02


森の奥へ、奥へと、5つの影が進んでいく。

そこは誰も近づかない"魔の森"―――

一度、足を踏み入れてしまえば…彼らに魅入られてしまうから。魂を糧に生きる、"魂喰い"の双子の悪魔に。


「おい、緋月!大丈夫か?!」
「へい、き……次の角、右に行って?そうすれば…真っ白で、天に届きそうなくらいに高い塔が見えるはず…」
「真っ白な塔…それが緋月ちゃんが夢で見たっていう?」
「そう、だよ……うん…合ってるみたい。空気がどんどん、澱んでく…」
「モコナも感じる!何か気持ち悪い気配だよ…」


僕達は今、森の奥へと足を進めている最中で。どんどん奥へ進めば進むほど、体が重くなる。気分が悪くなる。息が…苦しくなる。
黒鋼くんはそんな僕を気遣ってくれているのか、なるべく体に響かないようにしてくれてるみたい。
まぁ、走ってしまってるから…多少は響くんだけどね。背負われてるわけですし。

だけど―――それもだんだん感じなくなる程、僕の体は感覚を失っている。
家を出た頃よりも体が動かしづらくなってるし、これは本当に時間がないみたいだ。


―――ザッ

「あ……!」
「真っ白な、高い塔……緋月ちゃんが言っていたのは間違いなくコレ、だね」
「…此処にわたしの羽根が」
「俺ぁ羽の気配とやらはわからねぇが…とんでもねぇ殺気があるのはわかるぞ」
「これは今までにないくらい、大変なことになりそうだねぇ?」
「それでも―――行きます、羽根を取り戻しに。そして緋月さんを助ける為に」
「しゃおら…く…」


彼の言葉に、僅かに目を見開いた。
それが嬉しくて、嬉しくて…視界が滲んでいく。涙を見られたくなくて、重い頭を黒鋼くんの肩に押し付ける。

あぁ、きっと黒鋼くんは僕の変化に気が付いているんだろうな。とても聡いから。
その証拠にほら。僕の頭を温かくて大きな手が、優しく撫ぜる。
こんな風に優しくするから、また泣きたくなるんだというのに。

―――ギイィィ……ッ

重厚な扉が嫌な音を立てて、小狼くんとファイくんの手によって開かれた。
中は真っ暗で、何も見えない。明かりもないようだし。
…でも進む方向はわかる。感じるんだ、殺気も…どす黒い波動も。


「さってとー…緋月ちゃん、方向わかる?」
「わ、かるよ…黒鋼くんも…わかる、でしょ…?」
「あぁ、殺気がだだ漏れだからな」
「「…上から」」
「だけど、明かりがないからよく見えない…」
「何か火を点けられるものがあればいいんですが、生憎何も持っていなくて。…どうしましょう?」
「小狼くん…足元の枝、取ってくれる……?」
「あ、はい」


すぐに燃え尽きてしまうかもしれないけど、何もないよりはマシ…もしかしたら、中に燭台があるかもしれないしね。
小狼くんが拾ってくれた枝に、そっと手をかざす。
意識を集中すれば、髪と瞳が変化する。…そう、血の色に。


「モード、攻撃。…"ファイア"」


ボウッと炎が灯り、周りを僅かに照らす。そこに映し出されたのは、何処までも続く不気味なほどな 白 だった。
何も装飾がなく、誰かが住んでいた形跡も、荒らされた様子もない。
でも誰もいない様子なのにも関わらず、何処も朽ちていないんだ。まるで時間が止まっているかのように、綺麗なまま。
この状態が元々のものなのか、僕達には判断が出来ないけど…それでも、この状態には違和感が残る。


「あ、枝のままじゃ燃え尽きちゃうか…蝋燭とか、ないかなぁ」
「えっと……あ、あそこに燭台?みたいなのが見えます」
「じゃあ、それに火を移そうか。このままじゃ熱いだろうしねー」


ファイくんが取ってきた、金の燭台。
それに火を移せば、さっきよりも見える範囲が広がって。大体の室内の様子がわかり始めた。

奥に見えたのは、上の階へと続く螺旋階段。
広がるのは漆黒の闇。

ボーッとしている頭でも、先の見えない闇に恐怖を覚えた。
殺気やら、どす黒い波動やらを感じるのも1つの要因なんだと思うけど。


「行きましょう。…姫、暗いので手を」
「うん、ありがとう小狼くん」
「大丈夫?緋月ちゃん…背負ってる黒ぴーも」
「俺は何ともねぇ。…コイツは熱がまた上がってやがるな。さっきより熱い」
「あはは……此処、ね…ひどく気分が悪くなるんだ…森に入ってから、ずっと」


