02


温かい…ポカポカして、フワフワして…何だか心地良い。


「おはようございます。すみません、遅くなって」
「おっはよー」
「だいじょーぶ。今、ちょうどいい感じに焼き上がったよー」


誰かの、声がする…


「おはよう」
「黒鋼、ひとりで食べ終わっちゃったー」
「食える時に食う。何があるかわかんねぇからな」


あぁ、そうか…この声は、小狼くん達の声だ…だから、何だか安心するんだね。


「わー忍者っぽーい」
「忍者だ!!」
「う…ん…」
「あ、目が覚めた?緋月ちゃん」
「おはよー緋月!」
「おはようございます。寒くなかったですか?」
「一応、ブランケットかけておいたんだけどー」
「だいじょぶ…ポカポカして、何か幸せだったし…」
「寝るんなら部屋で寝ろよ。体痛くなるぞ」


うーん、と大きく伸びをすれば黒鋼くんの言う通り。体の節々がパキパキと音を立てて軋む感触。
そりゃそうだよねー突っ伏して寝てたんだし。

あー…でも少し寝たから、スッキリしたかも。それにしても…何だか良い匂い。


「ファイくん、それ朝ご飯?」
「そー。ホットケーキだよ。食べられるー?」
「うん、お腹空いたー」


問い掛けに頷けば、コトリと置かれた出来立てのホットケーキ。ハチミツもたっぷりかかってて、すっごく美味しそう!
一口食べてみれば、ハチミツの甘さが口の中にふんわりと広がって。


「ん〜〜〜〜っ美味しい〜!!やっぱり、ファイくん料理上手だよねぇ」
「緋月ちゃんも料理上手でしょー?この前作ってくれた、和食…だっけ?アレ、すっごく美味しかったし」
「へへー、ありがとう」
「そういえば、今日一日のワンココンビのスケジュールはー」
「市役所に行きたいんです」


昨日、小狼くん達と僕が会った『鬼児を従えるモノ』…恐らく、新種の鬼児と噂されていたモノ。…でも残念ながら、ほとんど情報がない。
だから、もしかしたら市役所の人なら何か知っているかもしれないって小狼くんは考えたんだね。
鬼児の動向を把握しているくらいだから、新種の鬼児についても調べ上げてるはず。
知らないってことは…ないと思うんだ。


「緋月さんはどうしますか?」
「今日はファイくん達の手伝いをする予定だから、留守番してる。何かわかったら教えてね」
「わかりました。酒場の仕事はお休みですか?」
「うん。今日はお店自体が休みの日なんだってー」
「今日は緋月も一緒に喫茶店〜!」
「頑張ろうね、緋月ちゃんっ」
「ふふっそうだね」


小狼くんが食べ終わったのを見計らって、ワンココンビは出かけていきました。
新種の鬼児や姫さんの羽根について、何か情報が得られればいいんだけど。
さてさて。今日は一日、女給さんをするわけだけどー…服、これしかないのよね。歌い手の服はお店に置きっ放しだし。
この服にエプロンをすれば何とかなるかしら。


「はい、緋月ちゃん。エプロンだよー」
「あ、ありがとファイくん」


エプロンをつけて、今日も元気に喫茶店『猫の目』開店でございます!


―――ザー…カチャカチャ

お昼を少し過ぎた頃、午前中に来店してたお客さんは皆帰っていって。
店内に残ったのは、ファイくんと姫さんとモコと僕。
朝ご飯で使ったお皿や、お客さんに出したお皿とカップを片付ける為、僕と姫さんは奥のキッチンにいた。
ファイくんはお店の方でお仕事中ー。


「ゆっくりでいいよー、サクラちゃん」
「はい。でもあとちょっとだから」
「頑張り屋さんだね、姫さんは」
「一緒に旅してる皆に、わたし何も出来ないから。出来ることだけでも頑張りたいんです。
いつか少しでも、辛いことを分けてもらえるよう………に……」

―――ぐらぁ

「きゃー!サクラ危ない!」
「……っと」


ふわり、と僕の腕の中に納まった姫さんは、すやすやと寝息を立てている。
…この国に来てからずっと頑張って、お店の仕事の手伝いしてたものね。本当にキミは、良い子だね。とても。


「本当に良い子だね、サクラちゃん。他に構ってる暇なんてないオレが、幸せを願ってしまうくらい」
「…幸せに…なってほしいな、姫さんには。たくさん」
「うん、本当に」


陽だまりのようなとても温かい笑顔の持ち主の彼女だから、それを失って欲しくないの。
泣き顔より、笑顔が見たい。彼女の旅路の終わりには、幸せが待っていてほしい。
姫さんの隣にいるのはとても心地良いから、そう…願ってしまう。
いつも元気を、優しさをくれるから。…これも彼女の人柄、なんだろうね?きっと。


「ファイくん、姫さんをソファに寝かせてもらえる?僕、毛布を取ってくるから」
「いいよー」


お店を出て、2階へと足を進める。


「護りたい、な…彼女の笑顔を。幸せを」


小狼くんがそう思うように、僕も姫さんの笑顔と幸せを護りたい。
それが例え、いつか我が身を苦しめるようなことになったとしても…いいから。

僕の願いが叶うその日までずっと、此処にいられるのならば。
何に代えても、姫さんを―――いや、皆を護りたいって思うようになった。

…うん。もう否定するのはやめてしまおう。
一度、芽生えてしまったこの気持ちはきっと…どうやっても覆すことは出来ない。此処にいる限り。だったら、その為に自分に出来ることをしよう。


「それくらい―――許されるでしょう?」


天井を見上げ、ポツリと呟いた一言に返事は当然返ってくることはなく。
それでも少し気分が晴れた感じ、だな。









緋月…お前は決して、私を裏切れない。

その身は私の物だ。
どんなに外に恋焦がれても…必ず、戻ってくる。

そう。―――私の元へ、な。
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