02
―――ガチャッ
「あ、緋月さん!帰ってたんですね」
「うん。おかえりー小狼くん、姫さん」
「ただいま、緋月ちゃん」
「ただいま帰りました。…黒鋼さんとファイさんとモコナは、まだですか?」
「みたいだよ?僕が一番だったから」
この国に着いてから、僕達は毎日のように町に出向いて羽根について、何か有力な情報はないか聞き回っていた。
聞き回ってって言っても…外にはほとんど人がいないし、お店も開いてないような状態でね。情報なんて得られるような環境じゃないんだ…。
現に僕達は何も情報を得られては、いない。
モコも僕も、羽根の波動を感じ取れなくてこの国にあるのかどうかすら怪しいんだ。
だけど、この国は何かがおかしい。これだけ立派な建物とかがあるのに、人の気配が少ないし…栄えていたであろう証拠はあるのにね。
何かあるんではないかって思うんだけど、いかんせん根拠も情報もない状態だから。かと言って、簡単にこの国を出るわけにもいかない。
だって、もし羽根があったら大変じゃないですか。僕とモコが気がついてないだけってこともあるわけだし。
「緋月ちゃんは何か情報は得られた?」
「まーったくダメ!何処の家も、お店も…出てきてくれる気配がなくってさぁ。はい、お茶どーぞ」
「ありがとうございます。おれ達の方も緋月さんと全く同じで…」
「ありがとう。…中に人の気配はあったけど、何かに怯えてるみたいに出てきてくれないの」
「この国全体が、何かを恐れてるような気がするんだよねぇー…変な感じなんだ、空気が」
まだ戻ってきていない黒鋼くんとファイくんとモコは、何か得られたのかなぁ?毎日頑張ってるのに、情報がゼロじゃあどうしようもない。
本とかでもいいからさ、1つでも情報が欲しい所だよね。羽根に関してだけじゃなく、この国についても。
何もわからない、何も出来ないこの状況が…どうしようもなく腹立たしい。
溜息を1つついて、お茶を啜っていた時。扉が開く音がした。
どうやら黒鋼くん達が帰ってきたみたいだね。
「小狼達、帰って来てるー!ただいまー!」
「おかえりなさい。モコちゃん、ファイさん、黒鋼さん」
「おう」
「たっだいまー」
「…ファイくん、何だか明るいね?情報得られたの?」
「うん、ようやくねぇ。っていっても、少しなんだけど。ねー?黒りん」
「ああ。妙な話を聞くことが出来た」
「妙な話、ですか?」
「よく聞くことできたね……とりあえず、おやつ食べながらにしよっか。良い頃合だし」
「おっやつー!」
2人と1匹も歩き回って疲れてるだろうし。(…モコはきっと、黒鋼くんの肩に乗っかってたんだろうけど)
話自体も長くなるだろうから、お茶とお菓子の用意をすることにした。
早めに戻ってきてた僕は、ファイくんの代わりにお菓子を作っておいたのです。
甘い物が苦手な黒鋼くんでも食べられるように、甘さ控えめのクッキー。前に一度だけ作った時、自分から食べてたからこれなら食べられるのかなって思って。
まぁ、黒鋼くんは「甘い」って文句言いながらも、出された物はちゃんと食べてくれるんだけれど。
それでもさ?やっぱり、苦手な物を無理矢理食べさせたくはないから。
「そっちの盆、貸せ。運ぶんだろ?」
「あ、うん。ありがとー」
「……これ」
「クッキーだよ。前に作った甘さ控えめのヤツ」
―――スッ
「味見、してみる?」
クッキーを1枚つまんで、彼の口元に出してみる。
…食べてくれるかな?
「…お前なぁ……」
「へ?何?…あっやっぱりイヤだった?!」
「そうじゃねぇが……あー、もういい。何でもねぇよ」
呆れたように溜息をついて、パクッとクッキーを食べてくれた。
前と同じ分量で作ったから甘くないはずなんだけど…やっぱり、反応は気になってしまうわけで。
チラリ、と表情を盗み見ると…眉間にシワは、寄ってない。ってことは、甘くないって解釈していいんだよね?
多分、まずくもないんだと……思いたいな。
「食べられる?」
「あぁ」
「本当?!良かったぁ〜…」
「(ピッフル国では真っ赤になってやがったくせに…コイツは時々、本当に読めない)」
「(本っっっ当に、無意識にいちゃつくよねー黒様と緋月ちゃんって。さっさとくっついちゃえばいいのに…)」
クッキーが黒鋼くんの口に合ったことが嬉しくて、小狼くんと姫さんが顔を真っ赤にしてこっちを見てたことに、僕は気付きませんでした。
クッキーと、黒鋼くんとファイくんの分の紅茶を用意して、僕も元々座っていた席に腰を下ろす。
2人が紅茶を飲んで一息ついた頃、本題に入ることにした。
奇妙な話、っていうのは何だか嫌な予感がするけど…でもようやく得られた情報だしね。少しだけ…この国について知ることが出来そうだし。
「結論から言うと、この国にサクラちゃんの羽根があるかどうかはわからないかなぁ」
「モコナ、この国で羽根の気配感じてない。緋月もだよね?」
「うん。何も感じ取れない…でも、ないとは断言出来ないよ」
「俺達が聞いた奇妙な話ってのは、この国に巣食う悪魔の話だ」
「あくま……?」
「御伽噺によく出てくる、あの…?」
「多分そうだと思うよー。本当にいるのかどうかはわからないけど、此処では伝説として語り継がれてるみたい」
確かに奇妙な話だよね。悪魔だなんて、空想の世界にしか存在していないモノだし。
だけど、それを僕達にそれを聞かせるってことは…何かしら、関係性があったってことだよね?
