灰色と特別


主もフランシス様も、狩りに出る為の動きやすい服に身を包み、今は馬の上。屋敷はものすごーーーく心配だけど!あの4人に任せて、僕とセバスも狩りに付き添うこととなった。もちろん、エリザベス様も。屋敷にお一人でいさせるわけにいかないし、何より主と一緒にいることを望む方だしね?


「セバスチャン」
「は」


主の一言でセバスは軽く周りを見渡す。…どうやら匂いで狩場を決めようとしてるみたいだ。本来なら犬の仕事ですけどね、セバスがしてることって。


「…坊ちゃん、こちらです」
「お前の執事は犬も兼用か?」
「そのようなものですよ、あれは」


セバスの案内で更に森の奥まで進んで行く僕達。しばらく進むとさっきより開けた場所に出た。此処がセバスが選んだ狩場ってトコかな。…うん、確かに色んな動物の気配がする。


「ではこの辺りで始めさせて頂きます」
「ルールは左右25メートル以内のお互いのテリトリーを守ることと、規定の高さ以下の鳥は撃たないこと…でいいですね?」
「「ああ」」
「ではただ今より、ゲームをスタート致します。制限時間は3時間です」
「ではまたなシエル!」


懐中時計を見てスタート時間を確認したセバスの言葉が、ゲーム開始の合図。フランシス様はすぐさま動いて、自分のテリトリーとされた場所へと馬を走らせていった。
一方、我が主はというと…エリザベス様も乗せていたので、降りるように促していた。簡単に応じてはくれてないみたいだけど。ま、せっかく来たんだから一緒にいたいよな。…けど、一緒に乗っていたらきっと狩りは出来ないだろうし、何より危険が伴う。どれだけ粘ろうと、決して主はエリザベス様を連れて行くことはしないだろう。
そんな時…フランシス様が駆けていった方から、発砲音が聞こえた。当然ながらセバスの耳にも聞こえていたようだね。


「「1−0」」
「!」
「さすがはフランシス様。早速一羽仕留められたようです」
「どうやら坊ちゃんでも、手強い相手となりそうですね?」


まーた余計な一言を言っちゃって、まぁ。主がムッとした顔になってるじゃんか…それを見越してセバスはいってるんだろうけど?ほーんといい性格してるよなぁ。
セバスの挑発に眉間にシワを寄せていた主だけど、一発空に向かって弾を放った。


「叔母様には悪いが、僕はゲームと名のつくもので負ける気はしないな。リジー、危ないからそこでセバスチャンとクロードと一緒にいろ」


前を見据える主の顔はとても凛々しくて、楽しそうで。それを見たエリザベス様が微かに頬を赤く染め、そしてふんわりと優しい笑みを浮かべたんだ。
アンジェリーナ様が亡くなって、しばらく元気がないようだったからね。きっと心配だったんだろう、エリザベス様は。あの方が一番可愛がっていたのは…主だったから。


「私、シエルにはもう辛い想いをしてほしくない。いつも私なりのやり方で励まそうとするんだけど、全然上手くいかないの。いつもやり過ぎて怒られちゃうし」
「大丈夫ですよ、エリザベス様」
「貴方様のその優しい心遣い、きっと主人も感じていらっしゃると思いますよ」
「ありがとう、優しいのねセバスチャンもクロードも!」


照れたように笑うエリザベス様。そう…今の主は素直に感情を表現できないから。だけどきっと、エリザベス様の優しさは…感じていてくれてるはずなんだ。
怒ってしまうのだって本当は照れ隠しで、本当に怒っているわけじゃないはずだし。だから、そんなに不安にならなくても大丈夫なんですよ?エリザベス様。


―――パーン
―――パーン


「お。5−4だね」
「どうやらゲームは白熱している様です。私達もお二人を応援しましょう」


さあ、フランシス様と我が主。勝利の軍配はどちらに上がるのか…3時間後が楽しみだ。

―――そして3時間後…


「えーっと、フランシス様は…キジ10羽、キツネ2匹、ウサギ3羽の計15匹。主は…キジ11羽、キツネ3匹、ウサギ1羽で計15匹…同点引き分け、ということでよろしいですか?」


