03


頬に当たる暖かい光。体を包み込まれてる、優しい感覚。
それに幸せを感じながら、僕は重い瞼を開けた。


「んん〜…もう朝…?」


ゴシゴシと目を擦ると、ぼんやりとしていた視界が少しずつクリアになっていく。
頭はまだボーッとしてるけどね…きっとお酒が残ってるんだなぁ。
さすがに昨日は飲みすぎてしまった自覚がある。…だけど、二日酔いにはなってないみたいだしーいっかな。

ツイ、と視線を上に上げてみれば。僕の瞳に映ったのは、眉間にシワを寄せて、腕を組んだまま眠っている黒鋼くん。

えっとー…顔を見上げることが出来るってことは、今の僕の状態って…膝枕されてるのかな?
…昨日の記憶を呼び覚ましてみても、外で意識を飛ばしてしまった所までしか覚えていない。だけど、此処は外じゃなくトレーラーの中みたいだし。
するってーと、僕が眠ってしまった後に黒鋼くんが中まで運んでくれて、膝枕をしてくれたってことに…なるんですよね?
あ、しかも暖かいと思ったら、ちゃんとタオルケットまでかけてくれてるし。
うーわー…!!!何か急に顔が熱くなってきた。


「(この状態はすっっっごく!恥ずかしいけど…心地いいなぁ…)」


くるっと向きを変えて、黒鋼くんの腰にギュッと抱きついてみた。
心臓は有り得ないくらいドキドキしてるし、顔は火が出そうなくらいに熱いけど…でもやっぱり、この人の体温は安心する。

お願い。まだ起きないで。もう少しだけ…この柔らかな幸せに浸らせて。
願うようにもう一度目を閉じたら、優しく頭を撫でられた。
誰、だなんて思わない。こんな風に僕の頭を撫でてくれるのは…キミしかいないから。


「どうした。嫌な夢でも見たか?」
「ううん…落ち着くなぁって思って。ごめんね、起こしちゃった?」
「いや、問題ねぇよ」


抱きついたことで目を覚ましてしまったのなら、申し訳ない。けど、黒鋼くんは優しい笑みを浮かべてそう言ってくれた。…本当に、優しい。
その優しさにフッと笑みが零れて。髪を梳かれる心地良さに、胸がきゅうっと締め付けられて。
あぁ…僕は本当にこの人が好きだと思った。どうしようもないくらいに好きで、好きで…仕方ないと。
日に日に募っていく想いを、溢れ出しそうになる想いを…言葉にしてしまいそう。
腰に回していた腕に、ギュッと力がこもる。


「あの、黒鋼くん…僕…」
「…緋月?」
「きゃーーーー!!」
「っ?!!」
「ひ…姫さんの声…?」
「だな。…恐らく、目が覚めてあの惨状を見たんだろう」
「惨状って、何?」
「リビングに行きゃわかる。…起きれるか?」
「うん。大丈夫」


うーん、と伸びをして起き上がる。まだ痛みはあるけど、昨日よりは大分いいかも…怪我の具合。

それにしても…僕、さっき何を言いかけた?
彼に―――好きだ、と…言いそうになった。どうしようもなく幸せだと思って、彼が本当に好きだと思って。

告げることで、この先どうなるかだなんて…考えなかった。
どうなってもいいとさえ、思ってしまった。そんなことをしてしまったら―――全てを失ってしまうのに。


「そういや、今何か言いかけてたよな?何だ?」
「え?あ……ひ、姫さんの声聞いたらど忘れしちゃったみたい!思い出したら…言うよ」
「そうか」


良かった…あまり深く聞かれなくて。突っ込んで聞かれてしまったらきっと、今度こそ告げてしまうから。この想いの丈を。
大丈夫。まだ隠し通せる。まだ…偽ることが出来るから。自分の心を。
一度だけ深呼吸をして、先にリビングへと行ってしまった黒鋼くんを追いかけた。

リビングに足を踏み入れた瞬間、姫さんが思わず叫んでしまった理由がよぉーーーくわかったんだ。


「これはまた…すっごい状況だなぁ」


リビングに広がっていたのは、昨日パーティーに参加してた人達。
どうやら飲み過ぎちゃったみたいで、ほとんどの人が此処で力尽きてるんだよね。…起き抜けに大勢の人が床に倒れてたら、そりゃビックリするわ。
昨日、羽根が戻ってからずっと眠っていた姫さんはパーティーが開かれていたことを知らない。
だから尚更、何でこんな状況になってるのかわからないんだろう。
ファイくんと黒鋼くんが説明をするけど、姫さんはまだ頭に?が浮かんでる。


