伝説と史実


―――フッ

いつの間に眠っていたんだろう…。
ふぁ〜と欠伸をしながら体を起こせば、姫さんとモコはもう起きていたようでベッドから出ていた。


「あ、おはよう緋月ちゃん」
「おはよー!」
「おはよ…寒いね、今日も」


ブルリと体を震わせて、昨日もらったストールを肩から羽織る。
これだけで大分寒さが和らぐんだよね。


「さーて、あっちはもう起きてるのかなー」
「緋月ちゃん、昨日の…夢なのかな?わたしが寝ぼけてたのかな…」
「2人で全く同じ夢?それは有り得ないと思うなぁ。現実だと思うよ?アレが本物かは別として、ね」


扉を開けて廊下に出れば、向こうも丁度部屋から出てきた所で。三者三様の挨拶をされた。


「サクラちゃん、緋月ちゃんおはよー」
「おはようございます」
「おう」
「おはよー」
「…おはようございます」


少し浮かない顔をしていた姫さんの様子にいち早く気がついたのは、やっぱり小狼くんで。何かあったのかと尋ねている。
姫さんがチラリと僕を伺うように視線を寄越したから、大丈夫という意味も込めて軽く頷いてみせた。
そして、昨夜見たことを話そうとした時―――


「子供が―――――!!」
「!!?」
「え…っ」


外に出てみれば、町の人達が集まっていて慌ただしく動き回っている。
…どうやらまた子供がいなくなったらしい。
その子の親であろう女性は、泣きじゃくりネコのぬいぐるみを大事そうに抱きかかえていた。

―――ネコのぬいぐるみ?

昨日、此処へ来た時に小狼くんが話しかけようとした女の子…あの子が同じモノを持っていたはず。いなくなったのはその子で間違いないんだな…。
家の鍵は確かに掛かっていた。子供には鍵を絶対に開けないように教えてあったはずなのに、中から開いていた。壊された形跡も…ないらしいけど。


「やっぱり金の髪の姫が子供達を…!」
「緋月ちゃん、どうしよう…あれは―――」
「あれって何だ?!」

―――ザッ

「ちゃんとお話しますから、不用意に彼女を怖がらせないで下さい」
「昨夜、雪の中を金色の髪をした白いドレスの女の人が、黒い鳥を連れて歩いて行くのを見たんです」
「僕……えっと、私も見ましたから、彼女が寝ぼけてたとかではないかと思いますが」
「やっぱり金の髪の姫が子供をさらって行くんだわ!」
「北の城の姫君だ!」
「姫の呪いだ!」


…果たして、本当にそうなんだろうか?
仮にそのお姫様が子供をさらっていたとして、何の得があるんだろう。
皆はお姫様の呪いだと信じて疑わない。300年前のことも、お姫様が子供をさらったと思っている。
その根本から違っているとすれば。今回の誘拐事件に関しても、考えは変わってくると思うんだ。
はてさて…どれが真実(ホントウ)で、どれが虚構(ウソ)なんだろうねぇ?


「いい加減にしないか!」


いまだざわざわと騒いでいた住民を一喝した鋭い声。そこに立ってたのは、やっぱりグロサムさんという人。
来るや否や、僕達5人しっかりと睨まれました。ギロリと。
金の髪をお姫様を見た、と言ったからかなー。原因として考えられるのは。あとは余所者だから、今回の犯人と疑われているから…だね。


「此処にいても仕方ない!さあ!子供達を探そう!!」


町長さんの一言で町の人々は散り散りになり、あのでっかい声で喋る人に一睨みされ。
今はカイルさんの家に戻り、朝ご飯を頂いています。
話題に上るはもちろん、姫さんと僕が見た金髪のお姫様のこと。


「…お2人共、金の髪の姫を見たんですか?」
「はい」
「ごめんなさい。わたしがあの時、外に出ていれば…」
「夢だと思ったんでしょう。雪の中を歩いているドレスの女なんて、現実じゃないと思うのは当然です」


でも、町の人達はそう思っていないみたいだった。
あくまでも300年前の伝説を、実際に起きたことだと認識しているように感じたけれど。


「『スピリット』の人達にとって、あの伝説は真実ですから」
「真実……あれは伝説じゃなくて、史実ということ?」

此処に来る前のレストランで聞いた御伽噺。300年前の伝説。
この国『ジェイド国』の歴史書に残っているらしい。

「300年前にエメロードという姫が実在して、突然王と后が死亡し、その後次々と城下町の子供達が消えた」


…確かにあの時に聞いた話と同じね。
子供達の行方については何も載ってないのかな?無事だったとか。


「『いなくなった時と同じ姿では、誰一人帰ってこなかった』と」
「そりゃあ、生きて帰ってこなかった…ともとれるな」
「だねぇ。回りくどい言い方が更に恐怖心を煽ってる」


