02
用意されていた朝ご飯は、桜都国で黒鋼くんに教えてもらった和食。紗羅ノ国って、もしかしたら彼の祖国に文化圏が似てるのかもしれないなぁ。
意味合いとかちょっと違うけど、陣社とかさ。食事も和風みたいだし。あまりこういう食事って食べてなかったから、黒鋼くんは嬉しいかもね。
「ん〜〜〜!これ、すっごく美味しいです!」
「お口に合ったのなら良かった」
「…お前、何か食ってる時が一番幸せそうだな」
「うん?…んー…そうね、そうかも」
桜都国で作ったのは一度だけだったし、しかも自分では食べなかったからね。和食を食べたのは今回のが初めてだったりするのです。
お箸は何とか使えるから、食べるのは楽チン!ただー…ファイくんは苦戦してるみたい。
上手く掴めなくて、なかなか食事が進んでいないから。
「これ、やっぱり難しい〜〜〜」
「ファイくんがいた国じゃ、こういうの使ってなかったんだもんね」
「お箸は苦手ですか?」
「すみません〜〜〜」
「いいえ、お気になさらず。でしたら、ぶすって感じでこう…」
…きっと、使いやすいようにレクチャーしてくれてるんだと思うんだけど…それ、作法としていいのかなぁ?
僕もあまり詳しくはないけど、ぶすって刺すのって行儀悪いような気がするのだけど。
でも陣主の蒼石さんがそう言ってるんだし、そこまでうるさくないのかもしれない。
―――バタバタバタッ
うん?何だか廊下が騒がしい…。
誰かが走ってるような音が聞こえるけど、何かあったのかしら?
―――バンッ
「蒼石様!!」
「お客様が御食事中ですよ」
「(あ、そこは注意するんだね)」
「すみません!けど、遊花区の奴らが!」
「いきなり蹴り飛ばして来やがったんだ!子供のクセにすげぇ蹴りだったんですよ!」
―――ピク
「その上、女だったのに!!」
ブッブー!
全員の頭の上に、×マークが浮かびました。
「小狼くんかと思ったんだけど、違ったみたいだねぇ」
「んー…でもさ、遊花区に3人が落ちてたとしたら女装しててもおかしくないんじゃない?」
「それは有り得るかもねぇ。こうやって会話が通じてるってことは、そう遠くないはずだし」
でも小狼くんが女装かぁ…似合っちゃいそうだよね。意外と可愛いかも。
「女、顔がにやけてるぞ」
「何考えてたのー?」
「小狼くんの女装姿ー。意外と可愛いかもねって」
……しばしの沈黙……
「………女」
「なぁにー?(もぐもぐ)」
「さすがにそれはやめてやれ…」
「あははーオレも同意見だなぁ」
「えー…ダメ?」
小首を傾げて尋ねてみれば、2人に大きく頷かれました。
そっかぁ、ダメかー…考えてみると、結構楽しかったんだけど。でも止められちゃ仕方ないか。
「ごちそう様でした。…さて、今日はどうしようか」
「羽根に関してはモコナもいないし、緋月ちゃんも感じてないんじゃどうしようもないよねぇ。あるかどうかもわからないし」
「その辺を歩いてみて、情報を集めるしかないか…まず、小狼くん達と合流しなきゃどうしようもないや」
「…なら、動くか」
「「はぁーい」」
氏子さん達と何やら話している蒼石さんに軽く声をかけて、僕達は外に出ることにした。
「歩き回ってはみたものの…情報は全然か」
「簡単には見つからないもんだねー」
―――時刻は夕方。陽も落ちてきて、辺りは夕陽に染められている。
朝ご飯を食べて、そこら辺を歩き回ってみたんだけど…小狼くん達に繋がる情報は0だった。
1日かけてもコレじゃ、合流できるのはまだまだ先かなぁ。
焦っても見つかるものじゃないのは理解してるんだけど、こうも何も情報が得られないんじゃ…どうしても焦っちゃうよ。
―――ゴゴゴゴゴ…
「地震か?」
「昨日の夜も揺れたよねぇ」
―――ハッ
「ねえ!空が……っ」
「「?!!」」
異様な気配を感じて空を見上げてみたら、割れていた。
一体、何がどうなっているの?あの割れた空の向こうには、何があるというの?割れた空を見上げても、何も見えない。…でも"何か"感じるのは確かだ。
言いようもないこの感じ…柄にもなく、背筋が凍った。
湧き上がる恐怖に、思わず黒鋼くんの服の裾をキュッと掴んでいた。
「…どうした?」
「わ、かんない……でも何か―――!」
「大丈夫?緋月ちゃん…」
「そのまま掴んでろ。…大丈夫だから」
黒鋼くんの手が背中を、ファイくんの手が頭を撫でてくれて…少し気分が落ち着いた。
さっきよりは冷静に頭が働くようになってるし、何とか大丈夫…かな。
「やっぱり阿修羅像のせいだ!!」
「そうだ!これも阿修羅像のせいに違いねぇ!!」
「もう我慢ならねぇ!!」
「あの像ぶっ壊すしかねぇ!」
「おお!」
「そんな…ちょっと待っ―――」
「やめなさい!!」
「陣主!」
「例え争乱を呼ぶと言われていても神の像。壊すことは許されません!」
「けど蒼石様!!」
「それより、何故このようなことが起こったのか、そしてこれからどうなるのか確かめる方が先です」
蒼石さんはそのまま建物の奥へと入っていった。
きっと、夜叉像の所へと向かうんだと思うけれど。
…ただの推測でしかないけど…夜叉像はまたきっと―――血の涙を、流していると思う。
「また姫の羽根が関係あるんじゃねぇだろうな」
「わからない…でも…」
「何かとんでもない感じなんだけど。あの空の向こう」
閉じる気配のない空。鳴り止まない地響き。治まらない大きな揺れ。
中に入って、夜叉像が祀られている部屋へと行ってみれば、やっぱり蒼石さんがいた。
視線の先にあるのは、夜叉像。右目からは僕の推測通り、血の涙が流れている。
―――ピクン…ッ
これ―――殺気?
それも1人のものじゃない…殺気の塊だ。感じるのは…外。空の向こう。
―――ダッ
「緋月ちゃん?!」
「俺らも行くぞ」
「あ、うん」
空が…割れてるだけじゃない、何か大きな渦が出来てる。
殺気の塊があるのは、あの渦がある所。
「…とんでもねぇ殺気の塊がある」
「…空の向こうにね」
「近づいて来てる」
夜叉像が祀ってある部屋の屋根から、光の柱のようなもの…そして、もう1本対になるように光の柱が立っている。
あっちは…もしかして、阿修羅像なのかしら?
何がどうなっているのかはわからないけど、何かに共鳴して、今のこの状態になってるんだと思う。
本当に…何が起ころうとしているの?この国は―――どうなってしまうの?
―――フッ
「何だ?!」
「えっこれって…」
「ええ?移動するのー?」
どんどん飲み込まれていく体。
でも、まだ小狼くん達が何処にいるのかわかってないのに…次の世界に移動して、会うことが出来るの?!
このまま離れ離れになってしまうなんてこと、ないわよね?どうなってしまうのか、わからない。
せめて、黒鋼くんとファイくんとだけは―――!
手を伸ばして、2人の服を掴んだ瞬間。僕達の体は完全に、紗羅ノ国から消え去った。