不確かな干渉者
「何だか物騒な雰囲気ですねぇ…僕達に何か?」
「話があるんだ。来てもらおうか」
周りを取り囲んでる人達の後ろから現れた、6人の男性。
その真ん中に立っている人が、リーダーなのかな。
確か…昨日のレースで見た記憶がある。上位に入ってた人だ。
「笙悟さん?!」
「あん?俺の名前知ってんのか」
「笙悟、有名人だからな」
「『ドラゴンフライレース』の上位入賞常連だしな」
「…知っている人?」
「同じ顔をした別人、みたいです。おれのことを知らないから」
「…そう」
「ちょっとついて来てもらいたい」
「何の用ですか?」
「来たら話すさ」
「買い物がまだなんです」
「話が終わってからでも、マーケットは開いてるぜ」
「知らない人についてっちゃダメだって、侑子が言ってたー!」
「あぁ?ロボットか?」
「悪いんですが…待ってる人がいるんですよ」
「どうしてもか。益々、来てもらわないとな」
―――バッ
何、アレ?!!ボードみたいな物が…宙に浮いてる!この国は本当に不思議な物がたくさんあるのね。あれも乗り物の一種かしら?
かなりのスピードで、僕達の周りを囲んだその人達の手には…何か棒みたいなのが握られている。
何かはわからないけど、警戒した方が良さそうだね。
―――ブンッ
―――ガッ
―――パシィッ
振り下ろされた棒を小狼くんが足で、僕が腕で止めたんだけど…棒が突然稲光みたいなのを発して。
そして棒に触れていた部分に、ビリッと衝撃が走ったんだ。
「っ?!」
「……っ!」
「小狼くん!緋月ちゃん!」
…腕が、痺れてる。小狼くんも足が痺れてるみたいだ。
「あれに当たると衝撃が来るみたいですね…」
「そうみたいね。…油断してたわ。それにこの早さで動かれたら―――」
「…そうか。見えるから混乱するんです」
「あぁ、黒鋼くんとやった剣の訓練だね」
「はい。気配だけを追いかけるんです。少しの間、姫をお願いできますか?」
「もちろん。任せて」
小狼くんはスッと目を閉じて、何かの気配を追いかけ始めた。
彼の邪魔にならないように、痺れていない方の腕で姫さんを抱き寄せる。
「緋月ちゃん……」
「だいじょーぶ。だって、小狼くんだもの」
心配そうな表情を浮かべる姫さんを、モコごとギュッとしながら行方を見守ることにした。
僕と小狼くんが小声で話している間も、スピードは落ちることなく。
あははー。これは本当に目で追いかけて、動きを捉えるのは難しいなぁ。
小狼くんの言う通り、目で見るより気配を追いかける方が効果的だとは思うんだけど…どうするつもりなんだろう?
そのままじっと見ていると、鋭い蹴りが4発。
目を閉じているはずなのに、彼の蹴りは外れることなく全てヒットした。成程…黒鋼くんの特訓は、小狼くんの中にちゃんと息づいてるんだね。
「すっごーい…」
「衝撃棒を持ってる奴だけを蹴ったのか」
「それも手だけを狙ってね」
「……誰?」
突然現れた3人の男性。また何かしてくるのかもしれない…姫さんを抱き締めている腕に、更に力をいれた。
―――そう。警戒してた、んだけど…
「お美しいお嬢さん方、貴方達はきっと無実です」
「は、花…?」
「え?」
「え?」
「『ドラゴンフライレース』の予選通過した人だー」
「…あ、本当だ。昨日のレースで見た記憶があります。そちらの…笙悟さんっていう方もそうですよね?」
「あぁ。その予選通過者に用があるんだ」
「何故です?」
「昨日のレースで妨害行為があったらしい」
妨害行為…もしかして、あの破裂音がした時のこと?
