黒の同僚
「セバスちゃんの過去は気になるけど…アンタを始末しておかないとね?」
「……」
「ようやく思い出したわ。穢れた一族、ロシュホール家…ずいぶん昔に殺されたと聞いていたけど、まさか本当に生き残りがいたとはねぇ?アリスちゃん」
「ッ!」
「ゴホッ…ロシュホール…?」
「悪魔のアナタなら聞いたことくらいあるデショ?罪を犯した一族の名を…」
「ええ、詳しくは知りませんが…最大の禁忌を犯し、抹殺されたと」
side:セバスチャン
ロシュホール…遥か昔に聞いた覚えがありますね。父親、母親、そして幼い少女の三人家族。ほとんど人前に出てくることはなく、何処か深い森でひっそりと生活していたと。
聞いた所によると、何者かに襲撃を受け一家は全員殺されたそうです。…けれど、幼い少女の遺体が見つからなかった。おびただしいほどの血液は室内にあったのに、遺体だけがひっそりと消えていた。
私が知っているのはこんな所。正直、あまり興味がなかったので…何故穢れた一族と呼ばれているのかは存じません。どんな禁忌を犯したのかも。
「消えた幼い少女。穢れた一族の忌まれし子供。…アタシ達、死神はアンタを血眼になって探してたのヨ」
「へえ…でも見つからなかったのでしょう?数百年もの間」
「そうね、でも今日見つけることが出来たわ。わからないはずよねぇ?人間の姿に化けてたんだもの、しかも男。気配すらも完璧に隠すなんて」
クロードから感じていた不思議な気配。その正体はコレだったんですね。本来の姿を隠していたのなら、靄がかかったようになるのも頷けます。
「ずいぶん興味深い話ではあるけれど、その少女が私である証拠は?」
「ンフッその奇妙な死神の鎌(デスサイズ)、その血のように赤い髪…まさにアリス・ロシュホール。見間違えるはずもないわ、嫌って程に写真を見せられたんだから」
「そう…じゃあもう隠しても無駄ってことね。ま、お尋ね者になってるだろうとは思っていたけど」
「死神の前で正体をバラした度胸、勇気…それは認めてアゲル。でもここで始末しておかないと、アタシの首がなくなるし」
どうやらこの死神は、クロード(…と、呼んでいいのかはわかりませんが)を殺すつもりのようですねぇ。
そう簡単に殺されるような人ではないでしょうが、相手は曲がりなりにも"神"と呼ばれる死神が相手。強さからいえば、かなりのモノだ。死神の鎌(デスサイズ)は厄介ですし。現に私の服も、彼女の服もボロボロになってしまってますから。
「どうするんです?」
「うん?どうするも何も…向こうはあたしの命を刈り取るまでは、絶対に納得しないでしょ」
「…差し上げるんですか?その魂を」
「まっさか。こんな所で死ぬわけにはいきませんよ。セバスに嘲笑われるのも勘弁だしねぇ」
「そうですね…無様に死んだら、笑って差し上げます」
「くくっやっぱりあたしは、あんたのそういう所が嫌いだ」
「お褒めの言葉、ありがとうございます」
全くこの人は面白い人だ。見ていて飽きることはないですね。不思議な気配と雰囲気を持ち、何かが私を惹き付けてやまない。どのように生きていくのか…悪魔の私がこんなことを思うのはおかしいかもしれませんが、行く末を見届けたくなります。
「それでは始めましょうか、アリスちゃん。手始めに…アンタの大切な者を奪ってあげる。絶望するといいわ!」
ニヤリと笑みを浮かべた死神は、その場から姿を消した。
「あたしの、大切な者?―――まさかっ!」
「そのまさかでしょうね」
「っあの変態…っ!!!」
やれやれ…とことん趣味の悪い死神のようですね。クロードの絶望に歪んだ、怒りに満ちた表情を見て楽しむつもりでしょうか。決して楽しいものじゃないと思うのですが。…まぁ、悪魔の私が言えることではありませんけどね。
けれど、あんな死神にクロードを絶望の淵に追いやられるのは…非常に気に食いません。場合によっては邪魔をしてやりますか。もちろん死神の。ものすごい勢いで死神を追いかけた、紅い女性―――その後を私もゆっくりと追いかけることにした。