更に詳しく聞いてみると、この国には昔から言い伝えがあるんだそう。
悪魔に魅入られると魂を喰われ、殺戮人形に成り果てるという不気味な言い伝え。
そうなりたくなければ―――森の奥深くにある、塔には近づくな
その塔が伝説の悪魔が棲みついていると、昔から言われているんだって。だから、近づいてはいけないってことみたいね。
「詳しくはこの本に書かれてるらしい。勝手に読め、と渡された」
「うわ…ずいぶんと年期の入った本だねぇ」
「…すごい…」
「ま、とりあえず読んでみようか」
黒鋼くんから受け取った本を、テーブルの真ん中で広げ文字を追っていく。
読めるかどうかわからなかったけど、小狼くんが理解できたみたいで内容をかいつまんで説明してくれた。僕も何とか読めたし。
書かれているのは、黒鋼くん達が聞いたこととほぼ同じ内容みたい。ここナイトメア王国は悪魔に魅入られた国で、悪魔に喰われた者は二度と帰ってこないとか。
でも1つだけ…気になることがあった。僕もモコも感知出来ていないのに、その悪魔が羽根らしきものを持っている絵が…描いてあったの。
ガラスのような球体に覆われた、姫さんの羽根。
色は真っ黒だったけれど、その形と模様は間違いなく…彼女の記憶の羽根だ。
「わたしの…羽根、なのかな?」
「恐らく、間違いはないでしょうけど…それなら何で、波動を感知出来ないんだろう」
「この球体で…覆われているからじゃないかなぁ?」
「ああ?どういうことだよ」
「サクラちゃんの羽根ってすごい大きな力を発してるでしょー?だから、モコナや緋月ちゃんのような感知出来る人にバレたくないから、それを隠す為に」
「そうか…この球体でそれを遮断しているんですね」
「じゃあ、この絵って―――」
「伝説や御伽噺じゃなく、本当のこと…史実だってことになるね」
この悪魔も実在してるってこと?魂を喰われた人間は、本当に殺戮人形になるってこと?
それが本当だとすれば、町の人達が何かに怯えて外に出てこない理由も納得出来るけれど。
だけど―――現実離れしすぎてやしないか?次元移動している僕達が言える言葉ではないことは、ちゃんと理解してるけどさ。
「この本の全てが真実だとは言えませんが、調べてみる必要はありますね」
「あ、あともう1つ。今ねーこの国で奇妙な病が流行してるんだって」
「病気?」
「うん。伝染病とかではないらしいんだけど…急に高熱が出て、体に蔓のような紋様が浮かび上がるらしいよー?でも原因は不明で、治療法も見つかってないらしい」
「おまけにそれに罹った奴らの行方が不明になってるそうだ」
「いなくなっているって、ことですか?」
「そんな……」
「そっか…だから、人の気配が少ないのね。どんどんいなくなってるから」
伝染病ではないのに、広まっていっている奇妙な病。
ナイトメア王国に巣食う、伝説の悪魔。…そして、真っ黒に染まった姫さんの羽根の絵。
何だかとても嫌な予感がする。今までに感じたことのないような、不気味な感覚。
とんでもないことが僕達の身に起きる予感がするんだ。
もちろん、僕の杞憂で済めばいいって思っているけれど。…でもこういう時の僕の嫌な予感って、ほとんど外れないんだよね。今までもそうだったけど。
この国に着いた時に感じた寒気と、殺気と、子供のような甲高い声も…何か関係があるのだろうか。
「(一気に物事を考えすぎたかな…頭、痛くなってきちゃった)」
「…どうした?」
「んーん、何でもない。ちょっと疲れちゃったかなぁ」
「お前は頑張り過ぎだ、あの小僧や姫と一緒で。少しは休め」
「そう、だね…お言葉に甘えて、今日はもう休むよ」
イスから立ち上がった時、ほんの一瞬だけ視界が揺れた。
よろけたり、倒れたりはしなかったけど…何だかクラクラするし、体が熱いような気もする。
こんな時に…体調崩したのかなぁ?僕。ま、少し休めば良くなるでしょ。このくらいの不調なら。
皆におやすみ、と告げて、僕は早々に部屋へと戻った。
この時に、気がつくべきだったんだ。
もし気がついていたならば、あんなことにはならなかったのに。