02
side:黒鋼
月の城で突然、気を失ったコイツ。
世話になってる城に戻って来た後も、懇々と眠り続けている。
外傷もねぇし、身体に異常はねぇらしい。…けど、もう一週間くらい意識が戻ってねぇ。
「顔色…まだ悪いな」
眠る表情は穏やかに見えるが、血の気が全くねぇ。
本当に生きているのか…疑問に思うくらい、真っ青だ。生きてる奴の顔色じゃねぇのは確かだよな。
ただ呼吸はしている…それだけの気がして、焦りが襲う。もう二度と、この瞳が開かれないんじゃないかと。
赤みのない頬にそっと触れてみれば、ひどく冷たい。体温なんかありゃしねぇ。
…コイツは生きては、いる。だけど、実感がねぇ。
「このまま死んだりしたら、許さねぇぞ」
最初は…ただ胡散臭い女だな、と思ってた。笑っていながら意識は別の所にあるし、それで壁を作ってたしな。
別にただの同行者だ、馴れ合うつもりなんかなかったし…どうでも良かった。他人のことなんざ。
それなのに―――いつの間にか、入り込んできてた。…いや、入り込んでいたのはむしろ…俺の方なのかもしれねぇな。
確かにどうでもいいと思っていたのに、気がつけば目で追っていた。気にかけていた。
―――傍にいてぇと、思った。笑っているはずなのに、何処か違和感を感じたコイツを。
強い意思を持ってるはずなのに、時々折れてしまいそうに脆くなる。…初めて見た泣き顔が、未だに脳裏に浮かぶ。
だからこそ、傍にいてぇと思ったんだろうな。柄じゃないのは、わかっているが。
そんなものも関係ないと思えるほどに、コイツが……緋月が大切なのだ、と。
「う…ん……」
「…おい?」
微かに身じろぎ、声が聞こえた。目が覚めたのかと期待したが…また、静かに眠りについたらしい。
それでも、僅かにでも声が聞けて、微かに動いたコイツを見て―――安心した。
確かに生きているんだと、わかったからな。
氷のように冷たい手に、己の手を重ねる。
少しでも体温が上がるように、少しでもコイツの不安が和らぐように。此処にいるんだと、知ってもらう為に。
「お前が目を覚ますまで、此処にいる。だから―――」
早く起きやがれ。…バカ女。んで、いつもみてぇに笑ってろ。