だけど、置いていかれるのは嫌だから。僕達は塔の中へと、足を進めた。

―――カツーン…

―――カツーン…

階段を上る靴音以外、音が聞こえない。周りを取り巻く殺気以外、気配を感じない。
不気味なほどに静かで、怖くて、闇ばかりが支配しているこの塔の中。それでも羽根の波動だけは感じることが出来る。
波動も、隠すことなく発せられている殺気も…まるで僕達に居場所を教えているみたい。
つい最近まで、羽根の情報どころか波動を感じることが出来なかったのに。

なのに、僕があの夢を見た日。
本当に突然、羽根の波動をキャッチすることが出来た。どう考えてもさ、何かに導かれているとしか思えないのよね。


―――カツンッ

「此処が一番上、みたいですね…」
「ずいぶん上ってきたように思うけど、この階以外に部屋はないのね」
「確かにそうだねぇ。ずっと階段だけだったし」
「この階にある部屋も3つだけなんだね。扉が3つしかないもん」
「…緋月」
「は…い…?」
「真ん中、だろう?」
「へへ……さっすが黒、鋼くんだ…ビンゴだよ…」


左右の扉から、生きている者の気配・殺気・羽根の波動はどれも感じない。感じるのは 真ん中の扉 からだけだ。
つまり―――姫さんの羽根を持っている奴は、その部屋に確実にいるということ。
それがこの国の人間なのか、それとも史実に載っている双子の悪魔なのかは…今はわからないけれど。


「じゃあ、サクラちゃんは緋月ちゃんは此処で待ってて?これ以上先は、本当に危険だと思うから」
「でもっ…羽根を探しているのはわたし自身です!それなのに、皆を危険な目に合わせるなんて―――」
「…姫。おれ達がそうしたいんですよ、2人を危険な目に合わせたくないんです」
「小狼くん…」
「そういうこと。…オレ達を信じて、此処で待っててくれないかな?緋月ちゃんと一緒に」
「……わかり、ました。でも気をつけて!命が危ないと思ったら、迷わず逃げてください!それだけは…約束、して」
「はい。約束しますよ、姫」
「ん。わかったよ、サクラちゃん」
「…んな簡単に死んだりしねぇよ」


それぞれが姫さんと約束をして、黒鋼くんが壁際に寄り掛からせるように下ろしてくれた。
すぐさま隣に姫さんとモコが走り寄ってきてくれて、心配そうに手を握ってくれる。
温かいような気が、するんだけど…感覚だけでは何も感じることが出来なくなっている。握ってくれているのも、目で確認しただけの事実。
強く握られても今の状態ではきっと、わからないと思う。それまでに、感覚がなくなっているということだろうね。


「じゃあ、さっさと済ますか」
「うん。早くサクラちゃんの羽根を取り返して、皆で此処を出よう」
「はい。では姫、モコナ…緋月さんのことをお願いします」
「うん!」
「任されたっ!」

―――クスクス…二手に分かれちゃったら、面白くないよ?

「…え?」
「今のは…」
「何か声、みてぇのが…」
「……っ?!」
「な、何…?」
「声が、聞こえたよっ?」


小狼くん達が扉を開けようとした時、子供の声が辺りに響き渡った。
周りを見渡してみても、誰もいない。気配も感じない。

だけど…確かにはっきりと、声が聞こえたんだ。

ワケのわからない出来事に一瞬、固まっていると…視界がぐにゃりと歪んだ。眩暈がしたのかと思ったんだけど、そうではなかったみたい。
どういう理屈かはわからないけれど…僕達はさっきとは違う場所に移動していた。


「え?え?…わたし達、さっきまで廊下にいたよね…?」
「出入り口が見当たらねぇ…まさか、仕組まれたか」
「その可能性が高いと思います。此処はきっと―――」

「クスクス…さっき、お兄ちゃん達が入ろうとしていた部屋だよ」

「子供…?」

「クスクス…初めまして。ねぇ、お兄ちゃんにお姉ちゃん…僕達とゲームしようよ」
「僕達に勝てたら、コレ…あげちゃうよ?」

「!姫の羽根っ」

「お兄ちゃん達が賭けるのは…」



緋月お姉ちゃんの 命 だよ―――
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