結果を見てみると、まぁ見事に同じ数で。2人共、腕はかなりいいからね。こういう結果になってもおかしくはない。
さて…どうするんだろ?これで終わりにするのか、それとも…きっちり勝敗をつけるのか。…つけるんだろうな、目の前で火花を散らしてるし。負けず嫌いの方々だし。


「では勝敗は午後の部で…ということで」
「いいだろう」
「問題ない。…しかし、狩場を荒らしすぎたな。午後は場所を変える」
「ああ…」


…?セバスが此処に来た時と同じように、何かの匂いを探してる…?


「大丈夫ですよ、侯爵夫人。まだまだ大物が隠れております」


…成程。警戒しておくかね。


「それではランチに致しましょうか。今日のメニューは、ステーキとキドニーパイ、サーモンサンドウィッチでございます」
「ルールも決まったことだし、食べましょっすっごくいい匂い…」


フランシス様と主の間に流れる空気を払拭しようと、エリザベス様が明るい声で2人に声を掛けている。
が、そこに。フッと暗い影が降りてきた。エリザベス様の後ろに立っていたのは、恐らくランチの香りに誘われて来たであろうクマ。フランシス様が、主が…彼女を護る為にそれぞれ動いた。


「きゃあああっ」
「リジー!!」

―――ダァンッ

「…クロード」
「わかってる、任せろ」


1発の発砲音の後に、ぐらりと主達の方に傾くクマの体。
動きの止まったクマに一瞬、安堵の表情を浮かべた2人だったけど…倒れてくるクマにまた表情に恐怖が滲み始める。…大丈夫。2人に怪我は負わせないから、絶対に。


「ハッ!」


クマの腹に蹴りを1発。そのままクマは後ろに重心を移し、逆らうことなく大きな音を立てて倒れていった。


「お怪我はありませんか?主、エリザベス様」
「あ、あぁ。僕もリジーも無事だ…クマを撃ったのは、叔母様か…」
「ええ」


そう、僕達の視線の先にいたのは猟銃を構えているフランシス様。銃口から硝煙が立ち上り、さっきの発砲はこの方だというのがよくわかる。
一瞬、僕達の間に流れる沈黙。けれど、それはすぐに主の言葉によって破られたけどね。


「16−15。どうやらゲームは、僕の負けのようです。叔母様」
「…フン。私に勝つなど10年早い。…だが、その身を挺して我が娘を守った度胸だけは、誉めてやる。そして恩にきる」
「!!」
「さすがは我が息子になる男だ、シエル・ファントムハイヴ卿。さぁ、ゲームは終わりだ。帰るぞ」


狩り勝負を終え、帰路に着く僕達。セバスは最後に捕らえたクマを抱え、僕は2人の猟銃と撃ち落した動物達を抱えて(血みどろだから、ちゃんと袋にいれてるけど)。
今日は特別な日だ。きっとセバスが腕によりをかけて調理をするんだろう。このでかいクマだけは…どうするのかわからないけど。…屋敷の敷物にでもするのかな。これだけでかいんだし?
そんなことを考えていると、前を歩くセバスにフランシス様が銀食器(シルバー)を差し出しながら、何やら声を掛けていた。


「…おや。私としたことが大切な銀食器(シルバー)を忘れるとは…」
「全くだ。クマの脳天に忘れていたぞ。それを倒したのはお前だな?私の弾丸は外れていた。娘の危機に手元を狂わすとは、私も歳をとったものだ。だが、主に華を持たせるのが執事の役目だろう?何故、私に勝たせるようなまねを?クロードも気づいていたのだろう」


チラリとこちらにも視線を向け、理由を尋ねてきたフランシス様。
ああ…やっぱり気づいてたんだな。セバスがクマを倒したことを、弾丸が外れていたことを。セバスとも軽く視線を交わし、2人の傍に歩み寄った。答えを述べる為に。


