02


ふわふわ。ぽかぽか。
何だろう?とても暖かくて、とても優しくて…幸せって気分になる。
そんなものいらないって思っているのに、もっとこの幸せに浸っていたいと思ってしまう。


「ん……」
「目ェ覚めたか。気分はどうだ」
「へーき…頭は、痛いけど」
「血が出るくらいの力で殴られてたみてぇだからな」


目が覚めて、最初に瞳に映ったのは…赤い双眸の瞳。
初めて見た時も思ったけど、黒鋼くんの瞳ってすごく綺麗な色だよね。真っ赤で、宝石みたい。
赤は好きじゃないけれど、彼の瞳は好きだなって思う。どうしてかはわからないけど。

ベッドに沈んでいた体を起こして部屋の中を見渡せば、残りの3人と1匹の姿が見えない。
何処かに行ったのかと首を傾げてみれば、黒鋼くんが「あいつらなら姫とお前の部屋にいる」と教えてくれた。
…あ、本当だ。この部屋は彼らが借りている部屋だ…ベッドが3つあるもんね。


「姫はまだ寝てるが、特に怪我はしてねぇ」
「ん、そっか」


ふと両手首を見てみれば、綺麗に包帯が巻かれていた。あの夜と同じ。
右の手の平の包帯も巻き直されてるみたい。川の水で濡れちゃったからね。また…黒鋼くんがやってくれたのかな?

僕が眠っていた間もずっと傍にいてくれたのかなぁ…。
普段はこーんな仏頂面で、無愛想で、そっけないのに、時々ひどく優しい人なんだよね。意外と。
だからこそ、調子が狂うんだ。わからなくて、痛くて。そんなに優しくしないでいいのにとさえ、思ってしまうくらい。

そんなことをぼんやりと考えていると、不意に手を取られた。
視線を向けてみれば、いつものように眉間にシワを寄せて…でもいつもより険しい表情で。
どうか、したのかな?


「…黒鋼くん?どうしたの」
「あんまり無茶をすんじゃねぇ」
「そんなにしてるつもりはないんだけど…心配した?」
「…別に」


そう言って逸らされた瞳。でも耳は微かに赤く染まっていて、逸らすのは照れ隠しなのかなって思った。
黒鋼くんの心配の仕方、なのかも。これも。
優しくなんて、してほしくない。なのに、彼に心配されることが嬉しいと感じてる僕がいる。…どちらを、僕は求めるんだろうか。


―――コンコンッ

「はーい?」
「オレだよー。入っても大丈夫ー?」
「うん。どうぞー」

―――ガチャッ

「目が覚めたんだねー」
「ついさっきね。…どうかしたの?」


問いかけてみれば「城へ向かう」とだけ、告げられた。そしてそのまま、この国を後にすると。
あまりに突然すぎる気がするけど、姫さんの羽根は見つかったのだからー…当然といえば当然か。
頷いて了承を示し、此処を出る準備をしに一度部屋へ戻ることにした。
ベッドから下り、立ち上がろうとした所でフワリと体が浮いた。…何で突然、僕は持ち上げられているのかなー。
誰が持ち上げてるのかなんて、容易に想像がつくけどね。


「足首の傷はそんなにひどくないけど、まだ歩くのはきついと思うよー?素直に甘えちゃいなよ」
「でも部屋に戻るくらい…」
「此処で落とされたくなきゃ、大人しくしてろ」
「………はい…」


結局、そんなに距離があるわけでもないのに部屋まで担がれました。


―――ガチャッ

「緋月ちゃん!」
「姫さん。…大丈夫?」
「うん、ただ眠ってただけだから。緋月ちゃんこそ、怪我大丈夫?歩けないくらいひどいの?」
「ううん。念の為ーっていう黒鋼くんとファイくんの判断だって。そこまではひどくないよ、大丈夫」
「なら、いいんだけど」

ベッドに下ろしてもらって、どうしてまた城へ行くことになったのかその経緯を聞くことにした。
小狼くんによれば、姫さんが眠る前。エメロード姫に言われた事があるらしい。「誰かがずっと貴方達を視ている」と。
姫さんは何故彼女がそんなことを言ったのか、一体誰が視ているのか…その真意を聞きたいと願ったみたいね。
それでまた、城へ行ってみようということになったのか。うん、納得。


「…じゃあ、置手紙していこう。カンドーの再会の途中、水を差すのは野暮だからねー」
「置手紙?」
「そ。…お姫様が僕と姫さんに伝えてくれたこと、遺していかないと。ちゃんとした真実を、ね?」


300年前、エメロード姫は子供達をさらったわけじゃない。子供達だけがかかる病から守りたいと願って、あの城を解放した。
いなくなった時と同じ姿では、誰一人帰ってこなかったのは…元気になって親元に帰ったから。
決して死んだわけではないし、エメロード姫が殺したわけでもないの。
ただ、子供達を助けたかった。守りたかった。…それだけだったのだから。
…だから、お姫様の呪いだなんて悲しいことを言わないでほしい。

そしてどうか―――正しいエメロード姫の伝説を語り継いでほしいのです。これから、ずっと。


「…だめ。エメロード姫…何処にもいない…緋月ちゃん、何か感じない?」
「何にも感じない。…何処にも、いないんだと思う」
「前に侑子言ってた。心配ごとがなくなったら、霊は何処かへ行くんだって」
「成仏するってことか」
「よっぽど子供達が心配だったんだねぇ、金の髪のお姫様」


ずっと昔に最期を迎えた命なのに、ただ子供達の無事を祈り今までこの世に留まっていた。
無事に城から出れた子供達の姿を見て、安心できたのかなぁ?もう…心残りはなかったのかな。
今は心安らかに、眠れているといいなと…心から思うよ。


「けど、エメロード姫がサクラちゃんに教えてくれた『誰かがずっと視ている』っていうのは、どういう意味なんだろー」
「もうひとつわからなかったことがあるんです。カイル先生はどうして、あの城の地下に羽根があることを知ってたんでしょう」
「本にあったとかじゃねぇのか」
「グロサムさんに聞きました。羽根がエメロード姫のなくなった後、何処にあるか書かれた本はないそうです。それにそんな伝承もないと」
「この旅にちょっかいかえてるのがいるってことかー」
「『誰か』が」


この旅にちょっかいをかけてる者。あの時の、カイルの言葉。
その人物はきっと…ううん、絶対にあの人。
…あの人以外に、"この力"を求める人を僕は知らない。だって、僕が此処に存在しているのだって…あの人の―――



「干渉出来る値が限られているのはなかなかもどかしいが、それもまた得られる力の為だと思うと楽しいものだ。
―――――なぁ?緋月…」
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