「さて…何か軽食と飲み物でも作ろうかね。姫さんお腹空いたでしょう?」
「そういえば、昨日はほとんど食べてないかも…」
「じゃあ、しっかり食べようね」
「ありがとう、緋月ちゃん。私もお手伝いしていい?」
「もちろん。飲み物作ってくれる?」
「うん!」


飲み物は姫さんに任せちゃおう。彼女のことだから、きっと気分がスッキリするようなモノを作ってくれるだろうし。
僕は何を作ろうかなぁ。お腹が空いてる姫さんと、二日酔いになってない黒鋼くん・ファイくん・モコは普通に食事できるだろうけど…他の皆は無理だよねぇ。
てか、ご飯食べられる人はいるのだろうか…それが疑問だ。

…あ、野菜を煮込んだスープなら胃にも優しいしイケルかも!
姫さん達にはそれにパンやオムレツを足せばいいし。よし。そうしよう。


「おはようございます。何か作ってらっしゃるんですか?」
「皆、喉渇いてるみたいだから。緋月ちゃんは朝ご飯作ってるんだよね」
「昨日は皆さん、たくさん召し上がりましたものね。…あら、良い香り」
「一応胃に優しそうな野菜のスープにしてみたの。知世ちゃんも食べる?」
「是非!頂きますわ」
「知世ちゃんはお酒強いの?」
「嗜む程度に」


にっこりと笑う知世ちゃん。
…うん。この笑顔から察するに、結構強いんだろうなぁ。黒鋼くんといい勝負出来そう。


「お手伝いしますわ」
「ありがとう。じゃ、それ絞ってくれる?」


飲み物を作りながら、楽しそうに笑う姫さんと知世ちゃん。
2人の笑顔は本当に可愛くて、楽しそうで…見ていてほんわかとする。何か暖かい気持ちになるんだよね。癒されるっていうか。
クスリ、と笑いながらスープの味を確かめていると、いつの間にやらお礼の話をしていた。侑子さんにお礼したい、って言ってたものね。
そのまま2人は内緒話をしていた。何か良い案が知世ちゃんにあるみたいだね。


「(僕は何にしようかなぁ…出来ることなら、知世ちゃんにもお礼がしたいな)」


僕が得意なことってあんまりないんだよね、実は。
得意ってまではいかないけど、料理するのは好きだから何かお菓子でも作ってみようか。モコに侑子さんの好きな物を聞いて。
そしたら知世ちゃんにも一緒にお礼として渡せるもんね。…何だか、ついでみたいで申し訳ないけど。
だけど、気持ちだけは精一杯込めるから。


「出来たっ!」
「こっちも出来た。飲み物は僕が配っておくから、部屋に戻って大丈夫だよ?姫さん」
「え、でも…」
「侑子さんへのお礼、作るんでしょう?でも朝ご飯はしっかりとね。はい、2人分」
「まぁ!とても美味しそうですわ!」
「緋月ちゃんの作るご飯、すっごく美味しいの!」
「そうなんですか?それは楽しみですわね」
「簡単なものばかりで申し訳ないけどね」


野菜スープとオムレツと焼いたパン。
ささっと作れる簡単なものだけど、それらを見つめる彼女達の瞳はキラキラと輝いてる。…あんまり期待するのは、やめてほしいな〜なんて。

朝ご飯を載せたトレイを持って、パタパタと2階へ上がっていった姫さんと知世ちゃん。
彼女はどんなお礼を作るんだろう?どんなアドバイスを受けたんだろう?
知世ちゃんが一緒に行ったってことは、洋服でも作るのかな。
僕と姫さんの本選用の衣装を作ってくれたのも、彼女だったから。得意みたいだしね、そういうこと。


「出来上がりを楽しみに、って感じかな?」
「あれー?緋月ちゃん1人なの?」
「うん。姫さんと知世ちゃんは、姫さんの部屋にいるよ」
「そういえば、急いで上がっていったねぇ…あ、良い匂い」
「あぁ…野菜スープ作ったの。ファイくん、食べられる?」
「食べるー。そっちの飲み物は?」
「姫さんお手製のドリンク!スッキリするって、作ってくれたんだ。配るの手伝ってくれる?」
「もちろんだよー」


そんなわけで、ファイくんとモコに手伝ってもらって皆に飲み物を配ったんだけどー…いやぁ、お酒の飲み過ぎって怖いね!
ほとんどの人が二日酔いになってるんだもの。この飲み物で少し和らぐといいんだけどさ。
…ま、黒鋼くんに至ってはまだ飲み足りなかったのか、お酒を寄こせと言われたんだけど。
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