04
side:緋月
―――ガチャッガチャン…ッ
「ダメだ…抜ける気配が全然ないや」
上がる息。
飛び散る鮮血。
抜けない鎖。
誰もいない空間。
あぁ、嫌だな…あの人達と過ごした時間は少しだけなのに、もうこんなにも独りに耐えられなくなっている。
決めたはずだったのにね、暖かさも優しさももういらないって。
それなのに―――こんなにも独りは嫌だと、心が叫ぶ。
姫さん…無事、かなぁ。小狼くん達は真相に辿り着いて、羽根を取り戻すことは出来たのかなー。
沈む、沈む…思考がどんどん深い底へと沈んでいく。
これ以上沈んだら、上がってこれないのに…それでも止まることなく。もっと深い場所へと。
「って!何、沈み込んでるんだ!僕は!」
こんな所で一生を終えてたまるかっての。あっぶなー…。
鎖…抜けないのなら、もう壊しちゃおうかな。出来ることなら、魔力は温存しておきたい所だけど仕方がない。
スウ…と精神を集中させ、髪と瞳の色を紅へと変化させる。
よし。これで魔法を使う準備は万端。
あとはー…4点を一回の魔法で壊せるか、ってとこなんだよねー。こういうの、まだやったことがないんだよな。
「…ま、やってみないことには何とも言えないか。頼むよ〜、僕の魔力。モード、破壊。…"バースト"!」
―――バキィンッ!!!
―――ゴトッ…ゴトンッ
金属が割れる音と、床に落ちる音が響いた。それと同時に両腕が重力に逆らうことなく、下へと落ちてくる。
ふう…何とか成功したのかなぁ?足の枷も取れたっぽいし。…血だらけだけど。
とりあえずこのままじゃアレだし、止血しておこう。
何か縛るもの〜と探してみるけれど…手頃の布が、そんなにちょうど良く落ちてるわけはないよね…。
しゃあない。ドレスの裾を破いて、傷口に巻いておこう。もったいないけどね、ものすごく!
―――キュッ
「よしっと!頭は…血は止まってるっぽいから、とりあえずこのままでいいか。まずは此処を出なきゃだな」
扉に手を掛ければ、案外簡単に開いた。…鍵、掛けてなかったのね。
鎖で拘束してたから逃げられるはずがないと考えてたんだろうな。でも残念でしたー。
部屋の外に出てみれば、カツーンッカツーンッと何かを叩くような…甲高い音が耳に入ってきた。
割と近い所から聞こえる…もしかして、そこに子供達がいるのかしら。音がする方へと足を進めて行けば、見覚えのある後姿が見えた。
あれは…姫さん?!傍には瞳が虚ろな子供達もいる。そして…金の髪のお姫様まで。
―――これは一体、どうなっているの?
「姫さん!」
「!緋月ちゃんっ…大丈夫?!すごい血…!!!」
「このくらい平気だよ……その、手に持っているのは」
「わたしの羽根。…このお城の地下にあったみたい、エメロード姫が教えてくれたの」
―――300年前。エメロード姫は、羽根の力で子供達を救うことが出来た、と言った。
けれど、彼女はもう亡くなっているから誰にも見えなくて…子供達が城に連れて来られても、何も出来なかったんだって。
どうか子供達を家に帰してあげて欲しい…それがお姫様の願い。
ずっと―――子供達の無事だけを、願っていたんだね。お姫様は。
「サクラさん、緋月さん!」
「カイル先生!」
「姫さん、僕の後ろに隠れて」
「え、緋月ちゃん…?」
「みんな探していましたよ。さ、こちらへ。どうしました。裸足のままでは怪我をしてしまう。早くこちらへ…」
「どうしてわたし達が裸足だとご存知なんですか?」
姫さんの一言に、嘘つきの仮面が剥がれ落ちた。
「助手とかいう子供といい、知恵がまわるのも困りものだね。靴を脱がせて鎖までつけたのに、こうやって抜け出してるしな」
「…姫さん、羽根をしっかり抱えててね。絶対に離さないで」
「…うん!」
「羽根をよこせ!」
―――渡さないで
「エメロード姫!」
幽体である彼女は、カイルの瞳に映らない。そして体に触れることも出来ない…だから、ただ通り抜けていくだけだ。
…逃げないと、羽根を奪われてしまう!急いで姫さんを立たせて、思いきり駆け出した。
手首が痛いとか、頭が痛いとか、足が痛いとか…そんなの、今はどうでも良かった。コイツに姫さんを…そして羽根を渡しちゃいけないと、そう思ったから。
走って逃げている間、アイツは真相を語り始めた。…勝手に。
それを掘り出す為に、子供達を集めたんだ。
あの絵に隠されていた絵は300年前、城にいた子供達の避難用だったらしい。掘り崩せない程、固い上に大人じゃ通れないくらい狭い。
おまけに羽根がある氷は、春になっても溶けやしない。バカみたいに硬いしな。
仕方ないから、子供達に暗示をかけて城で掘らせてたんだ。思ったより時間がかかったがな。けれど
「やっと手に入る」
―――グイッ
―――ダンッ!
「っ?!」
何かに引っ張られたような感覚。そして、そのまま倒れこんだ。
体を起こして振り向いてみれば、カイルが姫さんの足についていた鎖を手にしていて…ようやくそれを引っ張られたんだと、理解した。
「サクラ姫!緋月さん!」
「近寄るな」
スゥ…ッと姫さんの喉元にナイフが寄せられる。
その光景を見て小狼くんは尚、眉間にシワを寄せ、後から走ってきた黒鋼くんとファイくん達も動きを止めたみたい。こんな状況だものね…。
しまった…こんなことなら、さっき姫さんを背中に庇っておくべきだった。
「この羽根さえ手に入れれば、こんな小さな町…いや、国も全部意のままだ。何せ300年前、金の髪の姫はこの羽根の力で城下町の子供達を救ったらしいからな」
「金の髪の姫は子供達をさらって、城で殺したんじゃ…!」
「殺す為だけなら、こんな部屋必要ないだろう」
「そういえば、此処に来る途中たくさんベッドがある部屋もあったねぇ」
「城に集めた子供達の為か」
「羽根を手にした後、王と后はすぐに死んだって!」
「…違う」
「まだそんなことを言ってんの?…愚かね」
お父様とお母様が亡くなったのは事故です。
その後、子供だけがかかる流行病が城下の町を襲って、何人もの子供が犠牲になりました。その時この羽根が降って来て…羽根の周りだけ何故か病気は力を無くすようでした。
凶作も重なり、皆困っていました。
だから少しでも力になれればと、城下町の子供達を皆、この城に招いたんです。元気になるまで。
「そう…それが貴方の真実だったんだね」
「じゃあ、いなくなった時と同じ姿で戻ってこなかったっていうのは…」
「サクラちゃんと緋月ちゃん、誰と話してるんだろうー?」
僕と姫さん以外には届かない、エメロード姫の言葉。伝説の真実。
それに痺れを切らしたのか…ナイフが振り上げられ―――
「幻との会話に付き合っているヒマはない!その羽根を渡せ!」
勢い良く、姫さん目掛けて振り下ろされる。
「姫さんっ!」
「やめろ―――――!!」