お礼と伝言


すやすやと眠る姫さんの寝顔を遠くから見ていると、ファイくんの特徴的な間延びした声が聞こえた。
どうしたんだろー?ボーッとしちゃってたから、近くにいるのに全く話を聞いてなかったぞ。


「……何かするの?笙悟さんと残さん、何処かに電話掛けてるけど」
「パーティーだと」
「へ?パーティー?」
「サクラちゃんは優勝したし、緋月ちゃんの活躍とモコナの秘密技のお陰で羽根も戻ったでしょー?だから、パーティーしよーって」
「なーる」
「お前はどうする?部屋で休むか?」


スルリ、と頬に触れられて問い掛けられる。瞳には、僕のことを心配している色が浮かんでいて。
…確かに背中とか腕とか、まだ鈍い痛みは残ってるし、正直動くのがキツイんです。本来なら安静にしているべきなんだろうけどー…。
せっかく皆でわいわい出来るのに、部屋に1人っていうのは…イヤだなぁ。
いまだに頬に触れているままの彼の手を、そっと握った。


「…緋月?」
「1人でいるのは……ヤダ」


…淋しいもん。やっぱり。


「何か…緋月ちゃん可愛いーv」

―――ぎゅうっ

「わぁ?!」
「何してんだ、てめぇ!」
「きゃー、黒わんこが怒ったー♪」


あ、久しぶりに聞いた。黒わんこ。…ま、当然ながら怒りますよね?黒鋼くんは。
だって、めちゃくちゃ嫌がっていたわんこ呼ばわりだもん。この国ではお父さんとか言われるようになってたけど。いつの間にか。

黒鋼くんから逃れたファイくんは、小狼くんにすすす、と近寄ってた。どうやら今日くらいはお酒を飲まないかーって言ってるみたい。
小狼くんと姫さんは黒鋼くんから、お酒を飲むな!って言われてる身だもんねぇ。2人共、酔うと大変だから。
…正しくは面白い、だけどさ。


「…で、部屋に戻るのは嫌なのか」
「うん…イヤ。此処に、いたい。いても…いい?」
「わざわざ許可を取るようなことでもねぇだろ。いたいってんなら、いりゃあいい」
「じゃあ、此処にいる」
「おう。…辛くなったら、言えよ」
「はーい」


くしゃりと、優しく頭を撫でてくれる黒鋼くん。
こういう時の黒鋼くんって、いつもの表情から想像出来ないくらいに優しい表情してるんだ。
きっと本人は気がついていないだろうけど。言ってしまったら…意識してしなくなっちゃうだろうから、絶対に言わない。

だって、僕だけの特権みたいに思えるから。
それにさ、好きなんだよ。優しい微笑みを浮かべてる黒鋼くん。普段が険しい表情をしてることが多いから、余計に。
だから―――ずっと見れたらいいなって、思っちゃう。


「飲もうよーサクラ初勝利だよーv」
「で…でも、まだ姫は眠ってて」
「のもーよーのもーよー」
「起きたらサクラも飲むよ!てか、モコナが混入する!」
「いいから酒よこせ」
「あ、僕も飲みたーい!準備しよっかー」
「えっでも緋月さん、怪我…っ!」
「こんな日に飲まないなんて間違ってるもんー。飲みすぎないようにはするよ」

―――そっ

「貴方と一緒に旅をしている方達は、本当に素敵ですね。サクラちゃん」


そして、緋月ちゃん…貴方も。


残さんが自分のお店にケータリングを頼んでくれて、笙悟さんは自警団の人達を呼んで…思ってたより、豪華で賑やかなパーティーになっています。
料理を作る気でいたから、ちょっと拍子抜けしたけどね。
でも残さんのお店の料理美味しいんだ。色んな種類があるし。自分で作ったら、ここまでの品数は作れないもんなぁ。

周りを見渡してみれば、ファイくんとモコに「笙悟くん、昨日メールくれなかったのー」と愚痴っているプリメーラちゃん。(可愛いんだよね、この子。笙悟さんの彼女かな?)
それを聞きながら笑ったり、お酒を飲んだりしている知世ちゃんのボディーガードさんや自警団の人達。(1人、すでに顔が真っ赤な子がいるけど…大丈夫かな)

小狼くんは残さんと窓際に腰掛けて、何やらお話中みたい。
…あ、小狼くんもう酔っ払ってるのね。残さんのことを黒鋼くんと間違えてるし、緋炎だと思って握ってるのはグローブだし。
まぁ、残さんは突っ込むこともせずにカメラ回してますが。


「あれ…?(黒鋼くんがいない…)」


どうせお酒ばっかり飲んで、ろくに食べてないだろうと思って料理を取ってきたんだけど…彼の姿が見えない。
さっきまでいたと思ったのにな。…もしかして騒がしいから、外で飲んでるのかな?
迷惑じゃなかったら、僕もつき合わせてもらおうかな…お酒も料理も持ってるし!

