03


「さーて!屋根の修理も終わったし、僕も休憩しようかなー」
「緋月ちゃんもお茶飲むー?」
「あ、いただきまーす」


お茶を飲みながら空を見上げれば、澄んだ青が何処までも広がっている。
あっちは何か有力な情報を得ることはできたのかなー?


「このお茶美味しいですね、初めて飲むけど」
「オレも初めてだなぁ」


春香ちゃんが自由に飲んで、って用意してくれていたお茶。綺麗な緑色で…少し渋いけど、香りがすごく良い。
黒鋼くんの国ではこれが主流らしく、『緑茶』って言うんだーって教えてくれた。
ファイくんのいた国は、僕がいた国と一緒で紅茶が多かったみたい。紅茶も美味しくて好きだなぁ。


「んなことより、あのガキ共はまだ帰ってこねえのか」
「いいじゃん、羽根の情報がないと動けないんだし…じっくり情報収集してもらわないと!それに服とか調達してくれてるのかもしれないしねー」
「あ、暇ならこれやってみるー?春香ちゃんがお茶と一緒に用意してくれてったんだよー」
「何ですか、コレ。白と黒の石があるけど…」


オセロ、みたいな物なのかな?それと同じルールなら、自分の持ち色が多い方が勝ち…だった気がする。
遊び方はよくわからないけど、小狼くん達が帰ってくるまで暇なのは事実だし…退屈しのぎに遊ぶならルールなんか知らなくてもいいよね?よーし!そうと決まればやってみよー!
2人にそう提案してみれば、案外すんなりと頷いてくれた。やっぱりすることもないから暇だもんね。


―――そんなこんなで1時間後…―――


「………」
「………」
「これであってるのかわかんないけど、結構面白いねー。黒ぽん、緋月ちゃん」
「何で…?どーーーして、何回やっても勝てないのさー!!!」
「だーっ!でかい声出すんじゃねぇ!気が散るだろうがぁっ」
「でかい声出したくもなるでしょうが!もう15連敗だよ、15連敗!!!」
「んなの、てめーが弱いからだろ!」
「んな?!そーいう黒鋼くんだって…っ…あ。」
「おかえりー、どうだった?黒たんと緋月ちゃんとずっと言葉が通じてたってことは、あんまり遠くに行かなかったのかな」


人の気配を感じて外に目を向ければ、ドサリと荷物を置く音が聞こえた。
そこにいたのは案の定、偵察に行っていた小狼くん達。
だけど、3人の表情は決して明るくない。むしろ暗いんじゃないかな?何かがあったのは確かだ。

小狼くんは右目の上の方を怪我したらしく、血が流れ出ている。そんな彼を見ている姫さんとモコは、すごく心配そうだし。
春香ちゃんに至っては、完璧に俯いていて表情は見ることができない。何を思っているのかもわからない。
それでも1つだけわかる…激しい怒りを感じている、ってことだけは。


「何か―――…あったみたいだね」
「とりあえず、中に入ろうか。たくさん荷物もあるみたいだし」


いまだ俯いたままの春香ちゃんに問いかければ、コクリと頷きが返ってきた。
中に入って、とりあえずは小狼くんの手当て。
濡れた布などを準備してると、姫さんが自分がやると言ってきたから任せることにした。…心配なんだね。彼との思い出がなくても。

その間に僕達は春香ちゃんから、あの最低バカ親子が1年前に急に強くなったこと、その領主に春香ちゃんの母親が殺されたこと。
モコに町で起きた出来事、不思議な力がいっぱいで羽根の波動を感知出来ないこと、を聞いた。


「そっかー。また領主とかの『風』にヤラレたんだー」
「しかし、そこまでやられて何で今の領主をやっちまわねぇんだ」
「やっつけようとした!何度も、何度も!」


悔しそうに、心底悔しそうに言葉を紡ぐ。
そこから春香ちゃんが…いや、町の人達がどれだけ辛い思いをしているかがわかる。どれだけあのバカ親子を憎んでいるのかも。
でも指一本触れられない理由があった。アイツら親子が住んでいる城には、秘術というものが施してあるんだってさ。
だから、誰も近寄ることが出来ない。町の人達がどれだけ束になっても意味がなかった。
秘術、ねぇ?恐らくそれが、モコが感じたという不思議な力のことだろうな。


