02


―――プロロロロロ…

「あ、おっかえりー」


寝泊りしているトレーラーに戻ると、黒鋼くんとファイくんはドラゴンフライの整備をしていたみたい。僕もあとでやっておかなきゃな…。
荷台から荷物を下ろして、中に運ぼうとしたら2人にどうしたのかと声を掛けられた。
小狼くんの眉間にはシワが寄ってたからだろうけど…何で僕まで?何か変な顔でもしてたのかしら?


「お前も眉間にシワが寄ってる。小僧程ではねぇがな」
「え、嘘」
「本当だ。…荷物貸せ、運んでやる」
「ありがとー」

―――めきょっ
―――フワ

「「「「「?!」」」」」


突然、モコの目が姫さんの羽根の波動を感知した時のように見開いた。んで宙に浮いたかと思えば…額の石が光って、何か映像を映し出したみたい。まだぼんやりとしてるけど、このシルエットといえばあの人しかいない、よねぇ。そもそもモコを通して通信できる人なんて、他にいないし。
…そう。次元の魔女と呼ばれている侑子さん。あの人の方からコンタクトを取って来るなんて、すごく珍しい。ってか、初めてなんじゃないかなぁ?


「どうしたの侑子!」
『ちょっと用があったの』
「用ですか?」
「…何、警戒してんの?黒鋼くん」
「本当だー。黒んぴ警戒してるー」
『服は?』
「あぁ?!」
「だから、喧嘩腰にならないでって」
『元いた国での服はどうしたの?』


侑子さんにそう言われて、そういえば紗羅ノ国に置いてきちゃったんだっけーと、ようやく思い出した。元の服の存在、今の今まですっかり忘れてたわ。回収する間もなく、着替える間もなく修羅ノ国と夜魔ノ国に移動しちゃったもんね。一応、紗羅ノ国に戻ったけど…それもまたすぐにこのピッフル国に移動してきちゃったから。
すると、侑子さんの後ろに僕達の服が置いてあった。ご丁寧にハンガーに掛けてくれてるし。そっか、侑子さんが紗羅ノ国から回収しておいてくれたんだね。どうやったのかまではわかんないけど、さっすが侑子さんって感じだ。


「さっさと寄越せ」
『だめよ』
「何?」
「多分、対価がいると思うよー?一度、僕達の手を離れて侑子さんの元にあるわけだし。拾い物は拾った人の物、ってことでしょう」
『さすがは緋月ねー頭の回転が速いわぁ。この子の言う通り、返して欲しいならば対価がいるわ』
「何をお渡しすればいいですか」
『この服に見合うものを』
「個々で考えろってことですねぇ…」
「「見合うもの…」」
『考えついたらモコナに言って、あたしを呼び出しなさい。それまで預かっておくわ』
「「はい!」」


うーん、相変わらず小狼くんと姫さんは素直で可愛いなぁ。


『ああ、でもあんまり長く待たせると流しちゃうかもね。質流れみたいに』
「え?!」
「質草かよ!!」
「「質流れ?」」
「あははー。侑子さんらしいけど、それは勘弁してくださいねー?」


侑子さんの用事はこれで済んだらしい。これだけ?とも思ったけど、でも教えてくれて助かったよね。移動した先の国の服を着てはいるけど、やっぱり元の国の服はあった方がいいもの。そんなに着ないとはいえ、ね。
用事も済んだことだし、通信も切れるのかなって思った時。姫さんが侑子さんに声を掛けていた。…何か、言いたいことがあるみたいだね。


「最初の時はわたし眠ってて、高麗国の時はまだ半分夢の中みたいで、だからお会い出来たらお礼を伝えたいって考えたんです。モコちゃんを貸して下さって、ありがとうございました」
『…旅はどう?』
「1人だったらきっと辛かったと思います。でも……一緒だから。でもまだいっぱい眠っちゃって、役に立ててないんですけど」


恥ずかしそうに目を伏せた姫さんだけど、役に立ってないだなんて…そんなことないんだよ?キミの楽しそうに笑う顔とか、優しい言葉とか、温かい雰囲気とか。その全てに、皆が元気をもらってるんだから。
僕だって…そうだから。姫さんの笑顔に、言葉に、優しさに、雰囲気に…癒されてる。小狼くんだってそうだろうし、黒鋼くんとファイくんだってきっとそうだからさ。だから、そんな風に思わなくて大丈夫なんだ。


―――バタンッバタバタ

『…来たわね』
「―――侑子さん……」
『そんな顔をしなくても、大丈夫よ。緋月。じゃあ、またね。そうそう、「ホワイトデー」。あんまり待たせ続けると、銀竜とイレズミと首飾りとブレスレットも質流れさせるわよ』
「ふざけんなっこの強欲女ー!!!」
「あー…黒鋼くん、どーどー」


ところで、侑子さんが言ってた『ホワイトデー』って何のことだろう?
他の皆に聞こうにも、小狼くん達も僕同様に?を浮かべてるし…黒鋼くんもきっと知らないよね。ってか、この状態じゃ尋ねても答えてくれなさそうだもん。