とととっと外に出てみると、探し人はすぐに見つかった。
だけど、その傍らには知世ちゃんもいて、何か話してるみたいで。…何を…話してるんだろ?
声を掛けるに掛けられなくなって、その場で足を止めてしまった。盗み見みたいで…あんまり気分は良くないけど、足が動かない。
…きっと、何を話してるのか気になるから。


「やっぱり聞いていた通りですわね」
「それも夢でか」
「驚かれないんですね」
「あの姫だからな。他人の夢くらい渡れてもおかしくねぇ。…夢の中の……ちっいい」
「気になってしまいますわ。最後までおっしゃって下さいな」
「………夢の中の知世姫はどうだった」
「お元気でしたわ。貴方のことを話す時、とても楽しそうでした」
「またふざけたことぬかしてたんだろ」
「いいえ。貴方なら、本当の強さをきっとわかるだろうから、と」


知世ちゃんの…いや、知世姫からの言葉に少しだけ驚いてるように見えた黒鋼くん。
もしかしたら意外な、言葉だったのかもしれないね。


「無茶をせずに、早く治して下さい」

―――でも 魂は同じ。

「……魂は同じ、か」


なぁんか、余計に声を掛けずらくなっちゃたなぁ。
てか、気配に聡い黒鋼くんなら僕が此処にいること気がついてるんじゃないのかな、とも思うんだけどさ。

…とりあえず、ずっと此処に突っ立ってても仕方ないや。中に入ろう。邪魔しちゃ、ダメだよね。
くるっと踵を返した瞬間、知世ちゃんに声を掛けられた。恐る恐る振り向けば、来い来いと手招きされて。


「どうなさいましたの?緋月ちゃん」
「え、えと…何処に行ったのかなぁって気になって…」
「そうでしたか。お手を煩わせてしまったみたいで、ごめんなさい。私は中に戻りますわ。ごゆっくりお話してくださいな」
「えっぼ、僕は…別に…っ」
「私と彼は貴方が気にするような仲ではありませんし、知世姫ともそうだと思いますわ。だって、黒鋼さんが一番気に掛けているのは緋月ちゃんですもの」
「え……」
「ふふっお似合いだと思いますわよ?緋月ちゃん達」
「とっ知世ちゃんっ!」
「?」


彼女の一言にカァッと顔に熱が集まるのがわかった。
にっこりと笑って、知世ちゃんはパタパタと中へと戻っていった。その笑顔はすっごく可愛いんだけど…彼女にも僕の気持ち、バレてたんだ。
ファイくんと姫さんにもバレてるのよね。誰にも悟られないように、細心の注意を払っていたつもりだったんだけどなぁ。
…意外と難しい。今までは自分の気持ちを隠すなんてこと、楽に出来ていたのに。

皆のことが大切だってわかった途端、仮面がボロボロと剥がれていく感じ。
嫌ではないんだけど―――どうしても気に掛かる、あの方のこと。そしてカイルの、最後の言葉。


「(全てを失うことになる…そう、言ってたよね)」


今のこの関係を、居場所を失いたくないと思っている僕。だけど…そんなことを望むのは許されないことなんだ。
さっきのカイルの言葉でようやく…そのことを思い出した。
僕の全てはあの方のモノだから、未来永劫。その事実は、どんなに足掻こうとも変わることなどなくて。
でも―――変えたいって、今は思ってしまっている。


「おい、いつまでそこに突っ立ってる」
「あ……黒、鋼くん…?」
「…どうした?体、辛いのか」
「ううん、何ともない。傍に、いてもいい?」
「あぁ、別に構わねぇ。…中に入らねぇで平気か」
「今は平気かな、お酒飲んで体温上がってるし。あ、そうだ。これどーぞ?あんまり食べてなかったでしょう。悪酔いしちゃうよー」
「んな簡単に酔ったりしねぇよ。小僧と姫じゃねぇんだから」
「あははっ確かにそうかも」


黒鋼くんが酔った所なんて見たことないもんなぁ。
どれだけ飲んでたとしても、意識はハッキリしてるし、ふらついたりもしない。顔も赤くならないしねー。

僕も強い方だけど、彼ほどじゃあない。紗羅ノ国では割と平気だったけど。すっごく飲みやすかったしね。
だけど、今日はレースで怪我したりして疲れもあるし、酔うの早いかも。すでに熱いもん。


「レースの時、助けてくれてありがとね」
「…いや」
「黒鋼くんがいなかったら、僕は今頃生きてないかもしれない。本当にありがとう」
「死にてぇと、思わなくなったんだな」
「元々、ただ単に死にたいって思ってたわけじゃないんだよ?理由は―――ちゃんとある」
「それでも、生きていくことを否定しなくなっただろう」
「あー…うん。そうだね、少しだけ…前向きかも」
「笑うようになったしな、お前」


そう言って頭をわしゃわしゃと撫でられた。少し乱暴だけど、でも温かくてくすぐったい。それが心地良くて。
その反面、やっぱり恥ずかしい気持ちも消えないから、誤魔化すように持ってきていた料理を口に運ぶ。


「お前って、んとに美味そうに食うよな」
「本当に美味しいもの。黒鋼くんも食べる?」
「あぁ、もらう」
「…あ、フォーク1本しかないや…待ってて。今もらってくるね」
「…別にそのままでいい」

―――グイッ…

「へ?ちょっ…」


フォークを握っていた方の手を引っ張られて、そのままパクッと…食べたよ、この人。


「〜〜〜〜〜…っ!」
「確かに美味いな」
「う、うん…」


…この人、素なのかな?これ。
とてつもなく恥ずかしいんだけど、でも何だか満たされたような気がして。
色んなことが起きた1日だったけれど、夜は静かに更けていった―――――
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