醒めた夢


ゆらゆらと、暗闇の中でまどろむ意識。水の中にいるような…そんな感覚で。
何も見えないし、何も感じないし、何も聞こえない…。

ビーッビーッ

突然聞こえた大きな音。まどろんでいた意識が、急激に浮上していく。
閉じていた瞳を開けば、何か透明の…カプセルのようなものに包まれていた。
此処は…何処だろう?さっきまでと光景がまるで違うし、何より―――生きている。
確かに鬼児に貫かれた感触があったような、気がするのに何ともない。


「一体、何がどうなってるのさ…」


自動的に開いたカプセルから、外に出てみれば。
同じカプセルが、頭上にたくさん浮かんでた。…中には人もいるし。


「……緋月ちゃん?」
「!ファイくんっ」
「あれー?オレ達、確か死んだよねぇ?」
「そうだと思ったんだけどーピンピンしてるんだよ」


外傷はないし、痛みもないしね。おまけに…服が元のに戻ってるんだ。着替えてなんていなかったのに。

まるで―――今までの出来事が、夢だったかのように。

もう一度、周りを見渡してみれば…僕達が入っていたカプセルの近くには、彼らもいた。
小狼くんと、姫さんと、モコと、黒鋼くん。
一緒にはいなかったはずなんだけど、彼らはすぐそこにいる。…ますます意味がわからなくなってきた。


「とりあえず、情報を集めようか…この状況をちゃんと把握したいし」
「そうだねー行こうか」


カプセルから出ようとするファイくんに手を貸して、立ち上がらせる。
必要ないかな、とも思ったけどさ?足くじいてたはずだし。


「足、痛くないみたい…」
「…え?」
「うん。やっぱり大丈夫、何ともないよ」
「治ったなら良かったけど…でもそんな急に?」


―――違う。治ったわけじゃない。『怪我をしていない』んだ。ファイくんは。
桜都国では怪我をしていたんだと思う。芝居でないことは、僕が証明出来る。
けれど、今のファイくんには怪我をした事実がないってことなんじゃないのかなぁ。自分で言っておきながら、よくわかってはいないけど。

これは尚更、色々と情報を集めた方が良さそうだね。差し出されたファイくんの手を掴んだ時、脳裏に何かの映像が流れた。
モコの口から吐き出された時のこと。何か乗り物のような物の中に落ちたこと。蓋が閉まって、意識が薄れていったこと。
―――そして、桜都国へと降り立った時の記憶に繋がった。


「い、まのは……」
「緋月ちゃんも見えたー?どうやら…今のが正しい記憶みたいだねぇ」
「そっか…此処は妖精遊園地」
「さ、皆が起きるまでに情報を集めに行こうかー」


全てを思い出した僕達は、情報を集めるために外へ出てみることにした。
アトラクションの外に出た僕達は、1人の女性に詳しい話を聞くことが出来た。
何て言うのか…信じがたいってわけではないけど、すぐに納得できるような内容ではなかった。
僕達がしている次元移動も十分、非現実的なんだけどさ?女性から聞いた話はまた、色々と違うんだよねぇ。


「まだ変な感じだけど、でも…不思議に思っていたことが繋がった、かも」
「桜都国にちょっかい出してる干渉者っていうのにも、ちょーっと心当たりがあるよね」
「主に小狼くんが、ね」
「もし何か知っているのなら、教えて頂けませんか?」
「オレ達より詳しい男の子がいるんでー、その子が起きたら連れて来ましょうか?」
「…お願いします」


聞きたいことはある程度、聞くことが出来たかな。
まだ夢の中にいる彼らがどうなっているのか心配だし、様子見も兼ねて一度戻ることにした。
もしかしたら、夢から覚めているかもしれないからね。

それにしても…すごいことが出来る人もいたものだよねぇ。
遊園地を作ることはともかく、僕達がさっきまでいた世界も作られたものっていうんだから。
そんなことが出来る技術が、この国にはあるってことよね?…うん、やっぱりすごい。


「あ、小狼くんが目を覚ましてるみたいだよー」
「本当だ!小狼くんーっ」
「ファイさん!緋月さん!」


『夢卵』に戻ってきてみれば、小狼くんが目を開けていた。
きっと、僕達と同じように強制退去になったんだと思う。…桜都国では"死亡"して。


「…良かった」
「生きててー?」
「死んだんだけどね、桜都国では」
「?」
「オレ達の方が先に死んだから、ちょっと聞いて回っといたんだー」
「此処はね、桜都国じゃないんだ」
「え?」
「「というか、桜都国は現実には存在しない。此処は桜花国にある、妖精遊園地」」
「ジェイド国を出て僕達が来たのは、この遊園地だったみたいだよ。此処はこの国の人達の遊び場らしいの」


そう。さっきまでいた桜都国は、仮想現実。卵型の入れ物の中に入って見る幻覚みたいなものになるのかな。
その仮想現実の中で戦ったり、生活したりするのが此処で人気の遊戯みたい。
小狼くんも仮想現実と聞いて、何か思うとこがあったみたいね。ポツポツと話し始めてくれた。

ずっと不思議に思ってたんだ。鬼児の動向を把握していたり、鬼児が鬼児狩りだけを襲ったり。
でも小狼くんが本当にヘンだなって思ったのは、黒鋼くんと2人で行った『小人の塔』という所での出来事。
全体が鬼児、という部屋があって、斬っても斬っても倒せない鬼児がいたそう。だけど、火をつけたら…燃えて…散った。
それだけなら特にヘンだとは思わないだろうけど、その部屋の床は濡れていた。


「まるで、燃やした鬼児のせいで塔に入った鬼児狩りが火傷しないようにしてあったみたいで…」
「なるほどー、そりゃヘンだねぇ」
「でも何故、この国に来た時のことを全然覚えてなかったんでしょう」
「あぁ、それはね…」

―――コツ

「『夢卵』を初めてお使いになる方には、このゲームをより楽しんで頂く為に訪れる仮想国が実在するとスムーズに認識できるよう、個人のデータベースを一部、改定させて頂いてます」


僕達にこの国のことを色々と教えてくれた女性。
その人が現れた瞬間に、小狼くんが突然片目を押さえた。…きっと、さっきの僕達と同じことが起きてるんだろうね。
この国に来た時のことを思い出してるんだと思う。


「…大丈夫?小狼くん」
「あ……」
「思い出したー?つまり、あの世界が本当だと思うようにされてたってことだねぇ」


―――けれど、1つだけおかしなことがある。
確かにこの国に来た時のことはさっきまで忘れていたし、桜都国では遊園地のことも覚えていなかった。
そして、死んだはずなのに外傷も何もなく、今も生きている。…あの世界が本当に仮想現実だったという証拠なんだと思うんだけど…小狼くんの手には『緋炎』が握られている。僕の腰にも、あの世界で手に入れた『紅紫蝶』が差してあるんだ。
目が覚めれば、あの国での出来事は全て夢のようなもののはずなのに。どうして現実の世界でも、この剣を持っているのだろう。


「千歳といいます」
「この遊園地を作った人達の1人なんですって」
「貴方は『夢卵』システムの干渉者をご存知だと伺いました。教えてほしいんです、その人のことを」
「何故ですか?」
「このままでは…ゲームがゲームで済まなくなってしまいます」


大きなスクリーンに映し出されたのは、街が鬼児によって破壊されていく映像だった―――
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