受け継がれる真実


姫さん目掛け、振り下ろされる刃。それを助けようと駆け出す小狼くん。

―――間に合わないっ!

そう判断した僕は、姫さんを抱き締めて前へ転がった。
刹那。背中に激痛が走る。
傷口が、熱い。ドクン、ドクンとまるでそこに心臓があるかのように脈打っている。
そんなに深くはないだろうけど…今日は血を流しすぎてるから、ちょーっとまずいかもなぁ。


「っつぅ……!」
「緋月ちゃんっ!!!」
「緋月さん!!!」
「緋月ちゃん!」
「……っ!」
「貴様…っ何故、邪魔をする!貴様もあの方の僕だろう!!!」


―――ズゥゥンッ

立ち上がろうとしたら、揺れた。
地震かな、とも思ったけど…微かに水の音が聞こえるような気がする。何処からか…水が流れてきているの?


「違う!!この音は!」


―――ド ン ッ !

瓦礫と共に降ってくるのは、大量の水。
小狼くん達が「川の水を止めていた装置が…」とか何とか話してたけど、僕にはさっぱりだ。
…ま、そんなことはどうでもいいか。脱出するのが先。
此処を出た時にまだ覚えてれば、その時に聞けばいいもんね。
姫さんの足についていた枷の鎖の部分を、小狼くんが叩き切って。黒鋼くん達がいる方へと、足を進めた時…自警団の人の声が響いたんだ。「危ない!!」って。


「危ない…?」
「緋月さんっこっちに…!」


―――グイッ
―――ドォンッ

黒鋼くん達と僕達の間に、崩れた壁や天井の瓦礫が落ちてきた。
道筋を塞ぐように。此処から逃げることを阻むように。


「黒鋼くん、ファイくん!先に行ってー」
「子供達を上へ!!」
「「必ず城から出ます!先に行って下さい!」」
「しかし!!」


優先しなきゃいけないのは、子供たちの命だ。
エメロード姫が死して尚、護ろうとしていた…助けたいと願ったから。それを無駄にしてはいけないと思うの。
無事に、怪我ない姿で親元に帰してあげたい。


「……行くぞ」
「はーい。さ、行きましょー」
「まだ仲間が危ないのに?!しかも1人は大怪我してるんだぞ?!!」
「『やる』って言ったらやる感じの人だからー小狼くん。緋月ちゃんもね、強い娘だから大丈夫」


子供達を連れて、上へ上がる黒鋼くん達。その姿を見て少しだけホッとする。…これであの子達は、きっと大丈夫。
階段を上がっている途中、黒鋼くんがチラリと僕に視線を寄越した…ような気がした。
表情はちゃんと確認できないけど、いつもより眉間にシワが寄ってる気がする。…心配、してるのかな?

…大丈夫。ちゃんと戻るから。

少しだけ笑みを浮かべて、コクリと頷けば。
向こうも意味を汲み取ったらしく、僕と同じように頷いてまた、上へ上がり始めた。


「姫、緋月さん!こっちへ」
「うん!」
「小狼くん?!」
「待て!」


彼が何もない壁を叩くと、扉になっていたらしく開いた。
さっすがお城…隠し扉とか、そういうものがあるんだねーやっぱり。
小狼くんが城の見取り図を覚えてるらしいから、何とかなるだろう。地上に関しての道は。

開いた扉の奥へ進んでいくと、そこの壁からもせき止められない水が壁を突き破って、天井も崩れてきてしまった。
地上へと繋がる道は、あっという間に瓦礫によって塞がれちゃったよ…。戻るにしても、後ろにはいまだ羽根を諦めきれていないカイルが追いかけてきているから、危険すぎる。
どうする…どうすればいいの?このままじゃ、此処は水が満ちてきてしまうのに…!


―――フワ

「エメロード姫!」
「どうして…」

此処に書物には載っていない隠し扉があります。さあ、急いで

「「ありがとう!」」
「小狼くんっ手ェ貸して!」
「え?」
「此処に扉があるの!エメロード姫が…教えてくれたの!」


瞳と髪を紅色へと変え、狙いを定める。
後ろにはアイツが迫ってきている。早くしないと、羽根が取られちゃうから。


「行くよ、小狼くん。しっかりと姫さんの手を握って!!」
「はい!」
「モード、攻撃。"ショック"!」


―――ドカッ
―――ガコンッ

今回は破壊するわけじゃないから、破壊魔法は使わない。
繰り出される小狼くんの蹴りへと言霊を乗せ、隠し扉をこじ開けた…けど、この壁によって止められていた水が勢い良く外へと流れ出したんだ。
当然のごとく、僕達はそれに押し出される形で外に流される。


「っわ…!」
「きゃあ!」
「姫!緋月さん!」
「ゲホッ…僕のことより、姫さんを―――」

―――ガボッ

「―――っ?!」
「緋月ちゃんっ!!!」


更に流れ出てくる水に、僕は飲み込まれそうになった。でもその寸前で、姫さんの手が僕の腕を掴んでくれたんだ。
遠くまで投げ出されずには済んだけど、あまりにも激しい流れに掴んでくれていた姫さんの手が離れてしまって。
そのまま彼女の手を掴むことはできなくて、結局は流されちゃったんだけど。

泳ぐことが苦手なわけではないけれど、スカートが邪魔をして上手く泳げない。
動けば動くほど、服が体に纏わりついて動けなくなっていく。
何とか上へ、とは思うんだけど…何か更に沈んでいっている気がしているのは気のせいなんだろうか?
頭が、手が、足が、体全体が、背中が―――痛む。
いまだに流れている血が、急速に体力を奪っていっている。そしてこの冷たすぎる川の水が、体温を奪っていく。


―――ゴボ…ッ

「(あー、コレ…本気でヤバイかもしれないなぁ…)」


少しずつ薄れていく意識。だけど、こんな所で死ぬわけにいかないんだ。僕は。
"キミ"に会って、殺してもらうまでは…死ねないから。報いを受けないといけないんだから、誰に何を言われようと。

無意識に上へ向けて、片手を伸ばした。…何かを掴むかのように、誰かに縋りつくかのように。
けれど何も掴めない。誰にも縋れない…ただ伸ばされた手は空を切るだけ。


「(……誰か―――――)」





あぁ、もう体に力が入らない…意識も保っていられない。
諦めたんだ、もう無理だと。死ぬわけにはいかないけど、どうにもならないって諦めた。
…なのに、伸ばされていた手がまた…何かに掴まれたんだよ、力強く。けれでも優しく。
そのままグイッと引っ張られて、ザバッと水面に顔を出す形になって。


「緋月ちゃんも『やった』ねー」
「ゲホッゴホッ…ファイ、くん…?」
「たく…無茶しやがって。さっさと上がれ」


顔を上げてみれば、にっこりと笑っているファイくん。
僕の手をしっかりと握って、眉間にシワを寄せている黒鋼くん。

這い上がればフワリと、暖かいものに体が包まれた。


「僕の…ストール…?」
「寒さはしのげないだろうが、ないよりはマシだろう。コートは小僧に貸しちまったからな…少し我慢してろ」
「そ、か…大丈夫だよ、このくらいのさむ、さ―――」
「緋月ちゃんっ?」
「―――っと…」


僕はそのまま、意識を手放してしまった―――――。
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