03


 side:小狼


町長に町の記録を借りた帰り道、子供の診察をしているカイル先生を見かけた。
何だろう…上手く説明は出来ないけど、診察しているというよりあれは―――――


「カイル先生、忙しいねぇ」
「2年前、先生が来るまでこの町にはずっと医者はいなかったんだ!病気や怪我した奴らだけじゃない!子供達ともよく遊んでくれて!本当にいい先生だよ!」


町の人達からの評判は最高にいいんだな、あの先生。
カイル先生が部屋から出て行った後、ベッドに寝ていた子供が不意に起き上がって。
窓を開け、空を仰いだ…まるでそこに何かあるように、一点を見つめてる。何もいない空間を指差して、「黒い鳥」とポツリ呟いて。


「(何も、いない…空には鳥は飛んでいないのに、何故?)」


推測になるけど1つ、思い当たることがあった。
"それ"ならば、今の子供の行動も…他の子供達が何故、全く騒いだ形跡がないのか。また、何故鍵は壊されていないのに子供が消えたのか。
全てに説明がつくような気がしたんだ。

ただ、まだ証拠が足りない。これでは"彼"が犯人だとは断定できないな。
罠を、仕掛けてみるか。上手くいけばきっと、何か行動を起こすはずだから。



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「どうしました?」
「すみません、手を怪我してしまって…。薬があればお借りできないかと思って」


さっき転んだ時に手をぶつけてしまったらしい(ちょうどいい口実になったけど)。
薬を借りる、という名目でカイル先生の部屋に入り込んだ。そして、おれの推測を…全て話した。
グロサムさんが、犯人かもしれないと。今晩、自警団の人とグロサムさんを見張ることにしたと。
そう告げれば、ショックを受けたのだろう…頭を抱え、座り込んでしまった。
…ひとまず、第一段階は成功かな。


「今日も…雪になりそうですね」


後は―――どう動くのか、夜まで待つのみだ。


少年は静かに罠を張った。恐らくは、罠に掛かるだろうと…確信を持っていた。
まさかそれが、自分を追い詰めるものだとは夢にも思わず…"犯人"は動く。
―――自分の欲の為に、全てを意のままにする為に…ある少女から居場所と地位を奪う為に。
さぁ、茶番は終わりだ。化けの皮を剥ごうではないか。



「グロサムさん?!どうして此処に?!」
「グロサムさんは犯人じゃありません。ずぶ濡れになってたことがその証拠です」


ずっと子供達の行方を追っていたという、グロサムさん。
でも彼が本当に犯人ならば、ずぶ濡れになることなど有り得ないんだ。
ましてや、子供が此処を渡るのに…大人がずぶ濡れになっていたら、子供なんて簡単に流されてしまう。これだけの早さで流れている川ならば。

だけど、真犯人なら…もっと楽に川を渡る方法を知っている。
だからおれは断言できるんだ。グロサムさんは犯人ではない、と。そして、おれがカイル先生が犯人だと睨む証拠は―――…


「町長から預かった、子供達がいなくなった時の記録です。そしてカイル先生、貴方の診療記録です。姿を消した子供は、その数日前に必ず貴方の診療を受けている」
「町の人達は全員、私の診療を受けています!そんな偶然…!」
「最初にいなくなった子供は、健康診断ということで貴方が診療所に招いていますね。そしてその後は、友達がいなくなった子供達を落ち着かせる為に、という理由で子供達を診察している。
貴方は催眠治療もなさるんですよね。貴方が今日診察していた子供が言っていました。黒い鳥…子供は空を指していたのに、鳥は飛んでいませんでした」


…そう。カイル先生は子供達に暗示をかけていたんだ。

"足跡が残らない雪の日に、いない鳥を追って子供達が自分で姿を消すように"

だから鍵を壊された跡も、騒いだ様子もなかった。
そして自分で家を出た子供達は今、あの城にいるのだろう。…カイル先生が流れを止めた、川を渡って。


「どうやったんだ?!何故、川の水が止まったんだ?!」


理由は簡単。
この城にはたくさんの地下道が掘られているらしい。地下に作った部屋もあったようだし。その中に地下水道があったと、歴史書に記述があった。
地下水道があるのなら、城へ水を引き込む為に川の水を何処かで制御しているはずだから。
…どうやらファイさん達は、無事に川の水を止める装置を見つけられたみたいだな。推測が当たっていて良かった。


「先生!!違うよな先生!先生が子供をさらったなんて、嘘だよな!」
「…く…あはははは!!全く、とんだ計算違いだったな。ちょうど良く来た余所者に子供さらいの罪を着せて、さっさと目当てのものを手にしたら、この町から出て行くつもりだったのに」
「先生…!」


ようやく剥がれた化けの皮。
優しい仮面を被った…狼のように。


「あの城の中に欲しいものがあったんでね。それがちょっと厄介な場所にあって、子供じゃないと無理だったんだ」
「そんなことの為に子供達を!」
「そんなこと?あれの力を知らないからそんな馬鹿が言えるんだよ」

―――タッ

「待て!」


カイル先生が走り出した瞬間、モコナが光る粉を先生の足にかけてくれた。これで何処に行ったかは、一目瞭然だ。追いかけられる。
一見、水の上を走ってるように見えるけど…違う。
水の中に岩があるんだ。水面下にあるそれを渡っていっているから、まるで水の上を走っているように見えるだけ。


「追いましょう」


この先に、おれ達の求める人がいるのだから―――――。
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