蒼の想い。


桜を見に行った帰りに買ったケーキは大好評で、皆喜んでくれたんだ。ゆったりのんびりお茶して、夕飯まで時間あるなーってソファでくつろいでいたらいつの間にか眠ってしまっていたらしい。次に目を覚ました時には、外が暗くなり始めていた。



どれくらい眠ってたんだろ…あ、タオルケットまで。これかけてくれたの、きっとファイくんだろうなぁ。
むくり、と起き上がって周りを見渡せば、本を読んでいたらしいファイくんと目が合った。いつものにこやかな笑顔で「起きたー?」と一言。それに軽く頷いて姿の見えない2人と1匹のことを尋ねれば、夕飯の買い出しに行っていると教えてくれた。
ああ、成程。そういえば服とか買いに行った時は食料品は全く買ってなかったもんね。…あれ?でも何でファイくんは一緒に行かなかったんだろう?彼がいた方が買い物は捗ると思うんだけど。


「だって緋月ちゃんが起きた時に1人きりだと寂しいでしょ?」
「びっくりはするだろうけど、子供じゃないんだから…」
「えー?本当かなぁ」


クスクスと笑うファイくんはとっても楽しそうだけど、僕は全く楽しくないよー!確かに彼の方が年上だろうけども!それでも1人で留守番も出来ないような子供と思われるのは不本意だ。納得いかなーい。
むぅ、と頬を膨らませてもどこ吹く風。反省の意を示す所か、「そういう所が子供っぽく見えるんだと思うけどなぁー」とまたもや笑っていらっしゃる…!てか、頬を膨らませて怒ったらそりゃ子供扱いされるよ僕の馬鹿ー!!!


「うー…」
「ほんと緋月ちゃんって可愛いよねぇ。黒りんにはもったいないよ」
「へ?」


頭を抱えて唸っている所に降ってきた言葉。思わず顔を上げれば、真剣な顔をしたファイくんがそこにいた。夕日に照らされている彼は―――少しだけ、ドキッとしてしまう程にカッコ良くて。
何か言わなくちゃ、と思っているのに何も言葉が出てこない。お互いに何も言わない静かな空間がどれくらい続いただろう。数分、いや数秒かもしれない。だけど、それでも僕にはとても長い時間に思えて仕方なかったんだ。
そしてその静寂を打ち破ったのは、目の前でやんわり微笑んでいる彼。


「オレね、ずっと緋月ちゃんが好きだったんだよ」


静寂は打ち破られたけど、更なる爆弾を落とされました。あれです、静寂再び。でもさっきと違うのは、徐々に熱が上がってきていることだ。
言葉の意味を噛み砕いて、理解して、その途端に這い上がってくる熱を冷ます術を僕は知らない。こんな風に笑うファイくんを、僕は知らないんだよ。
予想もしていなかった言葉に僕は何も返せずにいた。ありがとう、とか、ごめんね、とか言う言葉はたくさんあるだろうに、喉が震えて言葉を発することが出来ない。そんな僕を見兼ねたのか、ファイくんは苦笑気味に「ごめんね」と呟いた。
どうしてキミが謝るの、何も悪いことをしてないキミが…どうして。


「びっくりさせちゃったでしょ?本当は言うつもりなかったんだけど、あんまりにも可愛い顔するもんだから」
「で、も…ファイくんが謝ること、ない」
「……ね、緋月ちゃん。1回だけ、ギューッてさせて?」


それでケジメ、つけるから。
真剣な顔でそんなことを言われたら断れないじゃないですか。コクリ、と頷きを返せば、壊れ物に触るように優しく抱きしめられた。背中に回る腕も、強さも、香りも、…何もかもが彼と違う。
ごめんね、キミの腕の中で想うのはやっぱり黒鋼くんのことだけだ。


「ファイくん、…ごめんね」
「謝らないで。ありがとう、聞いてくれて」


そう言って離れていったファイくんの綺麗な蒼の瞳には、薄らと涙が滲んでいた。
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