02
「ん……んんー…」
ずっと…長い間、眠っていたような気がする。
桜都国を出て―――新しい国に着いた記憶はあるんだけど、ひどく曖昧だ。
「あ、目覚めたー?気分はどう?」
「ファイ…くん?」
重い瞼を開けた先に見えたのは、蒼の瞳と光り輝く金糸の髪。
それがファイくんだと認識できるまでに、少し時間が掛かってしまって。やっぱり、寝起きだから頭が働いてないみたいー。
「僕…どうしたんだっけー?」
「新しい国に着いたのは覚えてるかなぁ?」
「うん。朧気ではありますが」
「これからどうしよっかーってなった時に、緋月ちゃん気を失うように眠っちゃったんだよ」
……あー、何となく思い出したかも。
疲れてたり、魔力を使いすぎたわけじゃないと思うんだけどね?何か急に眠くなっちゃって。
目を開けていることさえ出来なくなるくらいの眠気で、そのまま倒れこんじゃったんだったねぇ。多分。
あの時、抱きとめてくれた力強い腕は…黒鋼くんだったのかな?とても…暖かかった。
そこではた、と気がついた。黒鋼くんも、小狼くんも、姫さんも、モコも…いない。
この場にいるのは僕とファイくんとー…よくわからないふわふわもこもこした生き物。
「そういえば、他の皆は?…そして、この子達はなぁに?」
「小狼くん達は魔物退治ー。サクラちゃんの羽根の気配もするらしいし。この子達はこの国に住んでるんだってー」
「そう、なんだ……大丈夫かな?黒鋼くん達」
きっと無事に戻ってきてくれるとは思ってるけど、それでもやっぱり心配で。見えないから、尚更。
…や、危険な目に遭っていたら見えてても心配なんだけど。怪我とかしてなければ、いいんだけどな。
「…ねぇ、緋月ちゃん」
「どしたの、ファイくん」
「もしかしてーって思ってたんだけど、緋月ちゃんって黒ぷんのこと好きだったりするー?」
「?うん、好きだよ。小狼くんも、姫さんも、モコも、もちろんファイくんのことも大好きだよ?」
「ありがとー。でもオレが聞きたいのは、そういう意味の好きじゃないんだー。恋愛の意味での好きってことー」
恋愛の意味での、好き?それってつまりー……どういうこと?
好きっていうのは、1つしかないんじゃないの?意味なんて、ないと思っていたけれど。
「ごめん…僕、ファイくんの言ってることがよくわかんないみたい…」
「じゃあ、黒りんと一緒にいてどんな気持ちになるー?」
「どんな、気持ち…?」
黒鋼くんの傍にいると…すっごく暖かい。暖かくて、心地良くて、安心できて…時々、ドキドキして苦しくなる。
もっと彼のことを知りたいなって思うし、もっと近くに行きたいなって…思う時もある。とても、とても…素敵な人。
仏頂面だし、無愛想だし、言葉遣いは荒っぽいし、未だに名前も呼んでくれないけどね。
…でもいつも皆のことを見ていて、心配しているのを僕は知ってる。さり気なく気にかけてくれる、優しい心を持ってることも。
ただ、言葉や表情にあまり出さないだけなんだよねぇ。
「そっか…。緋月ちゃん、その気持ちが何て言うか知ってる?」
「(ふるふる)」
「それはね―――…」
「ねーねー」
「っ!!?」
「どうしたのー?」
!え、この気配は…姫さんの羽根?
「落ちてたー」
「これ、サクラちゃんの羽根?」
「キミ達、これどうしたの?」
「向こうに落ちてたー」
落ちてた?…でも今の今まで、羽根の波動は何も感じなかったのに。
小狼くん達が森の奥に行ったってことは、羽根の波動がそっちからしたからってことよね?