詳しく話を聞いてみると、望遠ハイビジョンカメラっていうもので撮影してもらった映像をチェックしたら、光る粉が空中に撒かれていたことが判明したんだそう。
撒かれていたのはレースの終盤、風向きや状況から考えて…不正を働いたのは、予選通過者上位20名の中にいる、と。
だから、僕達にコンタクトを取ってきたわけねぇ。
「…わかりました。そういうお話なら、同行させて頂きます」
「緋月さん?!」
「大丈夫だよ。殺気は感じないし、恐らく本当に話を聞きたいだけでしょう。そもそも、僕達は何もやっていないんだからさ?そこに関しては胸を張っていればいいだけだ。
それに。レースの妨害行為については、ちゃんと事情を知っておいた方が得策。姫さんの羽根、他の誰かに奪われるわけにはいかないでしょう?不正までして狙っているのなら、尚更」
「…そうですね。緋月さんの言う通りだ」
全てはレースに勝つ為。その為には、不安要素は少ない方がいい。
案内されたのは、マーケット内にあるカフェ。
此処もとっても広いみたいで、いくつかの大きな部屋に分かれてるみたいだね。その中の一室を貸し切る状態で、改めて話をすることになった。
「妹之山残と申します」
「鷹村蘇芳です」
「伊集院玲です」
「笙悟さん、改めて自己紹介なさらないと」
「笙悟・アサギだ」
「こっちはサクラ!こっちは小狼!こっちは緋月!でもって、モコナ!!」
「サクラさんと小狼くんと緋月さんと…モコナさん?くん?」
「モコナはモコナ!」
「じゃあ、モコナと呼びましょう」
正直、呼び方はどうでもいいんじゃあ…や、口には出さずに心の中で留めておきましたけども。
それは置いておいて、そのまま本題に入った。
蘇芳さんが何かリモコンみたいなのを操作すると、何もなかった所に何台もの機械が出てきた。
レースの映像が映ったから、多分テレビなんだろうね。何だかすっごい技術だなぁ…。
どうやら残さんもすごい人らしく、ピッフル・プリンセスと並ぶ隣国の巨大総合企業イモノヤマ・カンパニーのオーナーさんの末弟だそうだ。
彼自身も飲食部門の責任者で、僕達が今いるカフェも彼のお店なんだってさ。
「ピッフル・プリンセスの知世嬢は幼なじみなんですよ」
「へえ」
「そうなんですか」
「『ドラゴンフライレース』は、知世嬢が主催している大切なレース。不正行為を見逃してはおけません」
「俺もこの国の自警団の一員として、右に同じだ。だから、予選通過者の聞き取り調査に手を貸してるんだけどな」
でも残さんは女性の予選通過者に会う度に、「貴方は無実です」って言ってるみたい。
さっきの僕と姫さんに話しかけた時のように。どうやらそれは笙悟さんの悩みの種みたい。溜息ついちゃってるし。
残さんは残さんで、「全ての女性が存在してくださる事、それだけで至福です」とか言っちゃってる。キザというか、何と言うか…一緒に調査してる笙悟さんも大変なんだろうなぁ。
話をしている間にも、映像は先に進んでいて…ある箇所で一時停止した。
その場面と言うのが…光る粉が映った後。確かに映し出された映像には、煙の中に何かキラキラと光るものが確認できる。きっとそれが例の光る粉、なんだと思う。
…そういえば、昨日酔っ払った姫さんがキラキラしてたって…言ってたなぁ。もしかしたらこの粉のことだったのかもしれない。
「風はゴールから吹いていました」
「撒かれたタイミングや、風向きを考えても、その光る粉とやらを撒いたのは予選通過者の中にいるってのが、残の分析だ」
「この中の誰かが妨害工作の犯人です」
テレビに映し出された、予選通過者個人の写真。
その中には当然、小狼くん・姫さん・黒鋼くん・ファイくん…そして僕も、映っていた。
「やはり貴方達は無実でした」
「え?」
「え?」
「貴方もです、小狼くん」
「どういうことです?」
ただ、説明を聞いていただけ。僕達はそのことについて、何も話してなどいないのに…無実ってどういうことなの。
僕も小狼くんも姫さんも、そしてモコもワケがわからず頭の上に?が飛んでいる状態。すると、笙悟さんが僕達が座っていた椅子が嘘発見器だと教えてくれた。
仕組みはよくわからないけど、これに座らせて心拍や脈拍を読み取って、その人が嘘をついているかどうかを調べる機械。
僕達3人共、レースに関する説明や情報を見ても驚きはしてたけど、焦ってはいない。心拍、脈拍共に正常だったという報告を受けたんだってさ。
実際にそんなことしていないから、焦る必要性はないものね…色々と驚きはしたけど。
この機械は残さんの会社製のモノで、かなりの精度。…ただ、心の底から自分の頭の中で作った虚構を信じていたり、真の悪人がつく嘘はなかなか発見出来ない。
確かにそれは、難しいことなのかもね。自信を持っている、ということだから。
「小狼も犯人じゃないよ。あとね、黒鋼とファイもー」
「お知り合いですか?」
「一緒に旅をしてるんですよー」
「5人でか?」
「モコナも一緒ー!」
「買い物がおありなのにお引き留めして申し訳ありませんでした」
「いいえー。まだマーケットは開いてますし、それに…重要なことでしょう?」
「2人共、悪かったな。衝撃棒の痺れは一瞬なんだが」
「おれは大丈夫です。緋月さんは…」
「僕も平気だよ。もう治った」
「飲み物ごちそう様でした」
「では、また」
この時、何か違和感を感じた。チラリと視線だけを後ろに向けた時の、彼らの厳しい表情。
違和感の正体はわからないけど、何か―――隠されていることがあるような気がするんだ。
「さっきのレースの話、わたしも煙の中で見たの。あのキラキラしたもの」
「言ってたねぇ。キラキラしてた、って」
「本選に出る人に、あの粉みたいなのを撒いた人がいるのかな」
「どうだろう。…だけど」
「優勝して、羽根を取り戻します」
「うん。羽根を狙っている誰かがいるのなら、俄然頑張らないと」
「……うん!」