02


 side:黒鋼


緋月の様子を見に行こうと、へらいのと一緒にアイツの部屋に向かった。
まだ真っ赤な顔をして、苦しそうに息をしながら眠っているのだろうか。…いまだにあの紫色の瞳は、開かれることがない。


「もう4日だよね…あの子が倒れて。あれっきり悪化はしてないけど、良くもならない。小康状態を保ってるだけだ」
「けど、治療法が見つからねぇ。ってか、情報が皆無ってのがいけ好かねぇな」
「隠してるわけじゃない、とは思うけどね。本当に知らないんでしょう…文献にも載ってないくらいだしー?」
「このままだと緋月、どうなっちゃうの?死んじゃうの?」
「んな簡単に死なせてたまるかよ」
「黒りーの言う通りだよ、モコナ。まだ諦めちゃダメだ」

「緋月さんっ!聞こえますか?!」
「しっかりして、緋月ちゃんっ!!!」

「小狼とサクラの声?」
「まさか…容態が悪化したのか?!」
「…っくそ!」


ああ、くそっ!階段を上るのすら、厭わしい。
一段飛ばしで駆け上って、急いで緋月の元へと向かう。
小僧と姫の声はいやに焦ってた。
アイツに何かあったのは確かだってことだ…焦りと恐怖だけが、俺を飲み込んでゆく。

―――バァンッ!

乱暴に開け放った扉の先に見えた光景は、想像していたものより深刻で。
必死に呼びかける小僧の姿。泣きながらその様子を見つめる姫の姿。
そして―――シーツを破れる程にきつく掴んで、何かに耐えている緋月の姿。
唇を噛み締めているんだろう。口の端からは一筋の血が流れ、シーツを赤く染めていた。


「おいっ何があった?!」
「わ、わからないんです…っ急に緋月ちゃんが苦しみ始めて!小狼くんが呼びかけても、反応が返ってこなくて!」
「サクラちゃんっ小狼くん!一体、何が……っ緋月ちゃん?!」
「緋月っ!!!どうしよう…緋月が苦しそうだよっ?!!」
「……?!」


少し前までは、まだ服に隠れていた蔓の模様が…首から頬までに広がってやがる。…てか、微かにだがこの模様…動いてやしねぇか?
じっと見てみれば、確かにその蔓は少しずつ、少しずつ伸びているように見えた。その度に緋月の口から、悲鳴が上がる。
…どうやら、この模様が広がっていく度にコイツの体に激痛が走ってるみてぇだな。


「…へらいの。小僧と姫、あと白まんじゅうを部屋の外に連れて行け。あまり―――見ねぇ方がいい」
「わかった。…さ、2人とも」
「…姫?歩けますか?」
「うん…」


小僧が姫を連れて出て行った後、へらいのはそのままそこに立っていた。
扉だけは、きっちりと閉めて。白まんじゅうもあの2人に託したみてぇだ、肩にも頭にも乗ってねぇから。


「っああ……っ!!!く…っ」
「唇を噛むな、んな力で噛んだら引きちぎれんだろうが」


シーツを握り締めていた手が、傍に寄った俺の腕を掴む。
爪がギリッと食い込むが、気にしてる場合じゃねぇ。…痛みに耐えているコイツは、何かを掴んでいないと意識が飛んでしまうんだろう。だから、唇も噛み締めているんだろうからな。俺の腕が役に立つんなら、いくらでもくれてやるさ。

―――けど、このままじゃ舌を噛んでしまう恐れがあるし、ずっと唇を噛み締めているのも良くない。

あとで緋月は気にするかもしれねぇが…今は緊急事態だ。そんなことを考えている暇はねぇ。
顎に手を掛けて、唇を噛み締めている口を無理矢理にこじ開けた。


「?!黒様、一体何する気!」
「こうするんだよ…っ」

―――ガリッ…!!!

「く……!」


こじ開けた口に腕を滑り込ませれば、また痛みが襲ってきたのかソレを噛んだ。
なんつー力で噛んでやがんだ、コイツは…!すでに血が滲み始めてやがる。
無理矢理にねじ込んで正解だったかもしれねぇ。この力じゃ唇どころか、舌を噛み切る可能性があっただろう。

そのままの状態で半刻程、いた気がする。
フッと緋月の体から力が抜け、ベッドに沈み込んだ。


「ひとまず…落ち着いた?」
「あぁ、恐らくな。今は眠ってるみてぇだ」


汗ではりついた前髪をどかしてやれば、微かに身じろぐ。…まだ熱はかなり高い。
眉間にはシワを寄せ、呼吸も正常だとは言えない。いまだ苦しそうに見える。

蔓の模様は―――左頬にまで広がり始めていた。


「模様が…どんどん広がっていってるな」
「彼女が苦しそうにしてたのは、それのせいだろうね…きっと」
「だろうな。どうやら、これが広がる時に激痛が走るらしい」
「だから君の腕を血が滲むほど噛んだり、爪を立てたりしてたんだね…」


服の袖を捲ってみれば、そこにも模様は広がっていて。全身に広がるまで、もう一刻の猶予もねぇ。
手遅れになる前に治療法を見つけねぇと、緋月を失うことになっちまう。
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