「我が主は突出したゲームの才能を持っています。それ故に『負けるわけがない』と、少々ご自分の力を過信している節があるのです。しかし時には、目標に向かい努力する謙虚な姿勢も持って頂かなくてはなりません…。そうでなくてはいずれ、足元をすくわれるでしょう。主が目指す場所は、生易しい場所ではないから」
「勝手を申すようですが…侯爵夫人には、我が主の模範となって頂きたいのです」
「つまり私は利用されたということか」
「決してそのようなことは…」
「我が主はまだ"子供"…それと同時に"当主"でもある」
「そんな坊ちゃんを戒めて下さる"大人"が、今の坊ちゃんには必要です」


主の傍には模範となってくれる"大人"がいないから。僕達は人間じゃないし、フィニ・メイリンさん・バルドさん達にも無理だろう(タナカさんはわからないけど)。そもそも…使用人が主の模範になんて、なれるわけもないんだから。…アンジェリーナ様も、もうこの世にはいない…。
あの方がこの世界で生き残っていく為には、過信しすぎるのは良くないんだ。こんな所で死ぬわけにも、いかないから。


「クロードはともかく、お前…いやらしい顔のわりにマトモなことを言うな」
「…くく…っ」
「……。(そんなにいやらしいですかね)」
「主人のためなら、主人を痛い目に遭わせて戒めるのも仕事のうちか?」
「私は…」
「僕は…」
「「あくまで執事ですから」」
「主人のためになる最良の事をさせて頂いたまでです」


セバスの考えてる"主人のためになる最良の事"っていうのが、プラスなのかマイナスなのかはわからないけど(サディストだから)。…でもま、それも彼の中にある美学の1つなんだろうから?主を悪いようにはしないだろうけど。あんまりにもひどい時には、僕が止めればいいわけなんだしね。
時には必要なんだ、主にも。"負けた"っていう感情が。それを知ってもらって、悔しがって、次は勝てるように…ソコへ辿り着けるように頑張っていただかないと。


「(そのために僕らを使うのであれば、何でもしよう。主の望みを叶える為に)」


さーてと!考えるのはここまでにしよう。屋敷も見えてきたし、狩りも盛況だったし…戻ったらまず夕食の用意だな。フランシス様とエリザベス様も来ているんだし、いつも以上に頑張らないといけないな。大切な日でも、あるんだし。
…嫌な思いでしかない日でも、塗り替えられるくらいに笑顔にさせたい。忘れてはいけない出来事であろうとも、せめて今日だけは―――


「……こんな感傷的になるなんて。この間から僕はどうかしてるな…」


―――ガチャッ

…そういえば、4人を屋敷に置いていっちゃったけど大丈夫だったかな…。破壊されたような跡はないけど、屋敷内はどうなんだろ。


「おかえりなさーーーいっ!!」


想像していたようなボロボロにはなっていなかったけど、その代わりと言うか…フィニ達が怪我でボロボロになってました。
バルドさんなんか腕と足を骨折してるみたいだし(きっと何か爆発させたんだろーな)フィニとメイリンさんもいたる所に、包帯や絆創膏を貼っていて。
入った瞬間は何事かと思ったんだけど…よーく辺りを見回してみると。主の好きな白薔薇や色紙で作られた輪っかで飾りつけられて、テーブルの上にはケーキと思われるものなどが所狭しと並べられてる。きっとフィニ達が主のことを思いながら、ね。
…ああ、そうか。中庭の冬薔薇が刈り取られてたのも、リビングでティーセットが破壊されてたのも、キッチンで爆発が起きてたのも…この準備の為か。


「ほらっ皆で作ったんですよ!!」
「フン、先を越されたな。今日はそれを言うために来たんだが」


セバスと主の後ろで、この現状を睨みつけるように見ていたフランシス様が主にそっと歩み寄る。


「13歳の誕生日おめでとう、シエル。そして皆。私の娘と息子をこれからも頼む。」


そう言って主の頭を撫でるフランシス様の顔は、とても優しくて…愛に溢れていた。
フランシス様の言葉に目を輝かせるエリザベス様。静かに微笑み、しっかりと頷くセバス。ただただ、嬉しそうに笑うタナカさん、フィニ、メイリンさん、バルドさん。もちろん僕も当然のように頷いた。


