02


―――ワアアァアアァアアッ


ついにレース本選当日。スタート地点となる会場には、予選の時の倍以上の観客が集まっていた。
それもそうだ。今日、此処で優勝者が決まる。過去最高の賞品が、この中の誰かの手に渡るのだから。


「予選の時より人、いっぱいだねー」
「やっと本選かよ」

「あっあの!やっぱりコレ恥ずかしい…っ!」
「そんなことないよ、緋月ちゃん!とっても似合ってるよ」
「そうですわ!さ、自信をお持ちになって」

「何だか…揉めてる、みたいなんですかね?」
「揉めてるって言うよりー、緋月ちゃんが嫌がってる?」

―――キィ

「お待たせ致しました」
「緋月ちゃんも早くっ!」
「わ…っ!」


姫さんに引っ張られる形で、控え室から出てきた。うう…確かに素敵な衣装なんだけど、僕には似合わないんだってぇ!
姫さんが着ているのは、淡いピンクで背中に天使の羽がついているノースリーブのワンピース。腕には手袋をはめてて、ロングブーツを履いてます。
僕が着ているのは、黒がベースの同じくノースリーブのワンピース。丈の長さが左右で違ってて、右側の裾をリボンで留めてる形になってるのね。
下にはちゃんと赤いショートパンツをはいてますよ?


「……」
「2人とも可愛いねー」


おー、小狼くんの頬がピンクに染まってる。きっと姫さんの格好を見て、可愛いとか思ってるんだろうね?
僕から見ても、今日の姫さんは超絶可愛いもの。見とれちゃうのもわかる気がするなぁ。
それにしても…コレを1人で作ったなんて、本当にすごいなぁ知世ちゃんって。


「(似合ってる…のかなぁ?僕。姫さんと知世ちゃんはすっごい笑顔だったけど…)」

―――ひょこっ

「どうしたのー?緋月ちゃん」
「あ、ファイくん…」
「もしかして、今着てる洋服のことー?すっごく似合ってるよ。可愛い」
「…ありがと」


黒鋼くんも―――聞いたら答えてくれるのかな?似合ってるかどうか。


「申し訳ありません。結局誰が不正を働いたのか、本選までに探し出せなくて」
「知世ちゃんのせいじゃないよ」
「そうだね、姫さんの言う通り」
「この本選にも何か仕掛けてくるかもしれません。警備体制は万全を期していますが、それでも何が起こるかわかりません。気をつけて下さいね」


姫さんの手をキュッと握り、心配そうな表情を浮かべている知世ちゃん。
どんなに万全にしていても、全てを防げるわけじゃないからね。それに犯人の特定も出来ていないんだし、予選の時以上に気をつけておいた方がいいのは確か。

でも…このメンバーなら、絶対大丈夫って思うんだ。根拠はないけど。
きっと―――何とかなるから。


「…誰が何しでかそうが、勝ちゃあいいんだろ」
「だねぇ」
「はい」
「そう簡単に負けてやるもんですか」
「頑張る!」


そう。このレースは絶対に、負けられない。
何があっても、負けるわけにはいかないんだよ。誰にも。


「さあ、そろそろ本選前の抽選が始まりますわ」
「抽選?」
「出走場所を決めるんです」
「場所?」


何も聞いていない僕達は、全員頭の上に?を浮かべることとなりました。


―――ポーン

『NO.15です!』
「あー…成程、抽選ってこういうことね」


恐らくは、引いた番号順に場所を決めていくってことなんだと思う。
…これも不正を働けないように、っていう作戦かなぁ。予選の時は普通に、一斉スタートしてたし。
ま、それは今は置いておいて…皆のひいた番号はーっと。

黒鋼くんが9番。
ファイくんが11番。
僕が17番。
小狼くんが15番。

今の所、黒鋼くんが一番いいトコみたいだけど、まだ姫さんが引いてないのよね。あの子の運の強さは半端じゃない。
きっと―――


『出ましたーーー!!NO.1ですーーーーー!!!』
「あっはっはっは。やっぱりそうなるよねぇ」
「サクラちゃんだもんねー」
「サクラさすがーv」


さて…これで出走場所は決まった。あとはレースそのものに挑むのみ、だね。
集まっている出場者に視線を走らせれば、カイルと同じ顔の人と…目が合った。
ただじっと絡み合う視線。それだけのはず、なのに…どうしてこんなにも嫌な予感がするの?

