02


 side:黒鋼


こっちの世界の知世と話した後、しばらくは緋月と飲んでたんだが、半刻もしないうちに酔っ払いやがった。
今思えば、普段より飲むペースは早いわ、飲む量も多いわで…そりゃあ酔うだろうな。
途中で気がついてやれば良かったんだろうが、ただ静かに酒を飲んでいるこの空間がどうにも居心地が良くて。
俺もいつものペース以上で酒を飲んでいたような気もする。

…まぁ、コイツは元々酒に弱いわけじゃねぇ。
小僧や姫のように変な酔い方もしねぇから、その点での心配はねぇんだが…怪我人だっつーのを、すっかり忘れていた。


「ふわあ〜…何かグルグルしてるー…」
「だぁから飲みすぎだっつっただろうが」
「だって美味しかったんだもんー…だいじょーぶ。気分は悪くないからー、むしろ良い気分ー」
「体は?痛まねぇか?」
「今の所は大丈夫みたいー」


ホッと、した。
腕や足、背中の火傷と頭の切り傷。どれも軽いもんじゃねぇ。普通なら動けないくらいの怪我だろう。
医者に見せる前は、ぐったりと意識を失ってたわけだし。…それが少し眠っただけで、いつものコイツに戻っていた。
時折、きつそうな表情は見せていたが…比較的、元気そうに見えていて。

だから逆に、それが怖かった。全てを自分の中に押し込んで、痛みや辛ささえ飲み込んでしまっているような気がしたから。
本当に元気ならば、それはそれでいい。むしろ、それは喜ぶべき所だろうしな?…特にアイツらは。


「黒鋼くん?どしたのー…難しい顔してるよー?」
「…何も、隠してねぇか」
「?」
「痛みとか辛さとか…そういうもんを」


つい口から出てしまった言葉。マズイと思った時にはもう手遅れで、撤回が利かない状態だった。
アイツは一瞬、きょとんとした表情を浮かべてはいたが、すぐにへにゃりと笑った。
前のように仮面を被っていた頃の笑みとは、少し違う。本当に楽しそうな笑み。
昼間にへらいのが言っていた通り、明るくなった。楽しそうに、笑うようになったんだ。


「心配してくれてんの〜?大丈夫、大丈夫。なぁんにも隠してないから」
「…そうか」
「皆、本気で心配してくれてるんだなぁっていうのがわかったからね…痛かったり、辛かったりするの…隠しちゃダメなんだって思ったの。その方が余計に心配させちゃうみたいだから。特に、姫さんは」


そう言って、今度は穏やかに微笑んだ。常に笑ってるヤツだったが、こんな笑みは初めて見たような気がする。
少しだけ目を伏せて微笑む緋月を、初めて綺麗だと思った。綺麗で、けどどこか儚げで…このまま消えてしまうんじゃないかって錯覚。

そう思った瞬間、アイツを引き寄せて力の限り、抱き締めた。此処に確かにいると、体で感じたくて。


「……っ」
「黒鋼くん…?どしたの?」
「生きて、るな…本当に」
「…うん、生きてるよ。ちゃんと此処にいるよ?」


コイツのドラゴンフライが爆発した時、コイツが…死んだのかもしれないと思った時。心臓が、止まるかと思った。情けないが。
だから水ん中で緋月の姿を見つけた時、そして目を開けた時は…本当にホッとした。怪我はひどかったが、それでも生きていた。…生きようとしていた。


「ね、今日はこのまま眠らせて?…安心、するの。キミの体温」
「……おう」


少しだけ抱き締める力を強めると、くすぐったそうに笑ったと思ったらすぐに寝息を立て始めた。
…疲れたのか、はたまた酔いが廻ったのかはわからねぇが…寝つきの良い奴だな。

とりあえず、このまま外で寝かせるわけにもいかねぇか。中に運んでやらねぇと。
横抱きにして持ち上げても、少し身じろいだだけで気持ち良さそうに眠ってやがる。よっぽど眠かったんだろうな。
安心したように眠るその表情に、口元が緩むのがわかった。


「今度は、俺がお前を……緋月を護ってやる」


もう二度と―――こんな目には合わせねぇ。
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