突破と的中


『盛り上がって参りました!「ドラゴンフライレース」!!充電電池は一体、誰の手に―――?!』


えらく簡単に皆の前に持ち出された、姫さんの羽根。…今回の優勝賞品なのに。
それを奪って、逃走しようと考える輩も出てくるかもしれないのにねぇ。

と、思ったんだけど。あれはどうやら本物じゃないみたいだな。羽根の波動を感じないもの。
恐らく、よく似せてある模造品だろう。


『それがこの町のほとんどの電力をまかなえるという、噂の充電電池!!』

「の、模造品ですわ」

―――こけっ

「え?!」
「やっぱりねー」
「モコナもめきょってしてないし、違うよー」
「皆さんが競って下さっている優勝賞品、何かあっては大変ですもの。本物は我がピッフル・プリンセス社が、厳重に保管していますわ」


あはははっさっすが会社を仕切る社長さんだよねぇ。でもま、誰かに奪われる心配もなくなったことだし…真面目に予選突破だけを考えれば良さそうだ。

ゴールとされていた、さっきの塔が見えてきた。
先頭集団は更にスピードを上げて、ゴールまでまっしぐらって感じね。こーれは、僕ももっと上げていかないと後続機に抜かされちゃいそうだなぁ。


『そろそろ先頭集団はー!!ゴールです!!』

―――オオオオォオォオオオ!

『上位20位までが本選に出場出来ます!今、5位まで決まりましたー!!』


1位は黒鋼くん、2位はファイくんだったみたいね。残りの枠はあと15だ。
…何とか入り込まないと、予選落ちだぁね。


―――バッ

『ここで…「ローズバタフライ号」入ったー!後10人ーーー!』

「ふう…」
「お疲れ、緋月ちゃん。やったねー」
「うん、何とか」

―――パンッ

何…っ?!今の破裂音。
どうしてかはわからない。けれど、次々とドラゴンフライが墜落していく。
辺りはあっという間に煙に包まれて、巻き込まれたら方向がわからなくなってしまいそう。
そんな中、小狼くんは11位でゴールしたけど…姫さんは?!
彼女は後ろの方だったから、いるとすればこの煙の中だろう。ゴールがある方向、わかるのだろうか?現に方向を見失ってる機体もあるのに…!


「姫さん、大丈夫かな…」
「待つしかねぇだろ」
「きっと大丈夫。サクラちゃんは」


もう僕には、祈って待つことしか出来ない…彼女が無事にゴールするように。
お願い、姫さん。どうか無事でいて。
視界の悪い中、次々とゴールする出場者。いつの間にか残るは、後3人。
でも姫さんの姿はまだ見えてこない。その間にもまた1人ゴールして。


『後1人ー!ほぼ同時かー?!』

「!姫さんだっ」


ようやく見えた姫さんの姿。その隣に並んでいるのは、護刃ちゃんだ。
2体のスピードはほぼ同じ…このまま行けば、きっと同着になると思うんだけど。

―――バッ

やっぱり、ゴールしたのはほぼ同時。肉眼ではどっちが先だったのかわからないから、最終的な判定はカメラの映像。
画面に映し出される、ゴールの瞬間。
…当人じゃないのに、ドキドキしてきちゃった…20位に入ったのは―――――


『「ウイングエッグ号」だーーー!!』

「やったねサクラ!!」
「ありがと、モコちゃん!!」

「やったぁ!姫さんも予選通過だよー!!!」
「何でお前が一番喜んでんだ」
「いいじゃん。嬉しいものは嬉しいもの」
「サクラちゃんもさっすがー」
「ともかく、これで予選とやらは通ったな」
「うん」
「5人共ね」
「あとは決勝ですね」


まずは第一関門突破、だね。


―――レースの予選が、無事に終わった夜。
5人揃って予選通過出来たってことで、ささやかな祝勝会を開くことになりました。
皆頑張ったし、お疲れ様って意味も込めてね。


「「「「「かんぱーい!」」」」」
「あー、黒鋼先に飲んじゃってるー」
「ふん」
「ふふっまぁ、いいんじゃない?」


姫さんも最初は飛べなかったのに、頑張って予選通過したしね。
…でも途中でドラゴンフライがたくさん墜落したのは、びっくりした。確かに調整が難しい乗り物だとは、色んな人が言ってた記憶があるけどさ。
それにしても墜落しすぎだった気がするんだよ。
予選通過した人にファイくんが聞いてたけど、あんなにリタイアが多かったのはないみたい。いつもリタイアする人はいるみたいだけど。


