叶えたい、護りたい
オーナーの織葉さんから帰る許可を貰った僕は、黒鋼くんとファイくんと一緒に家へ戻る途中。
足を捻ったファイくんは、自力で歩けないみたいだから黒鋼くんが担いでる。
「何で俺が…」とか何とか文句は言うくせに、最終的にはこうやってちゃんとやってくれるのよねぇ。
「緋月ちゃーん、大丈夫?重くないー?」
「これくらいの重さ、全然問題ないから大丈夫。…にしても、ちょっと買いすぎじゃない?」
カルディナさんが包んでくれた布の中には、彼女オススメのお酒が3本。
確かに黒鋼くんはお酒好きみたいだし、ファイくんも飲めるような感じだったけどー…小狼くんと姫さん、あとモコはどうなのかわかんないし。
そもそも、あの2人は酒場に入れない年齢=お酒も飲めない年齢なんだと思うけどなぁ。
…まぁ、とりあえずあの2人が飲めると仮定して、僕も飲めないわけじゃない。むしろ好きな方。
それでも5人+1匹で飲むにしては、多い気がするんだけど…僕の気のせい?
「余りゃ俺が飲む」
「何だかんだ言って、皆で飲んじゃうと思うよー?」
「…ま、1日で飲みきらなきゃいけないわけじゃないし、いいか。帰ったら飲むのー?」
「うん、そのつもりー。報告も兼ねてね」
「じゃあ、僕何かおつまみになるもの作るよ。お腹も空いたし」
「…メシ食ってねぇのか?」
「そんな時間ないもの。夕方から開店だしね」
途中の休憩か、家に戻ってから何か軽く食べようと思ってたくらいだから。
それに思わぬ所で鬼児と遭遇して、魔力使っちゃったもんだからねー…結構、体力とか削られてるんだ。
慣れない経験もしたし―――――思いきり泣いて、本音を少しだけ話してしまったから。
泣いたのなんてかなり昔のことだから、こんなに疲れるとは思わなかったよ。
でも…それを引き出してくれた黒鋼くんには感謝、しないとだよね。
―――ピク…
「?(何だろ…強い魔力、みたいな気配…)」
「おい?」
「どうかしたー?」
「いや…何か、妙な気配がした気がしたんだけど…気のせいかなぁ」
視線は上に向けたまま、2人の問い掛けに答えると…フワリとフードを被った"誰か"が、月を背に空を舞っていた。
すぐにその姿は闇に溶けて、見えなくなった。
きっとさっき感じた気配はあの人だろうけど…何者?この先にあるのは―――僕達の家だけ、なのに。
「何か気になるのか?」
「そこまでじゃないんだけどさ…ほら、織葉さんが言ってた新種の鬼児や、情報屋さんが言ってたこともあるからね。感覚が過敏になってるだけだと思うよ」
「でも緋月ちゃんのそういう勘って結構当たってるよー?ジェイド国では、特にね」
「あの時はたまたまだと思うけどねぇ。…あ、着いた」
話しながらてくてくと足を進めれば、あっという間に家にとーちゃくっ!
「たっだいまー」
「ただいまー…って、何かあったの?お客さんも来てるみたいだし」
「さっき鬼児が……ファイさん?!」
「ちょっと鬼児に遭遇してドジっちゃってー」
あははーって呑気に笑ってるファイくんだけど、パタパタと走り寄ってきた小狼くんと姫さんは心配そうにしてる。
そんな小狼くんも怪我、してるみたいだけれど。これはまとめて手当てしないとねー。見た感じ、そこまでひどい怪我じゃないみたいだから安心だけど。
黒鋼くんの肩に担がれていたファイくんが、家に着いたからそこから降りようとして、黒鋼くんがそれに手を貸す。
そしたら突然、支えていたはずの彼の手が…何故か離れた。
―――ずる…
「「わっ!」」
「わ…っファイくん!」
「わ〜〜〜」
―――ドサッ
―――ゴッチーンッ☆
「……蘇摩。何で此処に?!知世姫も一緒なのか?!まさか『天照』も同行してんのか?!」
いったぁ〜〜〜〜…っ!!!
