紅と紫
コロコロと表情が変わる奴だ―――
目の前で楽しそうな顔で露店の商品を眺めているそいつを見て、そんなことを思った。初めこそ気に食わねぇと思っていたはずだったのに、気がつけば目で追い続け、愛しいと…一生この手で守ってやりたいと思うようになっていた。
人生っつーのはどう転ぶかわからねぇものだな。
「ねぇねぇ、黒鋼くん!」
「なんだ?」
「シャオとファイくんには、どれがいいと思う?」
モコナはね、黄色のトンボ玉にしたの!
相変わらずにこにこと笑みを浮かべている緋月。よく見ていた上辺だけの、何かを隠したような笑みではなく、心の底から笑っているような…そんな笑顔だ。
ピッフル国で初めて見た笑顔と同じもので、ずっと見ていたいと思うくらいには綺麗だと思うし、可愛らしいとも思う。んなこと言えば頭でも打ったか、と本気で心配してくるような奴だから、絶対に言ってやらねぇけどな。
「何で白まんじゅうに黄色なんだ?アイツなら白か額の石と同じ、赤だろう」
「ダメだよ、赤は黒鋼くんの色だもん」
「は?俺?」
「そっ!キミの瞳は綺麗な赤なんだから、キミの色なんだよ」
いくらモコにでも赤はあげられないんだ、と得意げに言っているが…その言葉の破壊力、てめぇで考えたことあんのか?コラ。
溜息をつきそうになったが何とか飲み込み、気休めとばかりに顔の半分を手で覆った。鏡で見たわけじゃねぇからわからねぇが、きっと赤くなっているんだろうな。俺の顔は。それこそ魔術師に見られたら末代までからわかれてしまうだろう、俺が照れるというのはそれくらいに珍しいことだと思っている。
(本当にこの女は…)
俺の気持ちを知ってか知らずか、いまだに緋月は楽しそうにトンボ玉とやらを熱心に選んでいる。全く…コイツはいつまで経っても俺の心を離してくれそうにねぇな。もちろん、こっちだって離してやる気なんざ更々ねぇんだが。
く、と笑みを零し、緋月の後ろから手元を覗き込む。するり、と肩に回した腕の感触にコイツはビクッと身体を揺らしたが、んなのは気づかねぇフリだ。
「あ、の黒鋼くん…?!」
「なんだ。不都合でもあんのか」
「なっないけど、どうして急に…!」
「いいだろ、別に。…今日はでーとってやつなんだろう?」
振り向いた緋月の頬に口づけを落とせば、ほんのり赤くなっていた頬が一気に真っ赤に染まった。くく、面白いくれぇに反応しやがるな。
「おら、アイツらの土産にするんだろ?さっさと選んで続き、するぞ」
「続きって言わないでよ恥ずかしい…!」
「魔術師には蒼、小僧には琥珀色―――ああ、これなんかいいんじゃねぇのか?」
「しれっと選び始めるね?!」
ひょいひょい、と選んだトンボ玉を緋月が持っていたカゴの中に入れていく。これで今日は別行動をしているアイツらの土産選びは終了だ。
ちゃんと見ていなかったが、この露店は選んだトンボ玉を腕輪や首輪にしてくれるらしい。あとはすとらっぷ…?にもできる、と言っていたか。成程、あんな小さな石を土産にするとか何を考えているのかと思ったが、そういうことだったんだな。
会計をしている緋月を待ちながら、再度たくさんのトンボ玉を視界に映す。土産だから、とアイツは3人分しか選んでいない。だが、どうせなら…と、赤と紫のトンボ玉を2つずつ引っ掴む。
「あれ?どうしたの、黒鋼くん。お会計なら終わったよ」
「店主、これも頼む」
「かしこまりました。どのように加工致しましょうか?」
「腕輪を2つ。トンボ玉は赤と紫を組み合わせてくれ」
「ほほう、同じデザインのブレスレットを…1つはそちらのお嬢さんへのプレゼントですかな?」
初老の店主は楽しそうに笑みを浮かべている。そうだ、と頷けば、緋月が素っ頓狂な声を上げて思わず吹き出した。
お前はなんつー声を上げてやがんだ。ほら、店主だって思いっきり笑いを堪えてんじゃねぇかよ。
「ふふ、失礼…お嬢さんの良い人は、とても素晴らしい方ですな」
「!…は、はい……」
さっき以上に顔を赤くしている緋月の手をそっと掴めば、赤い顔のままへにゃりと笑みを浮かべた。
(前、キミにもらったブレスレットはおしゃかになっちゃったから嬉しい…!)
(そりゃあ良かったな)
(しかもお揃いだし、…へへへ)
(…顔、思いっきり緩んでるぞ)
(仕方ないじゃない、嬉しすぎるんだもん)