「何か仕掛けでもあったってのか?」
「何とも言えないかなぁ、それは。おかしいとは思ったけど」
「リタイアが続出したの、オレ達がゴールした後だったし。小狼くん、何か気付いた?」
「いえ。飛んで来る他の機体の破片を避けるのに…」
「集中してたもんねぇ」
「姫さんは何か気がついたことあった?」
「キラキラしてました!」
「キラキラ?」
「キラキラ!」
「…どゆこと?」
「煙がね、キラキラしてたの!風に乗って飛んでたの!その中をびゅーんて飛んだの!!」


えっとー…何だか、姫さんのテンション急上昇中?
モコと手を取り合って、びゅーんって言いながらくるくる回ってます。…いつか見たような光景の気がするのは、僕の気のせいかなぁ。

黒鋼くんとファイくんを見てみれば、2人も姫さんの様子に言葉を失ってる感じ。きっと2人の考えてることと、僕の考えてること。同じだと思うなぁー…。
あ、飛ばなきゃ!って言いながら外に出て行った。
んー…ちょっと心配だけど、小狼くんが追いかけていったから、大丈夫かね。ふと気になって、姫さんが飲んでたモノを一口飲んでみた。


「…コレ、お酒入ってるじゃん。ベースはジュースだけど」
「何?!小僧と姫には飲ませるなっつっただろ!!」
「モコナのにも入ってるからー犯人はモコナかなー」
「姫さんのにも入れたんだねぇ。美味しいけど」


こういう飲み方もありだなー、なんてのほほんと飲んでると…外から不吉な音がたくさん聞こえてきた。

ドラゴンフライのエンジンをかける音
地面を走る音
エンジンが空回ってる音
何かが落ちてる、ヒュルルル…という音
極めつけは、ガッシャーンという落ちた音

あー…これは確実に、姫さんのドラゴンフライが墜落した音だろうね。


「押さえてろよ、小僧!」
「いってらっしゃーい。お父さんの出動だー」
「あはは…頑張れ、黒鋼くーん」


…さて、姫さんを捕まえるまで時間が掛かるだろうし。
僕はグラスの片付けでもしようかな。


「オレも手伝うよー」
「ありがと。じゃあ、ビンの片付け頼んでもいい?」
「もちろんー」

きゃー♪

待ちやがれ、お前らぁ!!!

姫ーーーっ!!!

黒鋼くんと小狼くん、苦戦してるっぽいなぁ。
桜都国の時みたいに走って、逃げ回ってるんだろうね。あの声の感じだと。
男性2人掛かりでも捕まえられないって、相当だよねぇ。きっと。


「…何か緋月ちゃんさ、雰囲気が明るくなったね」
「え?」
「今日もすっごく良い顔で笑ってたよー?初めて見たもん、緋月ちゃんのあんな顔」
「そう…かな?確かに今日、すっごい楽しかったけど…」


楽しむ余裕が、出てきたのかな。黒鋼くんが好きだと自覚して、色々と吹っ切れた感じがしたから。
…まだ、心の何処かでダメだって思うこともあるんだけどね。それでも毎日が楽しい、って感じることが出来る。

ずっと―――僕の世界はモノクロだった。何も感じなかったの。温かさも、冷たさも。
だけど、皆に会って…彼を好きになって。モノクロだった世界に、一気に色がついたんだ。鮮やかな。
その時、初めて綺麗だなって思ったのよね。この世界の全てが。


「楽しいって、思えるようになるなんて…考えてもいなかったけどね」
「オレは今の緋月ちゃんの方が好きだなぁ。可愛くて」
「あははっありがとー、ファイくん」
「……本当はオレが、君を笑顔にしてあげたかったなぁ」


スルリ、と…ファイくんの手が頬に触れた。
え?何?一体何がどうなって、こんな状況になってるのデショウカ。
いつもはへにゃんとした笑顔を浮かべている彼なのに、その面影がないくらいの真剣な表情。目を、逸らすことが出来なくて。
頬に触れている手をどかすことも、言葉を発することも出来ない…ただ、その場で固まってしまった。


「ファイ、く…」
「緋月ちゃん、オレね―――」

―――バッターーンッ!

「っっっ!!?」
「びっ……くりしたぁ……」
「……何、揃いも揃って呆けた顔してんだ?」
「多分、扉が開いた音に驚いたんだと思いますよ?ファイさんも緋月さんも」


うん…小狼くんの言う通り。急に大きな音を立てて、扉が開いたから…本当にびっくりした。
もう少し丁寧に開けてくれないかなぁ。

でも―――黒鋼くん達が戻ってきてくれて、ホッとしてるの。あのまま2人きりだったら…どうなっていたのかがわからないから。
ファイくんのことを信用していないわけじゃない、嫌いなわけじゃない。だけど、さっきのファイくんは…少し怖かったんだ。


「(あっぶなかったぁ…オレ、危うく言いかけたよねー?君のことが、好きなんだよって)」
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