02


「ないか?!」
「いや、あの、俺達はこの国には来たばかりで、君とも会ったばかりだし…」
「ほんとにないのか?!」
「ない、んだ…け…ど」
「頑張れ!小狼!!」


ただ今、小狼くんはさっきの勇ましい女の子にすんごい剣幕で迫られております。こう…ずずいっと。
きっとあんまり慣れてないんだろうね?小狼くんはあわあわしてる。
隠し事なんてないし、この国の名前すらわからない状態なんだから堂々としていいと思うけれど。

あ、どうしてこんな状態になったかと言いますとー…あの後。
品物の上に落ちてしまってたらしい僕らは、それの片づけをしてたんだ。迷惑かけちゃったし。
この女の子も散らばってる品物を拾ってたんだけど、僕達5人を見て一言。『ヘンな格好』って言ったんだよね。ズドーンと。
確かにこの国の服とは全く違うし、近隣国にもこんな服装の人達はいないだろうから。それに5人バラバラの服装っていうのもあるからねー。
まぁ、そこまでは別に問題ないんだけど…何故か姫さんの手を引いて、走り出しちゃったんだよねぇこの子。
んで慌てて追いかけて行ったらー…こうなってしまった、と。

話を聞いてみれば、自分達とは全く違う服装をした僕らを『暗行御吏(アメンオサ)』というものと勘違いしたらしい。
それはこの国の政府が放った隠密。それぞれの地域を治めている領主達が、私利私欲に溺れていないか、圧政を強いていないか…それを監視する役目を負って、諸国を旅しているんだってさ。
それってつまり―――


「オレ達をその暗行御吏(アメンオサ)だと思ったのかな。えっと…」
「春香(チユニヤン)」
「春香ちゃんね、オレはファイ。で、こっちが小狼くん、こっちがサクラちゃん。で、そっちが緋月ちゃんと黒ぷー」
「黒ぷー!」
「黒鋼だっ!!」
「うっるさ……」
「つまり、その暗行御吏(アメンオサ)が来て欲しいくらいここの領主は良くないヤツなのかな?」


さっき春香ちゃんにバカ息子呼ばわりされてたアイツの父親…か。


「最低だ!それにあいつ、母さん(オモニ)を…」
「ごめん、春香ちゃん…ちょいストップ」
「どうかしたんですか?緋月さん」
「何か、来る」
「え?」


突如感じた強い力。それとほぼ同時に聞こえてきた、ゴオォォという轟音とミシミシと家が揺れる音。
これは……風、なのか?


「外に出ちゃだめだ!!」


その瞬間、勝手に窓が開き…ものすごい風がいとも簡単に屋根を壊していく。
すぐそばに掴まれる物がなかったから、風が収まるまで頑張って耐えようとしてみたけど―――


「……っ!!?」


ふわりと、体が浮いた。
あぁ、飛ばされると半ば諦めていたら、ガシッと腕を掴まれた。そのまま飛ばされないように、しっかりと抱き締められて。
さすがに恥ずかしい気もしたけど…飛ばされて痛い思いをするよかマシだ!うん。

―――オォォ……フッ…

春香ちゃんの家の屋根に大きな穴を開け、風は突然消えた。


「ありがと、黒鋼くん。助かったよ」
「礼なんざいらねぇ」
「クス…そっか」
「自然の風じゃないね、今の」
「うん、違う。何か強い力によって造られたモノだった。…春香ちゃんは何か知ってるみたいだけど?」
「…領主だ!あいつが、やったんだ!!」




風の騒動があった翌日―――僕達は何をしているかと言いますと…


「何でっ」

―――トンカン

「俺がっ」

―――トンカン

「人ん家」

―――トンカン

「直さなきゃならねぇんだ」

―――トンカン

「よっ!」

―――トンカン


壊れた屋根を直してます。主に黒鋼くんが。
や、僕も手伝ってるけどね?


「一泊させてもらったんだから、このくらいはしないとでしょー」
「しかし、あの子供1人で住んでるとはな。この家」
「んー、お母さん亡くなったって言ってたね春香ちゃん」
「ファイくーん!僕にも板ちょうだーい」
「はいはーい」


ファイくんから板を受け取って、釘を打ちつけながら思い出すのは…辛そうな春香ちゃんの表情。
領主に対する恨みと憎しみ。それから察するに、彼女のお母さんは殺されたんだろうな。あの領主に。
でなきゃ、あんな小さい子が他人に憎しみを抱くわけがないから。
バカ息子に突っ掛かるのも、それが理由かなぁ。でもアイツに何か言う度に制裁を下されてるような感じだし、春香ちゃんの言っていたように『最低』なのかも。


「で、いつまで此処にいるつもりなんだ?」
「あぁ、そんなの…」
「モコナ次第でしょー」
「あーくそー!何であの白まんじゅうは、あの小狼(ガキ)の肩ばっかり持つんだ!」
「あははは。春香ちゃんの案内で小狼くんとサクラちゃんとモコナで偵察に行ったし、何かわかるといいねぇ」


そ。風で屋根も壊れちゃったから、偵察組と修理組で別れたんだ。
モコがついていったのは、もちろん羽根の気配を感じ取る大事な役目があるから。
んで、小狼くんは早く手がかりを掴みたいだろうから偵察に行かせて。姫さんも修理は出来ないし、何より春香ちゃんが一緒に連れて行きたがってたからな。
なので、自然とこんな振り分けになったわけさね。だけど、姫さんはちょーっと心配かなぁ?


「しかし、大丈夫なのかあの姫出歩かせて」
「まぁねー。船を漕いでるか、眠ってるかだし」
「足りないんだよ、羽根(キオク)が。元のサクラちゃんに戻るためには。取り戻した羽根は2枚だけ。戻った記憶はあるみたいだけど、まだ意志とか自我とかそんなものがないんだ。今のサクラちゃんには。だから、異世界を旅するオレ達に何も逆らわずついて来ただろ?」
「成程、ね…」
「まぁ、羽根が戻っても小狼くんとの思い出は戻って来ないけどね」
「!…もしかして、小狼くんの対価?」
「そうだよ。…それでも探すでしょう、小狼くんは。色んな世界に飛び散ったサクラちゃんの記憶の羽根(カケラ)を」
「…これから先、どんな辛いことがあっても…」


きっと、最後の1枚が見つかるまで彼は諦めることをしないだろう。
どれだけ傷ついても、どれだけ傷つけても、たくさんのモノを犠牲にしたとしても―――絶対に。
それだけ、覚悟をしていた瞳だから。思い出した先に自分の姿がないとわかってても尚、羽根を求める。
そうしているのは…心から姫さんを大切にしているからなんだろうね。
- 6 -
prevbacknext
TOP