ありったけの力で
―――パンッパパンッ
ワー
ワー
今日はレース当日。
スタート地点となる会場には、レースに出場する人はもちろんだけど、観戦に来てる人もいっぱいいる。
やっぱり優勝商品が豪華だから、応援に来てる人も多いのかな。…とんでもないモノだもんねぇ?姫さんの羽根は。
これは―――何としてでも勝たないといけないなぁ。うん。ワクワクしてきたぞー!!
「楽しそうだねぇ、緋月ちゃん」
「ん。ワクワクしてる!たくさんの人もいるしねー」
「こんなに楽しそうな緋月さん、初めて見ます」
「僕もこんなに楽しい気持ち、初めてかも。頑張らなくちゃね」
「…はい!」
さて、まずはエントリーしないといけないんだよね。受付に行ってみれば、何やら色々と説明をされました。
あと自分の名前と、ドラゴンフライの機体自体の名前も登録しないといけないみたい。そんなの知らなかったから、考えてもいなかったねぇ。どうしよっかな。
うーんと考えていると、ファイくんが5人分の名前をエントリーしたっぽい…何だかとっても嫌な予感がするのは、何でだろうか。
桜都国での出来事があるから、疑心暗鬼?全員分の機体の名前、聞くの少し怖いんだけど。
「エントリー出来ましたし、姫達の所に戻りましょう」
「そうだね。2人にも説明しなきゃいけないことがあるし」
「……あ、緋月ちゃん」
不意にファイくんに呼ばれて振り返ってみれば、耳元に顔が寄せられた。…なに?
「ようやく黒様のことが好きだって、自覚したみたいだね?昨日の知世ちゃんにヤキモチ妬く緋月ちゃん可愛かったー」
「っっっっ?!!!」
「あははっ顔真っ赤だよー」
「そっそれは!ファイくんが変なこと言うからでしょ…っ!!!」
自覚する前の僕の気持ちに気がついていた彼だから、わかってるかもとは覚悟してたけど!でもいざ、他人に言われてしまうとものっそい恥ずかしい…!
もうちょっとで姫さんと黒鋼くんが待ってる場所に着いちゃうのに、まだ顔があっつい…これじゃあ変な風に思われちゃうじゃん!ファイくんのバカーーーーーッ!!!
「エントリーして来たよー」
「よー」
「………」
「緋月ちゃん?顔が真っ赤だけど、大丈夫?具合悪いの?」
「本当だ…大丈夫ですか?緋月さん」
「なっ…何でもない!!!大丈夫だからっ何ともないからっ!」
「〜〜〜〜…っ!!!」←笑いを堪えている
ファイくん、この野郎……!!!
「…熱でもあんのか?」
―――スッ
「□×Φ△☆$……っ!!!」
「少し熱いみてぇだが…」
「緋月ちゃん、やっぱり熱あるんじゃない?無理しないで休んでた方が…」
「きゃーーーーーーっ!!!!」
―――バチコーーーンッ☆
緋月さん、大パニック中です。
「……(ムスッ)」
「……(だらだら)」
えと…レース前なんですが、わたくしと黒鋼くんの間に流れている空気は緊張とかではありません。
完璧にこの人、怒ってらっしゃいます…原因は僕なんですけどね。
思いっきりね、引っ叩いてしまったんですよ。彼は心配して熱を計ってくれただけだったのに…混乱してたらしい僕は、黒鋼くんの頬をバチコーンと…。
良い音がしたーってモコとファイくんは、笑ってますが。
僕はもう冷や汗が止まりません。だらだらと流れてます…レース前なのに。
黒鋼くんはこれっぽっちも悪くないし、怒るのも当然だよねぇ。
「あの…本当にごめんなさい…これ、氷」
「っ…」
「あ、ごめんっ!痛かった?」
「いや…」
真っ赤になってしまった頬に、救護室でもらってきた氷のうを当てて。
これで少し赤みと、痛みが引けばいいんだけど…。
「あ、そろそろレースの説明をしないと…」
「あ、ごめんね?!何か色々とご迷惑を」
「大丈夫ですよ」
「何かねーレースって2回あるみたいー」
「あぁ?」
「予選と本選の2回ですわ」
「あ……」
「まず、今日行われるのが予選。その予選に勝ち残った方が、本選に進むことが出来ます。そして本選で優勝した方が、あの充電電池を手に入れることが出来る。と、いうわけで早速、撮らせて頂きますわーv甲斐甲斐しく怪我の手当てをする様も、照れて真っ赤になってしまわれるのも可愛いですわねv」
「モコナも撮ってーv」
「あ…あははは…」
僕と姫さん、それぞれの映像を撮るみたいだけど…さすがにレース中に2人いっぺんに撮るのは無理がある。
きっと、姫さん優先で撮るとは思うけどね。何となく。姫さんをズームで撮ってる彼女を見ていたら、手に何か温かいものが触れた。
「もういい」
「え、でもまだ赤いよ?…痛く、ない?」
「問題ねぇよ、こんくらい。ありがとな」
―――ポンッ
「お、お礼なんていいよ…僕が悪いんだし。ごめんね?」
「…ま、さすがにあんな勢い良く平手が飛んでくるとは思わなかったけどな」
「あう…返す言葉もありません」
しゅん、としていると「気にすんな」と、頭をぐしゃぐしゃと掻き回された。
痛くはないけど、髪の毛ぐしゃぐしゃ…まぁ、この後飛ぶんだから問題ないけどさ?彼なりの励ましのような気も、しないでもないし。
薄っすらと笑みを浮かべてる所を見ると、機嫌は良くなったのかなぁ?
眉間のシワもさっきよりは減ってるみたいだし。…それでも申し訳ない、って気持ちは簡単に消えてはくれなくて。
まともに黒鋼くんの顔が見れなかったりします。
「……」
「…詫び」
「え?」
「まだ気にしてるってんなら、詫びいれてくれるか?」
「う、うん!僕に出来ることならっ…」
「んな大層なことじゃねぇよ。レースが終わったら、少し俺に付き合え。それでチャラにしてやる」
「付き合うっ!そんなのいくらでも付き合っちゃうよ!!!」
…でも、そんなことでいいのかな?だってお詫びっていうより、付き合わせてもらえる僕の方が嬉しすぎる内容なんだもの。
お酒とか、和食とか…黒鋼くんの好きなもの。用意しよう。
「黒るー、緋月ちゃん。そろそろレースが始まるよ」
「早くスタート地点に行かないと、失格になっちゃうんですって」
「えっ本当?!」
「はい。急ぎましょう」
「…行くぞ」
「うん!」
さぁ、いよいよレースの幕開けだ―――