絡繰り世界


侑子さんから秘術を破るモノをもらって、僕とファイくんと黒鋼くんもこの世界の服に着替えた。あの個性的な服装じゃ悪目立ちするから。
黒鋼くんが着てるのは、黒を基調とした動きやすそうなもの。額には紐?布?…とりあえず、そんなような物を巻いてる。ファイくんが着てるのは、白が基調の少し長めの上着に、黒いズボン。僕が着てるのは、春香ちゃんが着てたのと作りが似てるかな?色は淡い紅。…うん、これならまだ動きやすそう。


「いやだ!!」
「……何事?」
「あのガキが一緒に行くって聞かねぇんだよ」
「ふぅん…」
「私も領主の所へ行く!」
「領主の城には秘術が施してあるしね、危険だよー」
「承知の上だ!一緒に行く!!」
「んー、困ったなぁ」


そう言いながら、チラリと黒鋼くんを見るファイくんとモコ。同時にふいっと2人から視線を外す黒鋼くん。


「俺ぁ、ガキの説得はできねぇからな」
「照れ屋さんだからー?」
「テレ屋さんー」
「なーんで2人してわざわざ地雷を踏みに行くのかな…黒鋼くん、落ち着いてねー」


びきっと眉間にシワを寄せて、青筋を浮かべた彼の背中をポンポンと叩く。ここで怒って無駄な体力使うのはもったいない。…有り余ってそうだから平気だとは思うけど、この人の場合。


「行って領主を倒す!母さんのカタキをとるんだ!!絶対一緒に行くからな!いいだろ!?小狼!!」


小狼くんの腕を掴み、薄っすらと涙を浮かべた必死の懇願。
彼女にとって領主は母親を奪った憎き『敵』。どんなに危険だとしても、自分の手でアイツに制裁を加えたい。そうじゃないと気が済まないのだろう。…春香ちゃんの気持ちもわからないではないけれど。けれど、こんな小さな子が背負うには重過ぎる。


「だめです。此処でサクラ姫と待っていて下さい」


スルッと彼女の手を外し、前だけを見据えきつく突き放した。そのまま領主の城へと歩き始めた3人を僕も追いかける。
チラリと振り返ってみれば、地面に膝をつき項垂れる春香ちゃんを優しく抱き締めている姫さんの姿が見えた。きっと彼女なら小狼くんの気持ちを汲んでいてくれてるだろうね。
…黒鋼くんとファイくんも同じでしょ。そして―――僕も。


「ちゃんと言ってあげれば良かったのに…春香ちゃんを連れて行かないのは、これ以上迷惑かけないためだって」
「オレ達みたいな余所者泊めて、一緒にいる所も見られてる。その上、連れ立って城に乗り込んだら領主を倒せなかった時、彼女がどんな目に遭うかわからないもんね」
「…でもま、姫さんが説明してくれてるかな」
「とにかく、その領主とやらをやっちまやぁいいんだろ」
「で。サクラちゃんの羽根が本当に領主の手元にあれば…」
「取り戻します」


小狼くんの瞳が鋭く光る。大切な人の全てを取り戻すために。
ふっと、澄んだ青空を見上げる。安全な場所から見下ろしてる領主へ、宣戦布告だ。


「アンタの全てはマヤカシだ。…夢は醒めるモノだからね」
「緋月ー?」
「置いて行っちゃうよー」
「はいはーい。今行くよー」


いざ、決戦の場所へ。





「うーわぁー、でっかーい」


しばらく歩いた先に見えたでっかい城。外観も、門も、何て言うか何もかもでかいって感じです。春香ちゃんが城に秘術を施してるって言ってたけど、確かに強い力によって護られてるな。


