灰色と女王の命
こっそりと会場に戻ってくると(セバスは気づいてたっぽいけど)、何故か王子が泣いていた。それも思いっきり。んで、主に抱きついてる。
「ミ゛…ミ゛ーナ゛ああぁ」
「面白いくらいに号泣してんな…」
「クロード殿…」
「お疲れ様、アグニさん。…これで良かったんじゃないか?」
「…ええ。本当に英国に来て良かった。王子も私も、最高の友人に出会うことができました」
「…それって僕も入ってるの?」
「はい、もちろん!お二人には本当に、たくさんお世話になりました」
「友人、ですか。そんな事を人間(ヒト)に言われたのは初めてです」
そりゃ悪魔だからねぇ、セバスは。…なーんて。僕も同じようなもんだから、そんな事言われんの初めてなんだけどさ。友人なんて…何処の世界にいても、なってくれる物好きな奴なんていなかったし。今まで欲しいって思ったこともなかったけど。
だけど―――こうやって実際に言われてみると、何かくすぐったいけど…嬉しいかもしれない。うん。
「いつまでも泣いてるんじゃない!」
「王子って確か、17歳って言ってなかったっけ?」
ズビズビと鼻をすすりながらいまだに泣いている王子に、呆れた声音で声をかける主。それを更にソデで拭いてるもんだから、見かねた主がポケットからハンカチを取り出そうとしたら。
カサリと音を立てて、手紙が出てきた。…あ、そういえば主のポケットに手紙をいれてたっけ。あの側近の方が。報告するのすっかり忘れてたわ。
「…!これはいつの間に?!」
「あぁ、先程女王陛下の従者の方が入れていましたよ」
「何故言わない?!」
「聞かれませんでしたので」
「ごめん、主…僕も報告するの忘れてた。王子に遮られちゃったし」
「チッ」
舌打ちをしながらもカサカサと手紙を開いていく。中から出てきたのは…陛下からの手紙と、チケットらしき物が3枚。
「ん?チケット?」
「うん、そうみたいだね」
「クリスマスプレゼントじゃないですか?ぼうやへの」
「殺すぞ」
からかうように"ぼうや"と言ったセバスを睨みながら、半ば押し付けるように手紙を渡された。…ま、いいけどさ。
そのままスタスタと歩き始めたから、後を追って隣に並ぶ。すると、ボソリと聞こえる主の呟き。
「…疲れた。屋敷に戻ってゆっくりお茶(ハイティー)が飲みたい」
「かしこまりました。アッサムの特級茶でご用意致しましょう。夕食は私が腕によりをかけて、最高のカリーを」
「冗談はよせ。しばらくカリーの顔は見たくない」
「あははっそうだねぇ」
「クス…御意」
ここ一週間は屋敷にずーっとカリーの匂いがしていたし、今日も食べたからね。確かにしばらくはカリーは食べなくてもいいかも。
そんな話をしながら歩いていたら、ふっと思い出したようにこっちを見上げて口を開いた。
「どしたの、主」
「そのチケットは何のチケットなんだ?」
「ああ…そういえば見てなかったね。えっと…」
「サーカス…ですね」
「ノアの方舟、ねぇ…」
God save our gracious Queen,
Long live our noble Queen,
さあさあ紳士も淑女もお集まり
移動サーカス「ノアの方舟」一座のおでましだ!
冬の寒さも切り裂きジャックの暗いニュースも忘れましょう
On thee our hopes we fix,
God save us all.
「さあ、世紀のショーの幕明けだ!」