「ありがとう、ございます」


久しぶりに見た。主が…シエル様がこんなに嬉しそうに笑う顔を。
そう…彼の笑顔が好きで、ずっと笑っていてほしくて最期の時まで護ろうって思ったんだ。今の主はあの時のように無邪気な笑顔で笑わなくなってしまったけど、それでも本質は何も変わらない。だからこそ、僕はあの方の傍にい続ける。僕を必要としてくれるからだけではなく、きっと―――


「主の人柄に、本質に…惹かれたから」


使用人やエリザベス様、そしてフランシス様に囲まれてどことなく嬉しそうにしている主。その表情を見て、僕も自然に笑顔になる。嬉しくなる。大切なシエル様が笑ってくれているから。だからこそ、僕も笑える。本当に、本当に嬉しいから笑顔になれるんだ。こんな穏やかな気持ちでいられるのもね。
ふと周りを見渡してみると、いつもは影のように控えている黒い完璧執事がいないことに気がついた。…一体、何処に行ったんだ?(見た目は悪いけど)料理もあるし、飲み物も用意されてる…厨房でパーティーの準備をしてるとは思えないけど。でもあいつがこの状況の中、行く場所として挙げられるのは厨房だけ。


「(何か気になるし、行ってみるか)」


皆がワイワイと楽しんでいる中、僕はそーっと広間を抜け出した。





「…やれやれ。どうやらコレは無駄になってしまった様ですね」


厨房の扉は薄く開いていて、その中からセバスの声が聞こえてきた。やーっぱり此処にいたのか。
そっと覗いて見ると、珍しく何かを口に入れているセバスの姿。悪魔にとって人間が食べる物は、栄養にならないし…食べる必要もない。だからあいつが何かを食べる所なんて、一度も見た事がない。美味しいと感じることもないみたいだしな。


「嗚呼…人間という生物は本当に理解しがたい。こんなものが、美味しいなんて」


呟きながらチョコレートがついた指を舐める様は、実に妖艶で。そりゃフランシス様から"いやらしい顔"だって言われるわけだ。確かにいやらしい。ただチョコレートを舐めてるだけだっつーのにさ。
さて。そろそろ声をかけるかな。


「セーバス!」
「クロード…皆さんと一緒にいたのではないのですか?」
「あんたが急に消えるから、少し気になっただけだ。…それより、そのケーキ捨てんの?」


生クリームとイチゴで彩られたケーキ。チョコレートで作られたハットには、薔薇とステッキの飾り。どこをどう見ても、主のために作られたケーキなのに。
セバスはソレを彼の元に持っていこうとしないし、そんな素振りも見せない。むしろ…これはもう要らないという感じかなぁ?もったいない。すごい美味そうなのに。無性に食べたくなって、クリームを一掬い。うん、やっぱり美味いわ。


「…クロード?行儀が悪いですよ」
「いいじゃん。どうせ、僕とあんたしかいないんだ…コレ、食ってもいい?」
「え?」
「主の元に持っていかない所を見ると、捨てるつもりだったんだろ?捨てるんなら僕にちょうだいよ」
「ええ、どうぞ。今お皿を用意しますね」


お皿とフォークだけを用意するのかと思いきや、どうやら紅茶も用意してくれるみたいで。手伝おうかとも思ったけど、今回はセバスに甘えるとしよう。別に主にやってもらってるわけでもないし…たまにはそういうのもいいよな。セバスが淹れる紅茶はめちゃくちゃ美味いし。何より落ち着くから。
しばらく待っていると、紅茶の良い香りがキッチンを包み始めた。そしていつの間にカットしたのか…お皿に載せられたケーキと湯気が立っているカップが目の前に置かれる。


「どうぞ。食べてください」
「サーンキュ」

―――モグモグ…

「気になっていたんですが…何故貴方は、人間の食べ物を食べるのです?悪魔も死神も…好まないし、必要のないことでしょう」
「んー…僕の場合、嗜好品って感じかなぁ。睡眠もだけど」
「では栄養摂取の為に食べてるわけではないのですね」
「そりゃあね、人間じゃないし」