支えを失って、バランスを崩したファイくんを受け止めようとしたんだけど…やっぱり無理でした。
そのまま下敷きになって、彼の額と僕の額が激突。
…てか、黒鋼くんの言ってる『知世姫』って一体…誰?
『蘇摩』と親しそうに呼んだこの綺麗な女性とも、知り合いなのかな?恋人、とか。
見たことないくらい焦った、というか…少し慌てている彼の姿は面白いけど。それと同時に、何だか胸がざわつくし、モヤモヤして…気分が悪い。
…何なの?この気持ち。
「あ…あの、確かに私は蘇摩です。でも貴方とお会いするのは初めてだと思うのですが…」
申し訳なさそうにそう告げる女性に、黒鋼くんは今までに見たことのない表情で驚いて、固まった。
「店番お疲れ様ー」
あの後、お客として来ていた護刃ちゃんや草薙さん、そして蘇摩さんという方と…小狼くんと仲良くなったらしい男の子の4人は、もう遅いからということで帰っていった。
僕達も家の中に入って、怪我した2人の手当てをすることに。
そこまでひどい怪我じゃなかった小狼くんは、今ファイくんの足に包帯を巻いてます。
「おでこ大丈夫?…紅茶淹れたんだけど、飲めるかな」
「平気だよー、今冷やしてるし。紅茶も有り難くいただきます」
「ごめんねぇ、緋月ちゃん」
「それにしても蘇摩さん、本当に黒鋼さんの国にいらっしゃる蘇摩さんとそっくりなんですね」
「びっくりしてファイ落っことしたー。それで緋月とファイがごっつんこ!」
「面白いくらいびっくりしてたよねぇ、キミ」
「うるせぇ!!」
「でも…本当に色んな世界にいるんだね。次元の魔女が言ってたように、『同じだけど違う人』が。だったら、これからも会うかもしれないねぇ。前いた世界で会った人と」
『同じだけど違う人』姿、形は同じだけれど…心も、生き方も、性格もきっと違う。
前は味方だった人でも、次に会う時も味方でいてくれるとは限らない。
だって―――その時の人とは、全くの別人だから。
「出来ました」
「ありがとう。上手だねぇ」
「酒場の方はどうでしたか?」
「あっ!割れてないかな?!」
さっき、ファイくんとぶつかった時に落としちゃったんだけどー……。
包んであった布をしゅるり、と解けば中からお酒が3本。ヒビもはいってないみたいだし…うん、良かった!無事だったみたい。
「僕の仕事先のバーテンダーさんオススメのお酒だよー」
「これ飲みながら話そうよー」
「「え?」」
「それじゃ、準備しよっか。ファイくん、カウンター借りるね」
「どーぞー。お願いね」
「緋月ちゃん、何か作るの?」
「ん。お酒のおつまみになりそうな、簡単なものをね」
「わたしも手伝う!いい?」
「もちろん。お願いするよー」
さーてと、何を作ろうかな。あんまり手の込んだ物は作れないしなぁ。甘い物じゃ黒鋼くんが食べられないし、何よりお酒に合わない。
卵とかあるし…オムレツとかにしてみようかな。あとジャガイモで何かもう一品。
上手く作れるかはわかんないけど、頑張ってみましょうか!
「すごく良い香りですね。おれも何か手伝います」
「本当ー?じゃあ、氷を小さく砕いてもらえる?お酒飲む時に使うから」
「わかりました」
「モコナも手伝うー!」
「あはは、ありがとー。コレ味見してみて」
―――ぱくっ
「おーいしーい!緋月料理上手ー」
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
「緋月ちゃん、ポテトパイ焼けたみたい。すっごくいい色!」
「こっちも出来上がり!黒鋼くーん、運ぶの手伝ってもらえる?」
「わぁったよ」
思ったより時間はかかっちゃったけど、何とか完成しました!
デミグラスソースをかけたオムレツと、色んな野菜を細長く切った野菜スティック。あとポテトパイに、クラッカーにチーズとか色んな具材をのせたもの。
モコに味見もしてもらったし、多分食べられる味になってる…ハズ。自信はないけど。
黒鋼くん、姫さん、小狼くんに作ったものやお酒、あとグラスなどを運ぶのを手伝ってもらって。
ようやく報告会のスタートのようです。