03


小狼くんの伸ばされた手が羽根に届いた時、ゲームは終わりを告げた。
小狼くんの手が、姫さんの羽根をしっかりと掴んだ。
真っ黒だった羽根は、覆っていた球体が壊れたからか―――今までの輝きを取り戻して。禍々しい波動も、なくなっていた。



―――グラッ…

「……っ(そろそろ限界、かな…?)」


再び視界が揺れ始め、徐々に体に力が入らなくなる。…また、動けなくなる。
だけど…姫さんの羽根は取り戻せた。ゲームに勝ったのは、僕達だ。
まだ双子の片割れは残っているけど、お前だけじゃあ…僕達全員の命は奪えやしないだろう?
それに―――最後はキミがきっちりと、決着をつけてくれるだろうから。


「…ね?黒鋼くん―――」
「あたりめぇだろ。…借りは返してやらねぇとな」
「どうしてっ…脆いクセに、弱いクセに!あの方に捨てられたら、お前なんか此処に存在することも出来ないくせにどうして逆らうんだ?!!今存在できているのはあの方がいるからなのに、どうしてそんなに人間らしい顔を―――」

―――ザシュッ!

「ギャーギャーうるせぇんだよ…ちったぁ黙ってろ」


黒鋼くんが放った一閃は、片割れを切り裂いた。さっきの子供と同じように、ヒビが入って…カシャン、と散っていく。
散りながらも…その瞳には僕に対する、憎しみの炎が宿っていた。

大切な片割れを奪われた悲しみ。
あの方に逆らう行動への怒り。

全て僕に向けられた、負の感情。それはどんどん膨らんで、膨らんで…仕舞いには暴走すらしてしまう危険な感情。
だけど、この子供はそれを惜しみなく僕へと向ける。


「許さない…アダムを奪ったこと、あの方に逆らったこと…!!!絶対に許さない!…見せてやる。お前に最上で最悪の悪夢を!最後の力でお前に―――」

―――絶望へと堕ちる悪夢を見せてやるよ


高らかに笑った後、跡形もなく霧散した。
嫌な空気が一瞬にして浄化されたように、綺麗になっていく。息も苦しくないし、気分も悪くない。
さっきまで割れるように痛かった頭も、体も―――何ともない。ただ、まだクラクラしてはいるけれど。

ふと腕や足を見てみれば、全身に広がっていた模様が綺麗に消えていた。
…そっか。あの双子が消えたから、消えたんだ。最初に彼らに勝てば、って言ってたものね。今まで忘れていたけど。


「緋月ちゃん!体中にあった蔓の模様が…っ」
「うん…消えたみたい。痛みもなくなってる」
「良かった。助かったんですね…」
「みたいだねぇ。一時はどうなることかと思ったけど…ね?」
「ごめんね?…あと、ありがとう」


ずっと、ずっと…皆に伝えたかった言葉。

心配かけて"ごめんね"と、心配してくれて"ありがとう"

全てが無事に終わったら、伝えたいと思ってたの。ようやく…言うことが出来たよ。


「全部片付いた。さっさと出るぞ」
「そうしよっかぁー。オレ達、怪我の手当てもしなきゃだし」
「そうですね」
「3人共、血だらけ…痛いー?」
「どうってことねぇ」


真っ赤に染まった、黒鋼くん・ファイくん・小狼くんの服。それを見るとツキン、と胸に痛みが走る。罪悪感がこみ上げてくる。
僕の、せいで…怪我を負わせてしまったから。僕があんなことに巻き込まれなければ、怪我なんてしなくて済んだのに。

グルグルと黒い何かに飲み込まれてゆく感覚。
もう体は痛くないし、倦怠感も、熱さも消えているのに…頭がグラグラと揺れる。
視界がどんどん黒く染まっていく―――





見せてあげるよ、最上で最悪の悪夢。アンタが忘れていた、封印していた…過去の記憶。
クスクス…アンタは耐えられるかなぁ?


意識が完全にブラックアウトする前に聞こえたのは、消滅したはずの…あの双子の無邪気な声だった―――
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