うーん、と頭を悩ませていると意外にもモコがお悩み解決してくれました。
んと、まず桜都国でもらったフォンダンショコラってお菓子。あれが『バレンタインデー』っていうもので、モコがいた国では美味しいチョコレートをあげる日、らしい。
で、『バレンタインデー』にチョコレートをもらったら、『ホワイトデー』にお返しをしなきゃいけないんだってー。
あぁ…何となく理解できたわ。それなのに僕達が誰一人、侑子さんにお返しをしていないから…あの人は怒ってらっしゃる、と。
お返しに決まり事は特にないらしく、何でもいいみたい。(決まり事がある国もあるらしいけど)


「……したいな。次元の魔女さんにお礼したいな」
「ふふっうん、してあげよう!」
「そうですね」
「じゃ、何をお返しするか相談しようか。小狼くんと緋月ちゃんがここんとこきゅーってなってた理由も聞きたいしー」
「はい」
「おやつ食べながらにしようよー。手伝ってーお父さーん」
「お父さーん」


何故に黒鋼くんがお父さん?…あーあ、すっごい形相でモコのこと掴んでるし。
まぁ、モコもファイくんも彼の睨みに負けないんだけれど。現に、今も笑ってるし。
何だかそのままじゃれ合いになりそうだし、おやつの準備は僕がしようかな。

―――フイイイィイイ

うん?何だろ、このエンジンみたいな音。
それに急に陽が陰って、辺りが暗くなって―――――


「楽しそうですわね」
「「わぁ!!」」


頭上に現れたのは、大きな飛行機のような船のような…とりあえず、そんな乗り物で。
乗っていたのはピッフル・プリンセス社の社長さんの、彼女。これまたすっごいのに乗ってきたなぁ…。
それにしても社長さん自ら、僕達の所に来るなんて―――不正行為の件、かしら?
何はともあれ、せっかくのお客さんだ。
ちょうどお茶にしようとしてたとこだし、彼女も招きましょうか。


「これからお茶にするとこなんだ。良かったら、ご一緒にいかがです?」
「うん!急いでなければ、是非!」
「まぁ、それは嬉しい申し出ですわ」


そんなわけで、彼女も一緒にティータイムと参りましょう。
今日のおやつは何だろうな〜。

本日のおやつは、シフォンケーキでした!
ファイくんの作るお菓子って絶品なんだよねぇ。ご飯も美味しいし。


「美味しいですわ」
「それはサクラも一緒に作ったんだよ」
「素晴らしいですわ」
「サクラちゃん、最近料理の腕前急上昇中なんだよねー」
「ふふっ本当にねー」
「ファイさんと緋月ちゃんがわかりやすく教えてくれるから」


主に教えてるのはファイくんだけどねー。


「私もサクラちゃんと、緋月ちゃんとお呼びしてよろしいですか?」
「もちろんっ」
「どーぞ?」
「わたしも知世ちゃんって呼んでもいいですか?」
「僕も姫さんと同じように呼んでもいーい?」
「はい。もちろんですわ」


にっこりと笑う姫さんと知世ちゃん。こう可愛い女の子が笑顔全開で笑ってるのを見ると、何だかほんわかするなぁ。
眺めてると和むし、癒される感じがする。…やっぱり、この2人の波長って似ている気がするな。雰囲気もそうだけど。
きっと気も合うだろうし、すっごく仲良くなれると思うんだ。


「緋月ちゃんも可愛い笑顔ー」
「…へ?僕、今笑ってた?」
「笑ってたよー。今まででいっちばん、可愛い笑顔だった。何かね、ふんわり微笑んでる感じ?」
「そう…だったんだ?」


ファイくんに言われるまで、わからなかった。自分が笑っていたなんて。
これも侑子さんの言っていた良い変化の1つ、なのかな?
確かに自分でも変わっていってるな、っていうのはよくわかるんだ。だって、他の誰でもない…自分自身のことだもん。

だけど―――いいのだろうか?変わってしまっても。
こんな風に変わっていく僕を、きっとあの人は許さない。許してなど、くれない。
変わりたいと思うけれど、それを思うと…やっぱり怖いんだよね。


「…どうかしたのか?」
「ううん。ちょっと考え事してただけ、何でもないよ」


…怖いけど、気にはなるけど…今は自分のことを考えてる場合じゃない。
今考えなきゃいけないのは、レースの本選。確実に優勝して、姫さんの羽根を手に入れる為に…頑張らないとね!


「予選レースで妨害行為があったんですか?」
「何故、そうと?」
「今日、会った人がそう言っていました」
「確か―――笙悟さんと残さんって、名乗ってたかな」


ふと、外から視線を感じたような気がした。
時々感じる、あの人の視線とはまた違う―――別の人の。
だけど…前に何処かで感じたことのあるような気もするんだよねぇ、コレ。


「(もしかして…レースの干渉者、かな?)」
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