セバスと一緒で、僕の中途半端な身体も人間が必要とする栄養は要らない。悪魔は生気や、魂がエネルギー源だし。死神は…よく知らないけど。だから僕にとって、食事自体は嗜好品。摂る必要性はないけど、美味い・不味いの味覚は持ってるから。だから美味い物には手をつけてみるし、興味のない物には見向きもしないってわけ。
その点、セバスの作るものは美味いからね。結構積極的に食べてる気がするな、与えられれば。


「なくても生きていけるけど、どうせココにいるんなら…とことん楽しみたいからさ」
「聞けば聞くほど、不思議な方ですね?貴方は」
「そうかねぇ?不思議も何も、僕には基準がよくわからない」


黙々とケーキを口に運んでいると、ふっと視界が薄暗くなった。疑問に思って目線を上げてみたらセバスのドアップー。…何だ?この状況。こんなに近づく必要性はないと思うんですが。


「セバス?この状況について、簡潔に説明してくんね?」
「貴方を襲おうかと思いまして」
「ほーう?やっぱり、お前男に興味があったのか…」
「おや、貴方は男性ではないでしょうに。変なことを言う」


うん、確かに。確かに僕は男じゃない。だからセバスが僕を襲っても変ではないし、セバスに男色の気があるわけでもない。それは納得できますけども!だからといって、なーんで僕が襲われにゃあかんのだっ!!!
そもそも悪魔ってのは、"愛"とかそういう感情を持っていないっていうか…興味がない生き物だったはずじゃないのか?!この際、死神を愛した僕の父親のことは忘れるっ!


「何をブツブツ言っているんですか?」
「言いたくもなるわぁっ!さも当然みてーな顔で、更に近寄るなっつーの」
「…本当に不思議なものだ。元来、私達悪魔は"愛"などに興味なんてなかった…ですが、貴方(クロード)という存在が気になって仕方がない」
「気に、なる…?」
「ええ。それはもうムカつく程に」


笑顔で言うことじゃねーだろ。絶対に。


「からかって遊びたいなら…人を選びやがれ。僕はごめんだ」
「からかってなどいません、私だってそんなに暇ではありませんしね」
「本気で、言ってるとでも?」
「遊ぶつもりも、騙すつもりもありませんよ。…言ったでしょう?私は嘘をつかない、と」


ニヤリと妖しく笑う瞳。ゆっくりと弧を描く口元。
な、んなんだよ…一体。嘘をつかないのは知ってるけど、そう簡単に「はい、そーですか」なんて納得できない。そもそも何でいきなりそうなったんだっつーの。てか、まずコレは何だ?告白なのか?それとも違うのか?


「ハッキリと言わないとわからないんですか?貴方は頭の回転の速い方だと思っていたのですが」
「う…うるさい…」
「貴方を愛していると言ってるんですよ。…癪ですけどね?」
「お前って…とことんムカツク奴だな…っ」
「褒め言葉として受け取っておきましょう」


褒めてない、褒めてない!!!むしろ貶してるしっ


「ぼ、くは…セバスに興味なんてない。一番大切なのは、シエル様ただ一人」
「ええ、知っています。けれど、だからこそ…貴方を奪い去ってしまいたい」


耳元で囁かれる低い声に、情けないけどドキッとした。あまりに妖艶で、そのまま身体を預けそうになってしまうほどに。そんなの、セバス(悪魔)の思う壺だから…絶対にしてやらないけど。

じっと見つめられる紅茶色の瞳。頬を滑る指先。

ああもう!その仕草がムカつくくらいに様になってて、本当にムカつくくらい鼓動がうるさい。


「今はそれで構いませんよ、坊ちゃんが一番でも…ね?」
「どう、いう…」
「貴方を…クロードを誰かに渡すつもりなどない。必ず、この手に捕らえて差し上げます」


薄暗い室内の中、冷たい唇が僕の頬に触れた―――
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