徐々に上がる心拍数。乱れ始める呼吸。
全力で走った後のように、上手く息が出来ない。

視線を逸らせずにいると…予選の時と同じように、ニヤリと笑った。
歪んだ口元に、冷たい光の瞳。…何を思って、いるの?
もしかして―――ただ同じ顔の人では、ないとでもいうの?


―――ゾクッ

「―――っ!」


一瞬にして寒気が走った。自分の推測に。
この本選…確実に何かが起きる。リタイアするだけのようなものなら、まだマシだ。
でも…下手をすれば、命を落とす危険性だってある。確率は0じゃない。

―――ギュッ

何か温かいものに、右手が包まれた。


「くろ…がねくん…?」
「不安か?浮かねぇ顔してやがる」
「……そう、だね。不安なのかもしれない。何か良くないことが起こる気が、しちゃって」
「それでも勝つ。それしかねぇだろう」
「あはは…うん、そう。そうなんだけどねぇー」
「ったく……まだ不安なら、落ち着くまでこうしててやるよ」
「え?…っわ」


むぎゅっと、繋がれていない方の手で抱き寄せられた。こっこれは…嬉しいけど、恥ずかしすぎるんですが?!黒鋼さーーーーんっ!!!
レース出場者も、レースを見に来てる人も、それに小狼くん達もいるんだけどっ!

ああ〜…絶対、今顔真っ赤になってると思う…。きっと黒鋼くんは顔が赤くなったりせずに、いつも通りの澄ました顔してんだろうなぁ。
一発殴るか、蹴るかしてやろうかしら…八つ当たりで。
そう意気込んで睨み上げてみれば、そこには意外な光景が広がっていました。


「……赤い…?…黒鋼くんの顔が?」
「うるせぇ。見んな」

―――むぎゅ。

「みゅっ!」
「…変な声」


仕方ないでしょ、急に力込められたんだから!そりゃ変な声も出ますっての。
…だけど、珍しいもの見れちゃったなぁ。この国に来てから、彼の見たことない表情を見る機会が多い気がする。
まだ知らなかった一面を知ることが出来るのは、すごく嬉しいけど。

でもキミも僕と一緒で、恥ずかしいって…思っているの?僕のことなんか同行者としか見ていないはずなのに、どうして。


「そろそろ時間だな。行くぞ、緋月」
「あっは…はい!」
「あんまり…無茶はすんなよ。危ねぇと思ったら、すぐリタイアしろ」
「キミらしくない発言だね?…でも…そうだね、考えておく」


此処で怪我したり、命を落としちゃったら意味がないもんね。
優勝して羽根を手に入れることも大事だけど、それもきちんと視野にいれておこう。そうじゃないと皆に叱られちゃうだろうからねぇ。


「あっ緋月ちゃん達、来ましたよ!」
「おっそいよー2人共。そろそろスタートなのに」
「ごめん、ごめん」
「じゃあ…」
「うん、行こう」
「『ドラゴンフライレース』本選に」


『「ドラゴンフライレース」本選!!これがスタート塔です!!』


ふわぁ〜…何だかすっごいモンだなぁ、このスタート地点。
この1つ1つの…何か触手みたいなの?が、飛び立つ位置になってんだ。きっといっちばん前に姫さんがいるんだろうねぇ。
黒鋼くんも僕より先の番号だったから、少し前かな…。ファイくんと小狼くんとは番号が近かったからー…あ、いたいた。


『現在、我がピッフル国公式レース使用車でもっとも軽いマシン。それが「ドラゴンフライ」!史上最も豪華な優勝賞品が用意された今回のレース!あの充電電池を手に入れるのは誰だーーーーー?!』


