見えない敵
どうやら第一チェックポイントのバッジというのは、あのボールの中でキラキラしてるヤツらしい。
だけど、どう取ればいいんだろう?入り口のようなものがあるわけでもないみたいだし。
「…ま、近づいてみればわかるか」
―――ギュンッ
わからないのなら、近づくしか方法がない。近くに行けば何か手立てがわかるかもしれないしね。
僕とファイくんがボールに近づいた時、またポーン♪という音が聞こえて…ボールが割れた。
割れれば必然的に、中に入っていたバッジは飛び散るわけでして。目の前にブワッと飛んできました。
「…っとー。なぁるほど、こういう仕掛けになってるわけか」
「『ドラゴンフライ』が近づいた時だけ、あの球体のがなくなってバッジが取れるんだー」
現に今は、再びボールがバッジを包み込んでいる。
すっごい仕掛けを思いつくもんだ、知世ちゃんの会社は。
「取り損ねたヤツはそのままか」
「うん。全部落ちていってる」
「ってことはー、後になる程バッジの数が減って不利ってことかもー」
ファイくんの言う通りかもね。『ドラゴンフライ』が近づけば、ボールは消える。だけど、その分たくさんのバッジが落ちていってしまう…どれくらい中に残るかはわからないもの。
下手すれば、1つも残らず落ちてしまう確率だって0ではないんだから。
姫さんと小狼くん、無事にバッジをゲット出来るといいんだけど。
『現在、第一位は「ツバメ号」ー!二位は「黒たん号」と「ローズバタフライ号」です!』
あや。先頭集団には入ったけど、いつの間にか二位にまで上がってたのかー。
このまま、ゴールまで突っ走ることが出来れば嬉しいんだけど。でも…勝負事は最後の最後まで、結果がわからないもの。
今は良いトコにいても、次の瞬間には最下位に落ちてるかもしれないもんねぇ。
ゴールするまで気を抜くことは、出来ない。もちろん、気を抜くなんてこと…絶対にしないけどね。
『なっ何だーーー?!ボールが破裂しました!!こ、故障でしょうかーーー?!』
「えっ?!ボールが破裂…っ?」
「みたいだねぇ。それじゃあ、バッジはどんどん落ちていくのみ?」
「そうなるだろうな」
「そんな……(姫さん、小狼くん―――!)」
『そして「モコナ号」タイミングを逃した!!取り損ねたら、一定時間の強制停止が待ってるぞ!!…いきなり機体を回転させたーーー?!長い翼でバッジをはじいて、それを……キャーーーーッチ!お見事ォォ!!』
良かった…小狼くんは無事にバッジを手に入れることが出来たみたい。
ボールが破裂したの…故障かも、って言ってたけど…きっと違うよね。これを管理してるのは、知世ちゃんの経営する会社だもの。そう簡単に故障するはずがない。
誰かが意図的に干渉して、破裂させたと考えるのが妥当でしょう。
はてさて、そんなことをしたのは…予選で不正を働いた人か。それとも―――全く違う人物か。
「このレースが終われば、全てわかることか…」
今はレースに集中しよう。
その後の実況で、姫さんは無事にバッジをゲット出来たことを知った。彼女が取ったバッジが最後だったみたいで、19位と20位の人は失格になっちゃったみたい。
『さて、現在のトップはどうなってるー?!』
相変わらず、実況の人達はテンションが高いねぇ。
もうすぐ第二チェック地点なんだけど、トップを飛んでるのはさっきから変わらずファイくんです。
僕と黒鋼くんも、彼の後ろについていて二位を死守してるんだけど…実は、僕達の後ろを飛んでる人達がね?これまた速いんですよ。
確か『イエロータイガー号』と『スノーホワイト号』だったかな?自警団の笙悟さんと―――カイルとそっくりな人。その2人がぐんぐん近づいてきてるんだ。
笙悟さんなんか、このレースの上位入賞の常連だって言ってたし、加速の仕方が半端ない。
―――ギュンッ
―――ゴォッ
『抜いたー!!さすが前回大会優勝機「イエロータイガー号」!ものすごい加速です!「スノーホワイト号」も速い!!』
「あらら…抜かれちゃったー」
「……」
―――ゴウッ
「無言で加速したよ、黒鋼くん…」
「やっぱり負けず嫌いだー」
そうだねぇ。…だけど、僕も彼に負けてないみたい。
勝負事にはあんまり興味がなかったはずなんだけど…抜かされたことが、もんのすっごーーーく!悔しいんだよね。このままにしてられないっての!