もっと違う理由が、あったかもしれないのに。


「てか、黒鋼くん。フォークを咥えない!行儀悪いでしょうが」
「あははー。緋月ちゃんお母さんみたいー」
「お母さんじゃないっての!」


まぁ、それはさておき。此処には外れに城があると言っていたし、その史実と状況が似ているものね。
町の人達が伝説の再現だと思ってしまうのも、無理はないと思う。

だけど―――その伝説を悪用してる可能性もある、ってことよね。この町の"誰か"が。

何の為にかは想像もつかないけど、金銭目的ではないのは確かだよな。
特にそういう声明が届いているわけでもないみたいだし。…とすれば、単純に命を奪いたいだけ?
いや、それなら何処かしらに死体があるはずなんだ。
周辺の捜索は当然のごとくしているだろうから、生きていないという線はまだ薄いだろうね。


「町で金の髪の姫を見たのは他には…」
「いません。サクラさんと緋月さんと仰いましたね。貴方達が初めてです。その事でグロサムさんが何か言ってくるかもしれません」
「私達が初めての目撃者かもしれないから、か」
「そうだろうねぇー」
「その『ジェイド国』の歴史書は読めるでしょうか」


カイルさんに歴史書を持っているという町長さんの家の場所を聞き、貸してもらえないかどうか聞きに行くことにした。
何か手掛かりになるようなことが書かれていれば、苦労はないんだけど。
町長さんも何度も読んでるだろうし、手掛かり自体は得られないだろうねぇ。
…だけど、小狼くんは何か気になることがあるんだと思う。ま、純粋な興味もあるだろうけどねー。


「これで21人目だ」


追い返されるかも、と思っていたんだけど…案外、すんなりと家の中へと上げてもらえた。
案内された部屋のソファには作家役のファイくんと、その妹役の姫さんに座ってもらうことにした。
僕と小狼くんはファイくんの助手役だし、黒鋼くんは使用人の役。一応、外ではその役で通しているんだし、僕達3人はソファに座るのは非常にマズイわけです。色々と。
…まぁ、役でなくとも小狼くんと黒鋼くんは座らないだろうけどさ。


「手掛かりになるようなものは何もなかったんですか?」
「残されていなかったよ、今回もね」


項垂れる町長さんが、今の町のことなどを教えてくれた。
ここ数年前から気候が安定してないらしくて、ずっと凶作が続いているそう。そんなこともあって、町の人達は気が立っているみたい。
なのに、子供がどんどん消えて…その上、300年前の伝説まで出てきてしまった。

子供が最初に消えたのは2ヶ月前。早朝に木の実を拾いに行って、そのまま帰ってこなかった。
それから1人、時には3人一緒だったり…どうやら、消える人数はまちまちみたいだね。
だから大人は何度も、夜外に出てはいけないとか、知らない人について行ってはいけないって言い聞かせてるんだ。


「それなのにいつも暴れた様子もなく、ただ子供だけがその場から消えている」


今日の朝、泣きじゃくっていたあの女性も言ってたな。鍵は壊されていない、中から開けられていたって。
でも開けないようにと厳しく言われていたはずなのに、何で開けてしまったんだろう?誰かが尋ねてきた?
…いや、ないな。それだったら家族が気づかないはずがないもの。それは絶対にないわ。
自分の世界に入っていた時、町長さんがスッと1冊の本を差し出した。


「300年前のこの国について書かれた歴史書だ。エメロード姫についても、伝わっている話よりは詳しく書き記されている。わしも何度も読んだが、今回の件の手掛かりは見つけられなかった。読み終わったらすぐに、この町を出なさい。取り返しのつかないことになる前に」


真剣な表情をして、忠告をくれた町長さんには悪いけれど。僕達はこのまま町を出るわけにはいかない。
この町の何処かに姫さんの羽根が眠っている可能性があるから。
だから、それが見つかるまで…もしくはないとわかるまで、此処から出るわけにはいかないのよね。小狼くんもそう思っているんでしょう。
町長さんに否と告げる時の彼の瞳の奥には、炎が燻っていたから。
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