あははー。本選なだけあって、実況の人も気合入ってんねー?盛り上げようと頑張ってるみたい。
…ま、それがなくともこのレースは盛り上がるだろうけどさ。

さて…確か、今回のレースは渡された羅針盤が示す通りに進んでいくんだよね。んで、3ヶ所あるチェック地点でバッジを受け取らないといけない。
そのバッジはこの腕についてる、布みたいなものに着けて下さいって言ってたっけか。…1つでも取りそこねたら、失格ってことだよねぇ。気をつけないと。

首元に垂らしていたゴーグルを装着して、スタートの合図を待っていると、空中に知世ちゃんの映像が映し出された。
予選の時と同じようにスタートの合図は彼女なんだね。
んじゃま、行きましょうか。僕の相棒『ローズバタフライ号』。


3…

2…

1…

0!!


『3つのバッジをゲットして、目指せ!栄光のゴールへーーー!!』


出走場所は17番。だけど、それはさして問題じゃない。
場所が悪いだけの差なら―――これからどうにでもなるもの。

―――ブォンッ

思い切りアクセルを踏み込む。かなりのスピードで飛ばせば、あっという間に姫さんの機体が見えてきた。
…一番有利なところから飛んでるはずなんだけど、やっぱりまだ操作に慣れてないんだね。思うように飛ばせてないみたい。


「(姫さんのことは気になるけど…まだレースは始まったばかり。結果なんて、まだ先のこと。心配したって仕方ないよね)」


僕に出来ることは―――何が何でも、優勝すること!


「姫さんっ!また後で会いましょう!」
「緋月ちゃん……うん!また後で!」
「大丈夫。姫さんなら、絶対に大丈夫だよ!」


ピースサインをして、更にスピードを上げていく。負けるわけには、いかないから。


『さあ!その間に先頭はー?!』


お、もう順位にバラつきが出始めてるんだね。でも結果を聞かずとも、先頭が誰かだなんて…容易に想像がついちゃうんだけど。
だって、黒鋼くんしかいないじゃない?最初っから飛ばす負けず嫌いの出場者なんてさ。


『「黒たん号」だー!!本当に速い。さすが予選第一位!!それに少し遅れて「デウカリオン1号」、「2号」、「ガルーダ号」に「ウィザード号!」、更に遅れて4機、ダンゴ状態だー!』

「やっぱり予想通り、黒鋼くんが先頭だねー」
「あ、緋月ちゃんだー。夜魔ノ国にいる時も思ったけど、黒様って負けず嫌いだよねぇ」
「ふふっ本当にねー」


何とか中盤グループに入れたみたい。此処から先は、建物や看板が密集した一般の空路みたいね。
こっれはまた、飛びづらそうだね。少しでも操作を誤ったら、即墜落しちゃうだろう。
ただ速いだけじゃ、優勝するのは無理だろうね。テクニックも重要になりそう。
…ま、黒鋼くんにはそんなの関係ないだろうけどねー。


「さーて、行きましょうかね!」
「そうだねぇ。『ツバメ号』ちゃん、いこっかー」

―――グッ
―――ヒュヒュンッ

『素晴らしい操縦です!「ツバメ号」に「ローズバタフライ号」!!一気に先頭グループに躍り出ましたー!』

「黒たん、やほー」
「真面目にやらねぇと落とすぞ!」
「なーんで空の上でまで喧嘩をするのかな、キミ達は…」


それが2人だから、もう慣れたと言えば慣れたんだけど。

―――ピコーン♪

ん?羅針盤が鳴った…第一チェック地点が近いのかな?
指し示す先を見てみれば、何だか大きなボールみたいのが浮いていた。…多分、あれがチェック地点なんだけど―――バッジは?
キョロキョロと周りを見渡してみても、それらしきものは見当たらないし、人が立っているわけでもない。
あるのは…やっぱりあのボールみたいなのだけだ。……あれ?何か、キラキラ光ってるぞ?あのボールの中。


「まさかとは思うけど…」
「うん…ひょっとして」
「「あれーーーーー?!」」
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