02
「…さっき、日本国って言ってましたよね」
「言ってたね。日本国って、確か黒鋼くんのいた国でしょう?」
「ということは、おれ達は黒鋼さんがいた国に移動したんでしょうか?」
「…そうすると、あの黒鋼くんにそっくりの男性や、あの少年は誰なんだろうね」
黒鋼くんがいた国に移動しているのなら、彼にそっくりな人がいることの説明が出来ない。
顔が同じ人間には会うことがあるらしいし、経験もしたけど…本人がいた国で、顔が同じ人間に会うってーのは考えにくいよね。
…ダメだ。どんなに考えても、全くわからない。
今回の状況は、想像の域を越えてしまっていて思考回路がついていかない。
―――パラ…
小狼くんが本のページを捲った。
すると、目の前に広がったのは何もない原っぱだった。…明らかに場所が変わった。
でも僕達はきっと、移動していない。またページを捲れば、場所がまた変わっている。
「本のページを捲ると…場面が変わる?!」
「まさか、とは思ってたけど―――此処は本の中の世界、なのかもね」
場面が変わった後、目の前に広がった光景はさっきの男性と少年が稽古をしている場面。
刀を手に、父親に教えを請う子供。的を見据える少年のその瞳は、彼によく似ていた。
彼も―――刀を構えた時の瞳は、この少年のようだから(もっと鋭いけどね)。
「なるほど。確かに前見た時よりは、腕はあがってるな」
「これで技教えてくれるよな、父上」
「約束だからな。さて、どれにする?」
「破魔・竜王刃!」
「また難易度の高い技を」
「破魔・龍王陣の方が難しい!」
何だかすごい技名……文字にしないと、どう違うのかがわからないや。どっちも同じ技に聞こえるもの。
そんなことを考えていると、小狼くんがボソリと呟いた。
――――黒鋼さんの技……
どういうことか聞き返そうとした時、男性が技を繰り出した。
少年が今、教えて欲しいと願った『破魔・竜王刃』。地面は割れ、辺りに破片が飛び散る。
…僕と小狼くんには決して、当たらなかったけど。
「黒鋼くん、こんな技使えるの?」
「はい。一度だけ見たことがあって…間違いないです。やっぱり黒鋼さんと同じ技だ」
今のと同じ技を、黒鋼くんも使えるんだ…彼は、やっぱりすごい。
桜都国や夜魔ノ国で戦っている姿を見たことがあるけれど、思っていた通り。その道に長けている人なんだな。
男性の剣技を見て、嬉しそうに腰に抱きつく少年。
うん、確かにすごかった。鍛錬をすれば出来るようになるって言ってるけど…並大抵のことじゃない。
この男性もきっと、人知れず努力して、今の力を手に入れているんだと思う。
そして、男性は少年に問う。「何の為に、力を求めるのか」
ただ強くなりたいが為に、更なる強さを求めるのか…それとも―――――
「…違う。俺は諏訪を、みんなを守りたい。みんなを守る、母上と父上を守りたい」
"自分の為だけの強さ"ではなく、"誰かを守る強さ"が欲しい。
それが…少年が強さを求める理由、なんだね。瞳の奥に秘めた鋭き、決意の光。
この少年はきっと、もっと強くなれる。
誰かを守りたいと思う強さは、その思いは―――何よりも、誰よりも強いから。
…黒鋼くんのあの強さも…誰かを護りたいから、なのかなぁ?
「(彼が護りたいと思うのは―――知世姫、か)」
一瞬、頭をよぎった思い。これは知世姫に対する、嫉妬なんだろう。
忘れたい、のに…もうこれ以上、黒鋼くんのことを想いたくなどないのに。瞳に映る彼にそっくりの男性が…それすら許してくれないようで。
此処にいたら、彼への想いは断ち切ることが出来ない。反対に―――膨らんでいく。
その似すぎている容姿に、瞳に宿る強さに、心地良く響く声に。
「…本の世界だとして、どうして黒鋼さんに似てる人がいたり、黒鋼さんが使ってるのと同じ技を使えたりするんでしょう?」
「詳しいことはわからない。…だけど、推測するに―――」
―――ザッ
その時、上から人の気配がした。突如、降ってきた人物は…「破魔・竜王刃」を繰り出した。
斬撃は僕と小狼くんの間を抜け、僕達の後ろにいた"何か"を切り裂く。
彼の斬撃は、"何か"を一刀両断にしたように見えたけど…まだ甘い。相手は生きてる。
最期の悪あがきとばかりに、自分を傷つけた人物に腕らしきものを伸ばす。お前も道連れだ、と言わんばかりに…ね。
「危ない!」
「……あの少年なら、きっと大丈夫だ」
「え…?」
頬に一筋、傷は負ったけれど…二度目の斬撃で不思議な生き物は絶命した。
一度では倒せなかったけど、確実にこの少年は強くなっていっている。心も、体もさっきより成長しているようだし。
ページを捲ると場面が変わるけど…前のページに行くと過去に遡って、後ろに行くと未来に進むってことなのかしらね。
そういうことならば、少年がどんどん成長していくのも頷けるし。
ある程度、自分の中で納得をして視線を戻せば。
女中である人達に、何か桶のような物を渡している少年の姿が目に入った。少年から母であるあの女性への、お土産みたい。
話を聞いてみれば、どうやらあの女性は最近元気がないようだった。だから、元気になってもらえるように…そう思って、お土産を持って帰ってきたんだね。
…本当に、大好きなんだね。お母様のことが。
ただただ、母の体を心配して、元気になってもらえることを望む少年の表情が―――痛々しくて。
「(僕が最後に奪った命…その人にそっくりの女性と、泣き叫んでいた少年。これがあの時の記憶の人物と、一緒だとすれば)」
女性を待ち受けるのは、理不尽な死――――
少年を待ち受けるのは、深い絶望の闇―――