―――グッ
仲間の黒鋼くんにだって負けてたまるか。アクセルを思いっきり踏んで、前方を飛ぶ3機を追う。
「あはは。実は緋月ちゃんも負けず嫌いー?」
ファイくん、うっさい。否定はしないけど。
そんなこんなしているうちに、黒鋼くん達に追いついたみたい。
すると、羅針盤がまたピコーン♪と鳴った。…第二チェック地点か。今度はどんな風になってるのかなぁ?
羅針盤の針が指し示す先にあったのは、チューブ…?
「何だ、ありゃ?!」
「チューブみたいに見えるけど…」
『第二チェック地点は、このドラゴンチューブです!』
「あ、やっぱりチューブなんだ。ただ通り抜ければいいのかな?」
説明を聞いてみると、案の定無事通過すればバッジが出現するみたい。
出口にそれを感知するリングがあるみたいね。
『しかし!!このチューブは動きます!要注意だー!』
「めんどくせー!!!」
「ぅわお。きっもちわるー…」
「あははははー」
「ま、ともかく行きますかー!」
チューブの中に入ってみれば、中は案外広かった。うねうねと動いてるから、飛びづらいっちゃ飛びづらいけどね。
だけど、高速で動いてるわけじゃないから問題なさそう。一位と二位の2人はもう抜けたみたいだから、急がないと!
―――グニャッ
動くスピードが、変わった?!まずいっ!!!
「!ファイくんっスピード…ッ」
―――グシャッ
「何?!」
「チューブの動きのスピードが変わったの!巻き込まれたら…多分、海に墜落するっ」
「…チィッ」
さっき、動きのスピードが変わったチューブの壁にファイくんがぶつかったのが見えた…っ!怪我とかしてないよね?
―――バッ
僕と黒鋼くんは、何とか巻き込まれる前にチューブを抜けられたけど。すぐ後ろにいた人達はどうなったんだろう?
何とかチューブを出て、無事にバッジはゲット。…けど、動きが過激になったチューブは途中から破れてしまったみたい。
これは…レースを中止に、とか有り得るのかな?それともこのまま続行?でもま、これだけ大々的に優勝賞品の羽根が発表されちゃってるんだもの。
今更レースを中止に、ってことになったら…それこそ大変かもね。知世ちゃんもそんなことはしなさそうだ。
「ねぇっファイくん、無事かなぁ?!」
「俺が知るかよ!…だが、アイツのことだ。何とかしてるだろう!」
「そっか…そうだよね。ファイくんだものね」
「他人の心配してる暇があんなら、前を向け!勝つんだろう?!」
「…トーゼン!!!負けてたまりますかっての!」
「なら、行くぞ!」
「おうよっ」
「びっくりしたー。このチューブ、ふわふわで助かったよー。でも…ダメかもー。動かないー」
『ああー!!「ツバメ号」リタイアー!!「デウカリオン1号・2号」!「ウィザード号」もリタイア!』
「(緋月ちゃんと黒たんは無事抜けたみたいだねー。まだ小狼くんとサクラちゃんもいる。頑張ってね、4人共)」
やっぱりリタイアになっちゃったんだ…機体が水に浸かっちゃったみたいだもんね。ちょっとやそっと濡れたくらいなら問題ないだろうけど、浸かってしまったらさすがにアウトだから。
…だけど、映像の中のファイくんは元気そう。怪我もしてないみたいだし、安心したよ。彼の分も、精一杯飛ばなきゃ。
『第二チェック地点でトラブル発生!第一・第二地点合わせて、6名がリタイアしています!』
そっか…第一ではボールが破裂して、バッジがなくなった。確か2名がリタイアしたのよね。
んでもって、さっきの第二は…4名がドラゴンフライが動かなくなってリタイア。
もうそんなにリタイアした人が出てるなんて…それに続けてトラブルが起きてるってのも、何か変だ。
それが不正行為だと言うのなら。…少し生温いような気もするのは、僕の考え過ぎか?
今の所、トラブルは起きてるけど誰も怪我はしていない。さっきのチューブも素材がクッション性が高い素材で作られてたみたいだし。
怪我人や死人が出ないことは、きっと良いこと。だけど―――何かが引っかかる。
「余計なこと考えてっと怪我するぞ!」
「それもそうね。あとで考えることにするわ!」
いつの間にか第三チェック地点に到着ー。
此処は渓谷、だね。実況の人が言うには、この渓谷は自然の迷路なんだって。…うん。確かに道が入り組んでる。
この渓谷を通り抜ければ、バッジをもらえるわけね。さあ、これが最後のチェック地点!
