02
side:小狼
ふと、目が覚めた。重い瞼を開けば、姫の心配そうな顔が視界に飛び込んできて。
「小狼、目開けたよー!」
「大丈夫?気分悪い」
気分は、悪くない。
素直に首を横に振れば、姫の表情が少しだけホッとしたように緩んだけれど。それでもまた心配そうに眉根を寄せている。
…そうだ。緋月さんはどうしたんだろう?
「此処、図書館の中の医務室だよー。係の人に教えてもらって、黒様が運んだんだ。緋月ちゃんも隣のベッドで眠ってる」
つい、と視線をずらせば…ベッドで横になっている緋月さんの姿と、その傍らで壁に寄り掛かっている黒鋼さんの姿が見えた。
その瞬間。先程まで目の当たりにしていた光景が、脳裏に浮かぶ。
あれはきっと、黒鋼さんの過去。大切な記憶。
なのに―――見てしまった。
きちんと、話をしなくてはいけないよな。
黒鋼さんに「話がある」と声をかければ、全てを悟ったのかファイさんが姫とモコナを、外へ出ていようと促してくれた。
…すみません、そしてありがとうございます。
「…すみません」
「何の事だ」
おれは緋月さんと一緒に見たことを、全て話した。
楽しそうな家族
鍛錬をする父子
倒れた母を心配する少年
突然、胸を貫かれた女性
…真っ赤に染まった、幼い少女
全てを失い、狂ってしまった少年
しばしの沈黙の後、黒鋼さんの口が開く。
「…それがあの本を開いて、お前と緋月が見たものか」
「はい……」
「…確かに、それは俺の過去だな」
「…すみませんでした。勝手に黒鋼さんの過去を見てしまって…」
「お前が望んだことでもないだろうが」
それでも…!やっぱり、見てはいけないものだ。
黒鋼さんの記憶は、思い出は―――黒鋼さんだけのものだから。
どんな理由があったとしても、そこに土足で踏み込んではいけなかったのに。踏み散らかしては、いけなかったのに…おれ、は―――
「そうだ。だから―――知っちまったからって、俺の昔の傷をお前が抱え込むことはねぇ。…アイツも、な」
…あぁ、そうか。
黒鋼さんの思い出は黒鋼さんだけのものだから、そこにある痛みも…この人だけのものなんだ。おれが抱えるものでは、ないんだ。
ぶっきらぼうな言葉だけれど、黒鋼さんなりの優しさ。気にするな、と…教えてくれているんだと思う。
あともう1つだけ、確かめておきたいことがある。