此処にあったってことは、モコが気がつかないのはおかしくないかな。
…何だか、上手く騙されてるような気がするのは、僕の考え過ぎなのか。
上手く説明が出来ないけれど、何かがおかしい。
ドンドコ♪
ドコドコ♪
ドンドコ ドコドン♪
そんなわけで。小狼くん達はまだ戻ってきてないけど、羽根は見つかりましたー。
いえ〜い、ドンドンドンパフパフ〜☆
…いかん。僕のテンション、謎だ。頭のネジとか、何か大切な物が飛んでいってる気がするわ。
え?ファイくんはどうしてるかって?彼ならふわふわもこもこしてる子達に、何かお祝いの踊りを教えてもらってる。
多分、僕達が探してる物が見つかったからーってことなんだと思うけど。確かに探してたし、見つかって良かったと思いますよ?僕だって。
だけど―――やっぱり、何かがおかしいんだよね。
「(これも…貴方の差し金なんですか?羽根を取り戻すことが出来るように…仕組んだの?)」
疑問を投げかけても、答えてくれる人は誰もいない。
…でも、貴方には届いているはずですよね?僕の疑問も、声も……想いも。見ているのでしょう?ソコから、僕達の旅を。
「ねえ?飛王・リード様……」
「緋月ちゃんは踊らないのー?」
「あはは…此処で見てる方が楽しいから、僕はいいよー」
へにゃんと笑顔を浮かべて、また踊りの輪に戻っていくファイくん。
あの笑顔は…きっと、仮面。誰も寄せ付けないように、誰にも悟られないように被っている仮面だ。
だけど、彼もまた―――聡い。人の気持ちに。
僕自身がわかっていない気持ちに、きっとファイくんは気がついているんだろう。
さっきの「好きかどうか」の話も、何かに気がついているから聞いてきたんだと思うしさ。でも…でもね、ファイくん。本当によくわからないんだよ、僕にも。好きとか…そういうの。
「だぁれもそんなこと、教えてくれなかったからなぁ…」
黒鋼くんの傍にいると安心するのは本当だし、好きなのも本当。
だけどその好きって気持ちは、小狼くん達に向けたものと同じでしょう?それ以外の「好き」っていうのは…どういうものなの?
ファイくんはその気持ちにも、ちゃんと名前があるって言っていた。話は中断されちゃったから、聞けなかったけれど。
一体、彼は何て言おうとしていたんだろう。
そして、それを告げようとした時…一瞬だけ、淋しそうに見えたのは気のせいだったのかな。
―――ガサッ
「緋月ちゃん!ファイさん!」
「あ」
「姫さん、おっかえりー。黒鋼くん達もー」
―――こけ。
走って、息を切らせて戻って来た彼ら。
何かあったのかと思ったけど、僕達の姿を見た途端に小狼くんと姫さんが豪快にコケました。
いーいコケっぷりだことー。
「おかえりー」
「何やってんだ、てめぇ」
「あはははは。教えてもらってたのーお祝いの踊りなんだってー」
「どうしてお祝い?」
「コレが見つかったからよ」
スッと羽根を出せば、モコの瞳がめきょっとなった。
…うん。やっぱり、この距離ならしっかりと感じるよね。僕も感じるし、羽根の波動。
戻って来た小狼くん達に魔物のことを聞いてみれば、魔物は竜巻だったと教えてくれた。僕は寝ていたから知らないんだけど、ファイくんはふわふわもこもこの子達から話を聞いていたらしく、予想がついていたみたい。
「生贄寄こせなんて、竜巻が言ったのかよ」
「それがねぇ…はい、もう一回♪」
「あの恐ろしいもの強い」
「すごく強い」
「住んでる所飛んでった。いっぱい倒れた」
「戦っても勝てない」
「勝てないならイケニエを出すのはどうか」
「いいかも」
「いいかも」
「おいしそうなイケニエ渡したら、もう大丈夫かも」
「きっと大丈夫」
「大丈夫だ」
「大丈夫って言った」
「だれが?」
「だれ?」
「あの恐ろしいものかも」
「あの恐ろしいものだよ」
せーの!
「魔物がおいしそうなイケニエ渡したら、もう荒らさないっていった!」
「言ってねぇだろ!」
「ま、伝言ゲームによくある展開だよねー。はい、小狼くん」
「ありがとうございます」
渡した羽根は、持ち主の姫さんの体の中へと吸い込まれていった。
それと同時に木々がザワザワと揺れ始めた。
強い、風……これが例の魔物扱いされた竜巻かな。
「竜巻だー!!」
「っわ…!」
―――トンッ…
「黒鋼くん…」
「掴まってろ」
「ん。ありがとう」
…ファイくんやふわふわもこもこの子達が、黒鋼くんの体に抱きついてるからものすごーく不機嫌だけどね。
でも支えてくれる腕は、とても暖かくて、とても優しい。
―――フッ
…フワ…ッ
風が止んで、空から降ってきたのはたくさんの花。
竜巻が…運んできてくれたのかな?
「綺麗な花…」
「この花は、竜巻のお礼かもしれませんね」