「面倒だな。上を飛んできゃいいじゃねぇかよ!」
「そういうのを"ズル"って言うんだよ?それに…上の方に何か機械みたいなのが見える。きっと感知器だね。引っかかったら失格になるんじゃないかなー」
「まためんどくせーことを!!」
『現在トップの「イエロータイガー号」と「黒たん号」は、ほぼ同時に渓谷に入りました!その後ろにぴったりと「ローズバタフライ号」がくっついています!少し遅れて「スノーホワイト号」!』
チラリと後ろを見やれば、中盤集団も続々と渓谷に入ってきてるみたい。
上は感知器に引っかかるから行けないし、幅は狭いし…一番最初の一般航路以上に難しいコースだな。
あそこ以上の操縦技術が必要ってわけか…めんどいなぁ。だけど、あんまり無茶すると機体が壊れちゃうし。急ぎたいのは山々なんだけども。
―――ガガッ
『「黒たん号」ちょっと強引ですねー!』
「勝ちゃあいいんだろうが!!」
うん…まぁ、そうなんだけどさ?黒鋼くん。キミの言ってることはもっともだし、間違ってもいないですけれど。
ドラゴンフライって、結構繊細な乗り物なんだよー?それ、わかってるのかなぁ。
…きっとわかってないだろうなぁー、黒鋼くんだし。
「ふふっでも…彼らしいって言えば、彼らしいのかな」
岩壁に機体を擦りつけながらも、一位に躍り出たみたい。ほんっとーに強引だねぇ…。
黒鋼くんの操縦の荒っぽさに苦笑いを浮かべていると、信じられない言葉が耳に飛び込んできた。
『「龍牙号」と「モコナ号」衝突ですーーーー!!』
『モコナ号』って…小狼くん?!
他の機体と衝突したって、大丈夫なのかな?後続2機もその破片にぶつかって、合計5機が新たにリタイア。
今回のは不正とか、そういうのが関係のないリタイアだけど…やっぱりこの幅の狭いコースは難関なんだ。
尚更、操縦に気を遣わないといけない。
『5機リタイアです!優勝候補の1人「龍牙号」、「モコナ号」と共にリタイア!!』
これでファイくんと小狼くんがリタイア、か。
残ってるのは僕と黒鋼くんと姫さんの3人だけだ。小狼くんの願いの為にも…頑張って、勝たなくちゃ。
「怪我とかないー?」
「はい。でも…姫の羽根が…」
「あそこで避けちゃ、小狼くんじゃないでしょー。それにあの3人が頑張ってくれるよ」
えっとー…現在の一位は変わらず、黒鋼くん。無理矢理に抜いた後、そのままキープしてるみたいね。
二位は『イエロータイガー号』の笙悟さん。
僕は笙悟さんの後を追いかける形で、何とか三位をキープしてるけど…すぐ後ろに『スノーホワイト号』が迫ってるんです。
もう第三チェック地点も終盤に近いはず。この渓谷を抜けたら、もうゴールに向かって全力で飛ぶのみになる…だからこそ、今此処で抜かされるわけにいかないんだ。
抜かされてしまったら、抜き返すのは至難の技だから。
「(抜かされるわけにはいかないけど、このまま三位のままっていうのもイヤだよねぇ)」
―――スゥッ
「え…?蝶―――」
フワリ、と何処からともなく蝶が一羽、姿を見せた。
いや、確かに何処から来たのかも気になるんだけど…僕、今結構なスピードで飛んでるはずよね?
それなのに、どうして――――
「ずっと隣を…飛んでるの…?」
色は赤。綺麗過ぎるほどの、赤色。フワフワと…最初と同じ位置に、ずっといる。
まるで、そこだけ風の抵抗も何もかもないかのように―――ずっと。何だかよくわからないけど、不気味すぎる。
この蝶は…きっと自然界に存在する蝶じゃない。
それならこの不可思議な光景にも説明がつくし、納得出来る。…納得なんてしたくないけどねっ!
気になって仕方ないけど、飛ぶことに集中しないと岩壁に激突しちゃうな。
改めて前を向こうとしたら、ずっとそこに留まっていた蝶がフワリと動いて…僕の操縦する機体の内部へと姿を消した。
「どう…なってるの?一体」
―――前をしっかり見ていないと、危ないですよ?
「っ?!!」
耳元で聞こえた声。だけど、飛んでいる僕の隣には誰もいない。
いるのは…後ろを飛んでいる、カイルにそっくりな人。
でも離れているはずなのに、耳元で声が聞こえるはずがないんだ。そんなこと、あるわけがない。
わかって、いるのに…気になってしまう。後ろの人物が。視線だけを後方へと向けてみる。
「!」
笑って、いた。
距離があっても、スピードを出していてもよくわかる。確かにあの人は笑っていた。予選の時と、同じ笑顔で。
―――背筋が凍るほどの、冷たい眼差し。