静かな国


「クスクス…来たよ、美味しそうなのが」
「クスクス…来たね、美味しそうなのが」
「食べちゃう?」
「食べちゃおう。だって…人形には心も、魂もいらないから」
「身体は消しちゃダメなんだよね」
「身体は消しちゃダメだよ。あの方へのお土産だもん」

「「悪夢を見せてあげよう」」

「クスクス…とびっきりのだね」
「クスクス…うん、とびっきりの」
「ちゃんと思い出さなきゃ、面白くない」
「うん、面白くない」

「「あの方に逆らうから…こうなるんだよ?クスクス…」」



―――――ゾクッ

な、に…?今、背中にとんでもない寒気が…。そして殺気も。
慌てて振り向いてみるけど、後ろには誰もいなかった。
誰かがいた、という気配すら残っていなくて。だけど、気味の悪い感覚がいまだに体に残ってる。


「緋月ちゃん?どうかしたの?」
「何か気になることでもあったー?」
「あ…ううん、何でもないよ。人の気配が少ないなぁって」
「そうですね…まだそんなに遅い時間ではないはずなんですが」
「本当に此処、人が住んでるのかよ?」


ピッフル国を出た後、降り立ったのは『ナイトメア王国』。
ついさっき着いたばかりなんだけど、外に人の姿がないの。まるっきり。
住んでいないってわけではないみたい。気配はするから。

それなりに大きく、栄えた所だとは思う。
たくさんの建物があるし、道もちゃんと舗装されてて…花壇とか、木々もたくさんある。だけど、人の通りは…ない。


「ナイトメア王国……悪夢の、国」








ナイトメア王国…
この国には恐ろしい伝説が残っている。
御伽噺などの類ではない。現に、その伝説に苦しまされているのだ。
国に巣食う、悪魔…通称『魂喰い』。
魂喰いに魅入られた者は、ただの人形へと成り果てる…殺戮を繰り返すだけの人形に。


命が惜しければ、大切な者を失いたくなければ、ナイトメア王国へ立ち寄ることは、勧めない。
そこは悪夢の国。悪夢に、悪魔に魅入られし国。囚われればもう二度と、元の世界へは戻れない。


―――アリアス=ディオール著
『charm enters to the nightmare』より抜粋
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