていた気ィするけどよ。
そんなことを考えていたが、次に見えた映像に…全て持っていかれた。
幼い頃、異空間から現れた少女の剣に貫かれ、命を落とした母上。
その記憶はちゃんとあるはずなのに、犯人である少女の姿はおぼろげだった。
覚えているはずなのに、今ではぼんやりとしてしまってどんな奴だったかハッキリしない。
その少女が、今―――目の前にいる。
真っ赤な髪、真っ赤な服、虚ろな瞳、表情のない顔、真っ赤な大振りの剣。
それは、さっき"緋月"と呼ばれた少女。俺がずっと…恋焦がれた女の、幼い姿だった。
そこまで見えて、映像はプツリと切れた。
傾いだ体を剣で支えれば、視界に映るのは玖楼国。さっきまで俺達が戦っていた場所だ。
隣には魔術師と小僧がいる。前には気味悪ィ笑みを浮かべた蝙蝠野郎と…表情の見えない緋月の姿。
…よくわからねぇが、俺達は緋月の過去を見せられていたのか…?
「見たか、この人形の過去を。…緋月は私が作った、願いを叶える為の人形だ。真者(ホンモノ)同様の出来の―――素晴らしい"殺戮人形"だよ」
「人形……?写身、ということか?」
「まぁ、写身と同様のモノだ」
…あぁ、そうか。緋月がずっと怖がっていたのはこういうことか。
ある日を境に俺達と……いや、俺自身と距離を置くようになったのはこういうことだったのか。
自分が、俺の母上を殺した張本人だと―――思い出したから。