「此処だよね」
「さっさと入ろうぜ」

―――ギギ……ッ

「黒鋼くん、そのまま開けても…」


僕の言葉を聞いてないのか、そのまま門を開けきった黒鋼くん。
当然、その先に広がっていたのは―――


「ああ?!」
「ふしぎふしぎー!」


真っ白な雲と、その上に広がる町並み。逆転してるんだねー。


「だからこの城は秘術で守られてるんだって」
「せっかちだよねぇ、キミ」
「うるせー!」
「この門だけじゃないよ。他の入り口も全部こんな感じでしょー」


まぁ、そうだろうね。全体的に強い力で覆われてる感じだし。そこで侑子さんがくれたモノの出番ってわけだね。小狼くんが懐から出したいかにも怪しい色をした丸い物体。これで秘術を破れるって言ってたけど…。


「何かドロだんごみたいだな。どうやって使うんだよ、それ」
「投げてー!びゅ〜んって!」
「「え?」」
「投げるって…この門に向かって?」
「ううん。出来るだけ遠くへ投げて!あの城に届くくらい!」
「ああ?!」


あの城に届くくらいって…結構、距離あると思うんだけど。そんなに遠くまで投げられるもんなのかなー?
考えてたら、モコと小狼くんが何やら相談中。んんー?何を話してるんだろ。

…ポ―――――ン

話が終わったらしく、おもむろに怪しげな物体を上に投げた彼。どうするのかとそのまま見ていれば、力強い蹴りが物体をすごい勢いで高く、遠くに飛ばしていく。

―――ベシャッ バリバリバリッ

耳障りな音が響き、フッと強い力が消えた。成程…あの怪しげな物体が結界を破ったのか。さっすが侑子さんのくれたモノだ。
もう一度、門を開けてみれば今度は普通の景色が広がっている。


「まずは第一関門突破。だけど…この先も面倒そうだなぁ」


中に入れば、また感じ始める強い力。城の周りだけでなく、城の中も秘術で護ってるんだな…町の人達に倒されないために。
回廊を黙々と歩いてみるけれど、行けども行けども景色は変わらない。あー…さすがに嫌気が差してくるよ。それは黒鋼くんも同じだったみたいで、イライラしている声音が耳に届く。


「中に入ったはいいが、いつまで続いてんだよ、この回廊はよ」
「ずっと歩きっぱなしだしね」
「真面目に歩いてるんだけど、何処にも着かないねぇ。扉もないし」
「黒鋼だらしなーい」
「おめぇはずっと頭の上で歩いてねぇだろ!!」


いつものじゃれ合いを始めた2人は放っておいて、と。どうしよっかなーなんて考えていると、床の一点を見つめている小狼くん。何をしてるんだろ?床とお見合い?


「小狼くん?どうしたの、気分でも悪くなった?」
「いえ…元の場所に戻ってるな、と」
「ん?」
「確かに似たような場所だが、引き返しちゃいねぇぞ」
「ずっと一本道ではあったよね」
「この回廊の入り口近くに落としておいたんです」


その手にあったのは、黒い石。昨日春香ちゃんの家で、僕達が遊んでいた物だ。準備がいいし、頭の回転も早い子だなぁ。小狼くんって。その行動を見てファイくんが「「ひゅー」小狼くんすごいー」って言ってるけど…口笛、吹けてない。吹けないなら、口で言うくらいなら、やめればいいのになー。


「ったく、あれだけ歩いてムダ足かよ」
「んー、これ以上歩くのヤだねぇ」
「しんどくなっちゃうねー」
「だからお前は全然歩いてねぇだろ!」
「……此処……」
「何かありましたか?」
「あったって言うか、この向こう側…強い力を感じる。羽根があるのかはわからないけど…確実に"何か"ある」


この手の魔法は一番魔力が強い場所に術の元があるもの。だから、この壁の向こう側。少なくともこの回廊にかけられてる術の元は、此処にあると思う。


「…うん、確かに強い力は感じるかもー。ささ、黒鋼っちストレス発散にぶっ壊して!」
「え、素手で?結構、分厚い感じがしますけど…」
「…楽勝だろ」


―――ドゴッ!!!
―――ガラガラガラ…

すっご…本当に素手で壁をぶち壊しちゃった…。何て力してんのよ、この人…ってか、手は痛くならないのか?もんのすごい音してたのに。


「あたりー!」


崩れた壁の破片の砂埃が徐々に晴れていく。殺風景の部屋の一番奥に、その"何か"がいた。
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