「あの息子の方はどうなの?人質に取っちゃうとかー」
「あとは八つ裂きにするとかー?」
「八つ裂きはおかしいだろ!…お前ら、さらっと黒いこと言ったな」
「「ん?」」
「2人共イカスー♪」
「だめだ!秘術で領主は蓮姫の町中を見張ってる!息子に何かしたら…!」
「昨日とか、今日の小狼くんみたいに秘術で攻撃されちゃうかー」


ざーんねん。いいアイデアだと思ったんだけど。
それにしても、コレって…まさか―――――


「1年前に急に強くなったって言ってたよね?そのバカ親子の親の方。もしかして、姫さんの羽が関係してるんじゃない?」


モコに聞いた話だと、姫さんの羽根はかなり強い力があるらしい。
想いの、今までの人生のカケラだから…なのかな?それだけのモノなら、大して力を持っていなかった奴らが強くなった理由も説明がつくと思う。


「辻褄が合わねぇだろうが。記憶の羽根とやらが飛び散ったのは、つい最近の話だろ」
「次元が違うんだから、時間の流れも違うのかも」
「それは確かに言えてるかもしれないねぇ」


ファイくんと黒鋼くんの話を頷きながら聞いていると、手当てを受けていた小狼くんがスッと立ち上がった。
瞳には強い意思の色が浮かんでる。あぁ…行くんだね、あの領主の所へ。あるかどうかはわからないけど、羽根がある確率が高いから。


「確かめて来ます。その領主の元に羽根があるのか」
「待って!小狼くん、怪我してるのに…」
「平気です」
「でも…」
「大丈夫です。羽根がもしあったら取り戻して来ます」


にっこりと笑顔で告げる小狼くんに、姫さんは掴んでいた腕を離したけど…まだ不安そうな表情をしてて。
きっと彼女の心の内は、複雑な感情でいっぱいだろう。

怪我してるのに心配、とか
どうして、とか
何でここまでしてくれるのだろう、とか

わからないことばかりだろうね…羽根が足りない今は。


「ちょっと待ってー」
「ファイくん?」
「ん、安心して。止めるわけじゃないからー。でもね」


ファイくんが言いたかったのは、秘術がかかってるから、ただ行っただけでは無理だということ。
ふむ。でも確かにそうだよね。バカで最低な領主だけど、アイツが使う秘術は結構すごいものみたいだし。
彼の言う通り、せめて城の入り口にかかってる術だけでも破らないと、何も出来ないね。今までそうやって町の人達が近寄れないようにしていたんだからさ。


「お前、何とか出来るのかよ」
「 無 理 」
「うわぁ…すっごい(胡散臭い)笑顔だー」
「侑子に聞いてみよう!」
「あの次元の魔女に?」


そう言うやいなや、モコの額の赤い石が光って映像を映し出した。…あー…そういえば、向こうの黒いモコナと通信が出来るんだっけか。
僕達は1回見てるけど、春香ちゃんは初めてだ。
チラリと視線を向けてみると、姫さんに抱きつきながら、叫びながらすんごい顔で驚いてる。そりゃま、驚くよね。突然映像が出て、しかも喋ったら。


『なるほど。その秘術とやらを破って城に入りたいと』
「そうなんですー」
『…でもあたしに頼まなくても、ファイは魔法使えるでしょう?』
「貴方に魔力の元、渡しちゃいましたしー」
『あたしが対価として貰ったイレズミは、「魔力を抑える為の魔法の元」。貴方の魔力そのものではないわ』
「まぁ、でも…あれがないと魔法を使わないって決めてるんで」
『そして緋月。貴方も使えるでしょう、魔法』
「多少は。…でも強いモノを破るのって、結構面倒なんですもーん」
「そんな理由かよ?!」
「高度な魔法って使うと、結構疲れるんですよー。体力がいるの」
『いいわ。城の秘術が破れるモノを送りましょう。ただし、対価をもらうわよ』
「おれに何か渡せるものがあれば…」
「これでどうですかー?魔法具ですけど使わないし」
『……いいでしょう、モコナに渡して』


モコがあーんと口を開け、ファイくんの魔法具がずるずると引き込まれていく。
…うん。見ていて気持ちのいいものではないな。春香ちゃんなんかもう泣いてるもんねー。この光景見て。
そして、モコの身の丈以上あった魔法具は…ごっくんと飲み込まれた。モコってすごいなー…。


「いいんですか」
「うん、いいんだー」
「大丈夫?春香ちゃん」
「ううー…!」

―――めきょっ
―――ぽんっ

「あ、何か出た」
「これが秘術を破るもの…」
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